14.体操と水浴び

 また朝になった。水曜日。


 ゴーン、ゴーン、ゴーンと三の刻、朝六時を告げる鐘が鳴る。


「むにゃむにゃ、にゃああ、エド、おはよう」

「ああ、おはよう、ミーニャ」

「にゃはあ、エド、すきぃ」


 ミーニャはそう言って抱き着いてくる。


 なぜこんなに好かれているのか、いささか不明だけど、悪い気はしない。


 トイレ、洗顔、髪を適当に直して、ご飯を食べる。


 今日の朝ご飯のメニューはこちら。

 イルク豆とカラスノインゲンの水煮。

 ホレン草のニンニク炒め。

 フキとサトイモの塩煮。

 タンポポサラダ。

 犬麦茶。


 やっぱり朝はサラダを食べたい気分だった。


「うまいな、うん」


 ギードさんも出勤しなくなったので、余裕がある。


「美味しいぃ」


 ミーニャも相変わらず。


「「ごちそうさまでした」」


 ご飯も食べたし活動開始だ。


「ギードさん、ミーニャ、体操をしようと思う」

「体操?」

「うん」


 ということで体操だ。

 この世界にも、準備運動的な言い回しがあった。


 外に出て、気分はラジオで体操だ。


「腕を回します」

「腕、回す」


 ぐるぐるっと腕を回す。


「肩から回します」

「肩、回す」


 ぐるぐるっと肩から全体的に今度は回す。


「腕を開いたり閉じたり」

「腕、開く」


 腕をやったり足を動かしたり、それから腰。

 腰、重要。


 そうやって体操をした。


「これは健康に良さそうだわ」


 とはメルンさん談。


 どんどん現代知識チートで健康になろう。

 ただし家族、知り合い限定。

 俺は為政者いせいしゃではないので、あずかり知らぬ人は、本当に知らない。


「さて、ではいってきます」

「いってきまし」


 ミーニャを連れて、ドリドン雑貨店に向かう。


 家は城門ちょろっと入ったところで、雑貨店は城門の目の前だから、すぐだ。


「ドリドンさーん」

「どうした、エド、ミーニャ」


「犬麦茶、というものを持ってきました」

「どれどれ、見せてみろ」

「はい。ミントティーは好き嫌いがあると思いまして」

「なるほどなぁ」


 バッグから犬麦茶を取り出す。

 一応としてアイテムボックスは秘密にしてある。


「いい匂いがするな」

「でしょう」

「一杯飲ませてもらってもいいか?」

「もちろんですよ」


 お湯を沸かす、いやあれ、お湯が出る魔道ポットだ。

 一瞬でお湯だった。


「便利ですねそれ」

「だろ」


 ティーポットに犬麦茶を入れて魔道ポットからお湯を移す。

 すぐにいい匂いが広がっていく。


 朝から買い物に来たお客さんたちも興味津々だ。


「あら、いい匂いがするわ」

「なんだろうね、いい匂いだけど、知らないわ」

「あらあら、また新作かしら」


 そうですよ、新作です。


「お客さんたちにもどうぞ、初めて見るものなので、試飲は必要だと思う」

「おっ、そうだな、エド、わかった」


 ドリドンのおじさんがまずは自分たちの分を木のコップに入れる。


 俺はちょっと暇だったのでドリドンさんを鑑定してみる。

 比較対象は必要だと思った。


【コランダー・ドリドン

 36歳 オス O型 人族

 Dランク

 HP352/358

 MP198/205

 健康状態:A(普通)


 あれ、大人でもそれほどHPとか高くないんだ。

 MPもこれならミーニャのほうが多い。

 でもDランクだ。ちょっと強いのかもしれん。

 あとコランダーだったんだな、おじさん。


「う、うまい」


 そういっているうちに、一口飲んだドリドンのおじさんは、うれしそうに、親指を上げてグッドを示した。


「みなさんもどうですか、時間があれば、ぜひ試飲をどうぞ」

「あらやだ、くださるの、いただくわ」

「うれしい、私もくださいな」


 こんな感じでみんなもらっていく。


 ここは城門前の通り沿いなので、出勤で城内に入っていく人も通るため、人だかりができてきた。


「結構、試飲で出てるけど? いいのか?」

「いいですよ、たぶん大丈夫でしょう」

「そ、そうか、ちょっとくらい薄く出すか」


 ドリドンさんが慌てている間にも試飲は増えて、犬麦茶が商品として売れていく。

 奥さんも出てきて、今は手伝ってくれている。


 これなら販売は大丈夫そうだ。

 特に心配はいらない。


「ハーブティーはちょっと苦手だったけど、これはおいしい」

「こっちも、どっちも好きだな。迷っちゃうな」

「水かお湯しか飲んでなかったからな、俺らは」


 まあ、そんな感じで、大盛況となった。



  ◇◇◇


 水曜日、午後。


「あのね、エド、ちょっと水浴びしに行こう」

「お、そうだな」


 ぐへへへ。


 転生知識取得前の俺はよくこんなシーンを平気で過ごしていたな。


 トライエ市の南側には北西から東に向かって川が流れている。


 城門前の街道を横断して南側へ入り、しばらく歩くと川に出る。


「あれ、エドどうしたの?」

「ああ別に、俺が周りを警戒していてやるから、早く水浴びしちゃいな」


 俺は変態ではあったが、紳士だったのだ。


「わかったっ」


 無邪気に返事をしたミーニャが服を脱ぐ、衣擦れの音がする。

 お、おう、改めて背中で聞くと、なんだかなまめかしいな。


 俺も反対側を向いて、シャツとパンツを脱ぐと、ざぶざぶ川に入っていく。

 ここの川は川幅30メートルくらいか。


 すぐそこは浅いので大丈夫なのだ。


 川の水で全身を洗いつつ、手で軽くこすっていく。


 スラム街ではこれが普通だけど、トライエ都市内には銭湯があり、それを利用するか、自分の家でお湯を使ったタオルで拭くのが常識らしい。

 噴水の水浴び場で洗っていたのは、昔のことという話は前にしたと思う。


 ごしごし、ごしごし。


 前世の記憶を思い出したから、前より衛生観念は高くなった。

 念入りに体を洗っていく。


 手首とか耳の後ろ、膝の裏とか、あまり洗わなかったところも綺麗にしていく。


 次に脱いだ服を持ってきて、洗う。


 シャツ、ズボン、トランクス。


 なんか汚れが流れていくのが見える。染みついてるなぁ。


 お金が増えたら、替えの服とかも欲しいかも。

 いやまて、服より防具のほうがいいか、あとは武器も欲しい。


 ミスリルのナイフは強いけど間合いが、いかんともしがたい。


 剣かなやっぱ。それとも魔法を習って、魔法剣士。


 雑魚を倒しまくってレベルアップして、ステータスを上げて、簡単には死なない肉体が欲しい。

 これはミーニャとラニアにも言えることだ。

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