33.籠(かご)作り

 水曜日、朝。

 今日も教会のゴーンという鐘の音で起きる。


「えへへ、エド、すきぃ」

「ああ、ミーニャ、おはよう。俺も好きだよ」

「にゃはあ、うれしい」


 ミーニャはかわいい。

 俺に懐いている。猫みたい。


 今日は雨みたいだ。


 朝ご飯を食べたら活動開始する。


「今日は昨日漁で使ったし、籠作りをしようと思う」

「あ、そうだね」


 昨日漁で使ったのは水浸しだし、漁用にしようと思う。

 減った分は新しく手に入れないといけないけど、この際、作ってしまおう。


 昨日、つたを集めてもらった。


「あ、そうだった。ラニア迎えに行ってくる」

「はい、はーい」


 ミーニャと迎えに行き、ラニアを連れて家に戻ってくる。


「あのメルンさん、籠の作り方ってわかる?」

「籠くらいなら、作れるわよ。どんな籠?」

「こういうの」


 漁で使った籠を見せる。


「見本があるならそっくりに編めばいいだけだから」

「それが、結構難しい」

「そうかもしれないわね。ふふ」


 なかなか余裕そうなメルンおばさん。


「あ、そうだ。ついでにお隣にも声を掛けてくる」


 家を出て隣の家へ。


「ルドルフさん、クエスさん」

「はーい」

「あの、今日って仕事、あります?」

「いやあ、こういっちゃなんだけど、今日もない。面目ない」

「いやいいんです。あの、籠を編むんですけど、一緒にやりませんか。完成したらお金になりますよ」

「ほほう、どれくらい?」

「一個で銀貨一枚くらいですかね」

「そうかい。俺、やってみるよ」


 両人を連れて家に戻る。


 先生はメルンさんが担当。

 昨日集めてきた蔦を使って、みんなで編んでいく。


「なかなか難しい」

「形を整えるのが、大変ね」


 そんなことを言いながら、作業をしていく。


「できた!!」

「なかなか上手だね」


 メルンさんと一緒に編み始めて、最初に完成したのはミーニャだった。

 すぐにラニアも完成させる。

 ルドルフさんとクエスさんはちょっと遅れ気味。


「こっちも完成」

「ええ、できたわ」


 みんなの完成品が出揃う。

 似たような普通の30センチぐらいの籠ができた。

 みんな同じというのがポイントなのだ。


「これね、こうやって」


 俺が重ねていく。


「同じふうに作ったから重なるんだ。使わないときに場所を取らない」

「なるほど」

「すごい」


 形がいびつなのは、最初だし仕方がない。

 でも回数をこなせば、もっとうまくなるはず。


「蔦は街道の南側、川の手前の平原でいっぱい生えてます。取って来ればいい」

「確かに」


 材料費はタダだ。編む作業は2時間ぐらいか。スプーンと大差ない。


「木のスプーンだと高性能なナイフがないと辛いんですけど、これなら器用ささえあれば、できる」

「おおお、すごいぞ、エド君」


 ルドルフさんが褒めてくれる。

 あと必要なのは根気だね。

 ぐるぐる巻いていくんだけど、かなりの回数が必要だ。

 飽きっぽいと難しい。


「実をいうと、まだ売れるかはわからなくて」

「いえ、籠でしょ。売れるわ」


 メルンさんが言う。


かめとかじゃ入らないものもあるもの。パンだって籠のほうがいいわ」

「なるほど」

「それにね、籠って壺よりずっと軽いのよ。女性ならなおさら重いのより軽いほうがいいわ」

「確かに」


 素晴らしい考察だ。さすがいいとこのお嬢様、メルンさん。


「最初の作品は、売れるかドリドンさんと相談してみましょう」


 ラニアが提案してくれる。


 ということでみんなで並んでドリドン雑貨店に来た。

 籠を持っている。


「みなさんお揃いで。なにかお買い物ですか?」


 ドリドンのおじさんは、籠を持っているので買いに来たと思ったのだろう。


「実はこの籠が売れないかと思いまして。相談に来ました」

「ふむ」


 俺の籠をドリドンさんに渡すと、ひっくり返したり回したりして品質を確認している。


「そうですね。出来は悪くはないです。販売額は銀貨一枚でどうでしょう」

「はい、いいと思います」


 俺は同意する。

 2時間で一個は出来る。手取りは一個で銅貨八枚。

 悪くはない。


 スプーンは小さいので単価が安かったけど、これは結構大きいので、値段もする。

 苦労は同じくらいだと思うと、スプーンは面倒かもしれない。

 代わりにスプーンを専業で作る人が少なくて、競争相手がいないという利点はある。

 だからどっちも捨てがたい。


 最終的には、需要がないと作っても売れなければ意味がないもんね。


「えっと1、2、3、4、5、6個かな?」

「はい」


 俺、ミーニャ、ラニア、メルン、ルドルフ、クエスで6人のはず。

 ギードさんは家でスプーンを作ってる。


「じゃあはい、6掛け銅貨八枚、おまけして銀貨五枚ね」

「ありがとうございます」


 前金だった。

 スプーンも前金でもらっている。

 お茶のときは取引の信用がなかったし、ジャムは余ったら腐ってしまう生鮮食品扱いだから後払いなのだと思う。

 ジャムは金額も高いのもあるので、先渡しが難しいのもある。


「もっと作ったら買い取ってくれます?」

「ああ、最近儲かったからな、もっと買い取れるぞ。余っても例のスプーンの雑貨屋に押し付ければ、買ってくれると思うし」

「わかりました」


 とりあえず、買ってはもらえることが確定した。

 籠は農村とかからの輸入品が多いので、それを買うともうちょっと高い。

 地産地消というか輸送コストと中間マージンがない分、安く売れるし、俺たちも買い取り価格が高くなるんだと思う。


 現に元から売ってる籠は俺たちの籠より上質だけど高い。銀貨二枚。倍の値段だった。


 これならおっちゃんも、買ってもらえそうで、ホクホク顔だ。


 雨なので家に帰り、引き続き籠を作った。

 ミーニャと俺の分は家で使うために残す。


 あとはみんなで作ってまとめて一緒に売ればいい。

 作業は一日続いた。


 何個も作ってくるとコツも掴んでくる。


 このままならそこそこの収入になりそうだ。

 ルドルフさんとクエスさんも無収入ではなくなる。


 メルンさんも治療する人がいないときに作ってくれるらしい。

 これでうちの収入ももう少し安定するようになりそうだ。

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