12.木のスプーン
引き続き月曜日、昼前。
城門を通って外に出る。
前から思っているけど、入る人だけでなく、出る人も一応チェックしたほうがいいのでは。
犯罪者とかお尋ね者とか、出ていき放題では。
そんなことを考えながら、トライエ市街からスラム街のラニエルダへ戻ってくる。
ラニアも連れて家に戻る。
「「ただいま」」
「おじゃまします」
「あらあら、おかえり、どうぞ、ゆっくりしていって」
メルンさんが迎えてくれる。
一応、メルンさんは治療師として、なるべく家にいる方針らしいと、最近気が付いた。
いつも怪我人がいるわけではないけど、いざというときに、待機していてくれないと困る人がいる。
本日の昼食メニュー。
イルク豆とカラスノインゲンと干し肉の炒め物。
ホレン草とムラサキキノコの塩焼き。
タンポポサラダ。
ハーブティー。
ムラサキキノコを焼き出すといい匂いがした。
「いい匂い」
ラニアはすでに目を丸くしている。
そしてメニューが揃って車座に座ると、ますますラニアは驚いた顔をする。
「なにこれ……」
「なにって、これが今の食事。まあキノコは今日のスペシャルメニュー」
「前はイルク豆だけだったじゃない」
「野草の採取と、それからハーブティーの販売を始めて、ちょっとだけ干し肉が手に入ったんだ」
「あのハーブティー、あれエド君の仕業だったのね」
ラニアもびっくりである。
「ラファリエール様に感謝して、いただきます」
そして食べる。
ラニアは日曜日以外でも、ラファリエール様に簡単に感謝を捧げるらしい。
行儀正しい子だ。
「うまっ、なっ、なにこれ、美味しい、です」
頬を高揚させて、美味しいっていう顔をする。
なかなか、かわいいじゃないか。
「ほんとう、美味しい。このムラサキキノコ、信じられない」
ミーニャもご満悦。
キノコは一人ひとつ。
あっという間に食べてしまうと、もうないという悲しい顔をした。
かわいい顔で訴えても、あげないぞ。
俺だって味わいたい。
「なっ、うまっ、ムラサキキノコ、うまっ」
びっくり仰天。紫なのに美味い。
鑑定、嘘つかない。
『ラファリエール様、ありがとうございます』
こりゃあ俺も思わず、心の中で、神様拝んじゃう。
ラファリエール様が転生神かは不明だけど、他に名前知らないし。
食後にハーブティーでさっぱりさせて、一息ついていると、ギードさんが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。来た来た」
「ああ、仕事は辞めてきたよ。エド君の策がうまくいかなくても、今度は他の仕事を探すさ」
「そっか、ごくろうさまでした」
「ああ、ありがとう」
ギードさんにもハーブティーを出して落ち着いたら話を始める。
俺はすでに試作品の粗削りを終えていた。
「これが、試作第一号、スプーン」
「どれどれ」
木の枝を半分に切り、それを削ってスプーン状にする。
あとはどれだけ削って滑らかにするかの勝負だけど、市販品はかなり適当で、めちゃくちゃ滑らかなのは高級品だ。
しかも最高級品はミスリル製で、次が銀製なので、木のスプーンで最高傑作を作るような人はいない。
俺のはすでに、粗削りだけど、スプーンとして使える状態だった。
鑑定してみるか。
【木の粗削りのスプーン 食器 粗悪品】
くっ粗悪品ときたか、まあ、まだ途中だ。
「これで30分くらいかな。ミスリルのナイフだからできる」
「なるほど、これなら確かに僕でもできそうだ。こういうのは元々得意だしね」
「そりゃ、いい」
ギードさんも木を荒くカットしてから、こまごまと削り出し始めた。
かなり手慣れている。
「昔は仕事でも細かいことをしていたんだけど、今まで力仕事が多かったから、懐かしいね」
そういいながら、あっという間に使えるレベルのスプーン第一号を作り上げていた。
「すごいやギードさん」
「いんや、僕の適性を見抜いた、エド君だってすごい。ずっと下働きをしていれば、いずれ評価されて、僕も定職につけると思っていたのが甘かったんだ」
なるほどねぇ。苦労人だねえ。
エルフで体力とかないのに肉体労働して、ダメ野郎の
不器用というかなんというか。
とにかくスプーンが売れるかどうかまで含めて、お試しだから、売れるまでの工程をやろう。
俺とギードさんがスプーンを量産し始めるのを、ミーニャとラニアはじっと見ていた。
「そういえば、魔石の売り上げ分けないとね?」
「そうですね」
ラニアはあまり気にしないタイプなのかもしれない。
もしくは俺を信用しすぎている。
「銀貨五枚だから、えっと??」
「三人だとアレだし、火魔法を決めたラニアが二枚、俺とミーニャ共同で三枚でいいよ」
「そうですか、ありがとうございます」
ラニアに銀貨二枚をそっと渡す。
「うっ……」
ラニアが急に目を細めたと思ったら、泣き出してしまった。
「どうしたの? そんな急に」
「エド君が、こんなに立派になって、私もゴブリンを無事に倒せて、よかったって。本当によかったです」
「そっか」
まあ確かに、昔の俺はちょっと危うかった。
今は転生前の知識もあるから、今と比べたら、昔は未来も真っ暗という感じだった。
ラニアも心配してくれていたんだ。
「ラニアちゃん」
ミーニャもラニアと俺を心配してくれていたらしくて、背中をさすってあげている。
俺へのライバルといっても、いがみ合っているわけではないらしい。
この世界では重婚は問題ないし、ハーレムもドンと来いである。
そんな細かい禁忌はない。
みんな、なかよくしてくれるとうれしい。
ギスギス、ハーレム生活とかは勘弁してほしいもんねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます