11.魔石と冒険者ギルド

 引き続き月曜日、午前中。

 俺たちは、興奮冷めないうちに、森を抜け、草原を抜けて、スラム街に無事に戻ってきた。


「はぁぁー」

「やっと、戻ってきましたね」

「俺たちのラニエルダ」


 街のすぐ入口で、座り込む。


 そうとう緊張していたようだ。

 ミーニャの祝福、ラニアの火魔法、どちらもなかったら、苦戦していたかもしれない。

 いいパーティーメンバーを揃えてよかった。


 アイテムボックスから魔石を取り出して、再び眺める。

 大きさは3センチくらい。ゴブリンのものとしては普通サイズ。


 鑑定してなかった。


【ゴブリンの魔結石 魔石 良品】


 良品だけど比較対象がないからなんとも。

 悪いよりはいいか。


「これが俺たちが倒した証だね」

「すごいですね」

「さすがエドとラニアちゃんだね」


「そうだな、いやミーニャも頑張った」

「私、何もしてない」


 確かに一見、ミーニャは何もしてないが、俺は祝福が掛かっているのを知っていたので、ちゃんと認めている。


「それじゃあ、お母さんにヒールを教えてもらおう。いざというとき、頼りにしているから」

「う、うん、私、頑張る」


 おお、超やる気になるミーニャちゃん。純真なのは、かわいいな。


 歩いていき、ドリドン雑貨店に顔を出す。


「ドリドンのおじさん」

「なんだい、エドか。ハーブはよく売れてるよ。当分はそこそこ売れるはずだ」

「ありがとう。今日はちょっとゴブリンの魔石があるんだけど」

「ゴブリン? まさか倒してきたのか? 危ないぞ。まあいい、見せてみろ」

「はい」


 魔石を見せる。


「ああ、そうだな銀貨四枚だな。でもうちでは買取はしてないんだ。冒険者ギルドだな」

「――冒険者ギルド」

「そうだ」

「わかった。ありがとう、おじさん」


「「おじさん、ありがとう」」


 ミーニャとラニアが笑顔でお礼を復唱すると、おじさんも満面の笑みになって、送り出してくれる。

 ちょろい。



 さて、ここ一週間、城門の中には入っていないが、しょうがない行くか。

 ドリドン雑貨店は城門前なので、すぐだ。


 よく城門には旅商人の列ができていて、待たされるというお話がある。

 けれども、そこそこ田舎に属する都市トライエでは、列はほとんどない。


 今日も三組が待っているだけだ。

 俺たちはその後ろに並ぶ。


 順番はすぐに来た。


「僕とお嬢さんたちは、城門の中に用かな?」

「うん。魔石を冒険者ギルドに売りに行くの。ほら」

「ほうう、そりゃ、珍しいね。こんな子供が? お使い?」

「ううん。僕たちがゴブリンをやっつけたんだ」

「ゴブリン? この辺で?」

「そこの森のちょっと入ったところだよ」

「そうなのかい。近くにゴブリンか。上に報告させてもらうよ。一応警戒しておく」

「はい。お仕事頑張ってください」

「おお、おまえらも頑張れよ。はい通っていいぞ」


 ふう。無事通過した。

 別にやましいことはないが、緊張はする。


 門番は軽装だけど、後ろには馬を準備している騎士の格好をしている人もいる。



 城門を通過すると、景色は一転。


 ほとんどの家が二階建て、ないし三階建て。

 窓にガラスはないが、スラムだとそもそも窓がない。

 屋根はほぼ統一された赤茶の瓦屋根だ。


 ザ・ファンタジー・ワールド。

 中世ヨーロッパとはよく言ったものだ。


 ぜひ観光の際にはお立ち寄りください。なかなかの景色です。


 人通りもそこそこある。喧噪けんそうも聞こえる。にぎやかだ。

 俺のポケットには、すでに銀貨三枚も鎮座している。


 景気は悪くない。風向きも上々。



 大通りを通って、中央広場までくる。

 ここには噴水があって、水汲み場、水飲み場、水浴び場がある。

 水浴び場は、現代では使う人は皆無だ。歴史的構造物というやつだ。


 そして正面に四階建ての冒険者ギルドがデデンと鎮座している。


「トライエ冒険者ギルド……」


 別に珍しくはない。週に一回は普通に前を通過していた。

 でも中に入るのは初めてだ。


「緊張してきた」

「いいじゃない、悪いことしたわけでもないにゃ」


 気楽にミーニャが言ってくる。


 想像すると怖い。俺は前世でコミュ障をこじらせていたので。


 厳つい顔の古株が、新人いびりをしにくるんだ。

 俺たち子供もバカにされるとか、魔石を取り上げられるとか、されそう。


「ぶつぶつ言ってないで、いいから、入りましょう」


 ラニアが笑顔を浮かべて、俺の手を取った。

 するとすかさず俺の反対の手をミーニャが掴んで、歩き出す。


 引きずられるみたいにして、俺は初めての冒険者ギルドに、踏み入った。


「いらっしゃいませ~~」

「あ、どうも」


 ガランガランとカウベルが鳴る。

 頭を下げて、中に入る。

 一瞬静かになった。でも子供のお使いだろう、と思われて、すぐに元のように騒がしくなる。

 ここの一階の右側は、定番のように、酒場になっていた。


 受付は昼前だからか、ガラガラだった。

 こんな空いていて、経営が成り立つのか、大丈夫だろうか。


 お姉さんのカウンターに対峙する。



 ――美少女ギルド受付嬢。



 定番だこれ。金髪碧眼長耳、エルフに連なるものだ。


「はっ、お嬢ちゃんたち。あっ、どんなお使いかな?」


 受付嬢は自然な笑顔で俺たち、いやミーニャをじっと見つつ、質問をした。


「あの、このゴブリンの魔石を、買い取ってほしいです。会員でなくても、買い取りくらいはできるんですよね?」

「はい、問題ないですよ。ちょっと見せてもらっていいかな、奥で鑑定するから」

「お願いします」


 ラニアが応対してくれる。

 ミーニャはじっと見られたのが、恥ずかしいのか、顔を赤くして、エルフ耳をぴくぴくさせている。かわいい。


 五分くらい待っただろうか。もう少し短いかもしれない。俺には長く感じた。


「お待たせしました。銀貨五枚、で、その、よろしいでしょうか? エルフ様」

「五枚? 本当に? 三枚とかじゃなくて?」

「はい。同じように見えても、これは質がよいもののようで、高く評価させていただきました」

「やったわ、ありがとう、お姉さん」

「はい、銀貨五枚よ、ありがとうございました、エルフ様」


 受付嬢はラニアに答えつつも、確認はミーニャをじっと見ていた。

 ミーニャがやっと最後、笑顔で頷くと、お姉さんはほっとした顔をして、笑顔を返して、引っ込んでいく。


 なにあの態度。


 ラニアはガン無視でミーニャに気を使いまくっていた。

 やっぱりエルフはエルフでも、序列があるのかな。


 ハーフエルフとクォーターエルフでは、ハーフのほうが偉いとかさあ。

 人族にはその感覚はわからんらしい。


 とにかく、こうして「銀貨五枚」を俺たちは手に入れた。


 冒険者たちは、結局俺たちを、ただのお使いとして処理したため、誰も何にも思わなかったようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る