第34話 ほのぼのステージボス瞬殺
「第二層が解放されたぜ!!」
隠しクエストクリアから2週間後。
ギルドホームに帰ってくるなり、リュウがガッツポーズをしながら言った。
「うるさいわね。今、ちょうどその話をしていたところよ」
サクラがうっとうしそうに言う。
のの花たちもすでにお知らせを見ていたので、第二層に向かう計画を立てていたところだ。
「和風のステージだって!!楽しみだな~」
PVを見ながら、花音がまだ見ぬ第二層へ思いをはせる。
ちなみに花音は、隠しクエストをクリアした日以来、怒涛のダンジョン周回で猛烈にレベルを上げている。
現在、花音のレベルは37。対してのの花は29。
補習や課題で後れを取っていたが、あっという間に追い抜いた。
ただ残念なことに、のの花はジョブ補正が異常な数値になっているため、総合的な数値で見るとまだのの花の方が上である。
「第二層に行くには、条件があるみたいですね」
のの花はモニターに、運営からのお知らせの一部を映し出した。
冒険職が第二層に行くためには、3つの条件をクリアしている必要がある。
まず1つとして、レベルが10以上であること。
これは、「おとぎの国」のメンバーならもちろんクリアしている。
そして2つ目に、第一層のマップ上にあるすべてのダンジョンをクリアしていること。
これには隠しダンジョンは含まれない。
これもメンバー全員クリア済み。
そして最後が、ステージボスという第一層を通してのボスを倒すことだ。
ボスのモンスターさえ倒せれば、第二層にたどり着くことが出来る。
「市民職のリュウさんずるくないですか?レベル10に達してればゴールド払うだけで行けるんですよ?」
アイリンが不満げに言った。
市民職は基本的に戦闘スキルを持たないので、金の力で第二層に行くことが出来るのだ。
とはいえ、それなりの量のゴールドを持っていかれるので、リュウの懐も痛いところである。
「そう言うな。お前らだってボスなんか余裕だろ?ユノとグレンがいるんだから。欲を言えば、俺も冒険職に鞍替えして金払わずに第二層へ行きたいところだぜ」
ステージボスの外見は公開されていないが、ステータスは全て公開されている。
それを見る限り、パーティーを組んで戦うことが前提とされているようだ。
常識的なプレイヤーは、これにソロで挑んだりしない。
「ステージボスも、特に問題はなさそうね。ユノちゃんどうする?もう行く?」
「みなさんが問題なければ!!」
のの花がメンバーを見回すと、みんな準備万端のようだった。
「では、行きましょう!!」
「俺も後から行くわ」
唯一の市民職であるリュウを残して、「おとぎの国」の面々はギルドホームを出た。
第一層に複数設置された転移門をくぐり、層と層の狭間へ向かう。
いきなりダンジョンのボス部屋と同じ扉があった。
「この向こうにボスが…。開けます!!」
のの花は覚悟を決めて石の扉を開いた。
部屋の中央で紫色のドラゴンが眠っている。
どうやら、これがステージボスのようだ。
「みなさん、これを」
のの花は全員に、毒を無効化するポーションを手渡す。
薬剤師のジョブで、のの花が自作したものだ。
ステージボスのスキルに毒攻撃のものがあったため、のの花以外の全員でポーションを使ってつける。
のの花は特殊攻撃無効のため、毒も効かないのだ。
「あれを押すと、戦闘開始みたいだね」
花音が指差す先に、赤く点滅するボタンがある。
かなりドラゴンに近いところにあるが、そこまでは近づかなければいけないのだろう。
しかし、「おとぎの国」にとっての問題はそんなことではなかった。
「みんなで戦ってもいいけど、グレンちゃんかユノちゃんに任せた方が早いかもね。まあ、私もいけなくはないけど」
パーティー狩りが前提のモンスターを、のの花とグレンとサクラの誰がソロ狩りするかという協議が行われる。
議論の末、ギルドマスターなのでのの花が戦うことに決まった。
のの花1人がドラゴンに近づき、ためらうことなくボタンを押す。
部屋内にブザーのようなけたたましい音が響き、ドラゴンがゆっくりと体を起こした。
「ゴガァァァァァ!!!!」
雪山でグレンが瞬殺した雪竜より、二回りくらい大きい。
口や体から滴る青色の液体は、きっと強力な毒なのだろう。
「ゴガァァァァァ!!!!」
ドラゴンは大きく頭をのけぞらせると、のの花に向けて勢いよく毒を噴射した。
しかし、のの花は避けない。
全身が紫色の毒まみれになっても、ピンピンして立っている。
「もう見慣れた光景よね……」
サクラの呟きに、花音が深々と頷いた。
「私に毒は効かないのですっ!!」
自慢げに言って、のの花はドラゴンへのいじめタイムに入った。
「【太陽砲】!!【雷帝の怒り】!!【大津波】!!」
炎で焼かれ、雷に撃たれ、大水に飲まれ。
「【水斬剣】!!【閃撃の双剣】!!【トルネード・スピアー】!!」
長剣で斬られ、短剣で刻まれ、槍で突かれ。
明らかに過剰な攻撃を受けて、ドラゴンが消えていく。
「こうなると分かってはいたけど、あれってパーティー狩り用のモンスターなんだよね……」
「何だかもう、感覚がおかしくなっていくよね……」
呆れ気味のメンバーをよそに、のの花は大きく万歳をした。
宝箱の代わりに、第二層への転移門が現われる。
「う~ん……」
「あら、どうしたの?」
何やら不満げな表情を浮かべたのの花に、サクラが声を掛ける。
「ドラゴンが思ったよりあっけなくて拍子抜けした?」
「いや、そういうことじゃなくて……。同じスキルを使ってばかりなので、そろそろ新しくて同じくらい強いスキルが欲しいなぁと」
「……」
何とも贅沢な悩みを抱えて、のの花は第二層に足を踏み入れた。
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