東京メメント
深呼吸しすぎ侍
1 厨二病
『厨二病』と呼ばれる病気がある。
二次成長期の頃に発症しやすく、当の本人には自覚しにくい病気。
時が過ぎ、世間の荒波に揉まれ、ふと自身の道を振り返るとき、そこには過去の自分の過ち。
十年経てば身を捩り記憶から消えてくれと自身に懇願し、
三十年経てば自分の子供が同じようなことを再現して更に捩れ、
五十年経てば香ばしい記憶に涙する。
それまでは比較的小規模の事件にもならない、物によってはあったかもしれないが、
その『厨二病』がここ最近おかしな意味合いを持つようになる。
『厨二病』にまつわる『能力』に目覚める人が出始めたのだ。
闇の炎を出したり、風を操ったり、空を飛んだり、突然ブラックコーヒーを飲みだしたり、修行したり修行したり、荒川の土手で『パスキャルバーン!』と必殺技?を叫びながらチャリに乗っていたあの奥さんはなんだったのか(実話)。
この物語は、作中の『厨二病』患者の十年後の未来や、読者の心にいろんな角度でボディブローを撃ち放つ誰得な話である。あと、あなたの考えたオリジナル黒歴史人物を募集します。面白いネタは採用されるかも。採用された方にはもれなく全員に十年後に読み返して悶絶する権利がもらえます。さあみんなも一緒に悶えよう!
秋葉原。
戦後電気街として発展してきたこの街は、パソコンショップが乱立してからおかしな方向へ進み始めた気がする。
パソコンソフトからエロゲが出始め、エロゲといえば秋葉原とでもいう様に秋葉原に行けば大抵のエロゲが揃っていた。
その後コンシューマーゲーム機の発展と共に表現の自由と不自由を繰り返し、ゲームセンター、アニメのショップ、メイド喫茶などが乱立するなど秋葉原は様変わりを見せていた。
寒空の下、大通りより一区画奥の裏路地。
本来ならその路地も活気に溢れている場所であるのだが、なぜか人っ子一人いない静寂に包まれていた。大通りの車の音すら聞こえない。
そんな場所に、赤字にBuster字のTシャツ、赤いコート。紺デニムのミニスカに黒タイツ、黒のブーツ。見た目で言えば中学生くらいであろうか、その路地へ息を切らしながら走る紫髪ボブカットの少女が一人。
「ミサキぃぃブースト強すぎいいいい!」
その後を唸り声をあげて黒コートと黒のスラックスという黒尽くめの坊主頭の青年が少女の目前を通り過ぎて何処かへ消えた。
そして息切れをしながら戻ってくる。
それを黙って待つ少女ではなく、ビルの非常階段を駆け上がる。
「貴様ぁ、こちらの息切れを狙って逃げるとは、ぜえはあ、良い度胸だ、ってちょっと待って、ほんとにちょっと待ってつかあさい。
わかってる、これ本当はあなたの仕業じゃないんでしょ。ちょっと話を聞かせてもたいたいーのよって隙アリィィィ!」
そして一方的に捲し立てたと思ったらスマホでカシャカシャと階段の真下から連写。
「フハハハハ、貴様の恥ずかしいパンチラ写真をネットにばら撒かれたくなかったら私と一緒に添い寝してめくるめくリフレで俺様を癒す、むしろ昂らせるが良いってなんだ、そこからジャンプって危ないよ、そして着地点が俺を踏み台ぃぃぃぃぃ!」
少女は階段を飛び降り地上に居た不審者をスマホごと踏んだ。
そしてスマホを地面に叩きつけ画面が粉々になるまで踏み付け破壊し再び階段を駆け上がる。
少女は焦っていた。
切り札である能力が使えない。味方を召喚する能力が使用不可となっている。
いや厳密には弱体化されている。
彼女の能力は次元転送。こことは違う時空を超えて人物や物を召喚することができる。
簡単に説明するのならドラもえもんの四次元ポケットのようなものである。
先ほど別次元に転送する穴を作った際、本来ならトラック一つ分くらい余裕で開けれる穴が手荷物がギリギリ送れるくらいしか開けられなかった。こんな穴を通ることができる人物はエスパーイートくらいである。少女でもくぐれなかった。
能力者を狩る存在がいることを『仲間』から聞いたことがある。
力を封印して捕まえ施設へ監禁し真人間へと洗脳処理するという、そんな組織があることを。
能力を失ったら元の世界へ帰ることが難しくなってしまう。
先ほどから何度も呼びかけているが味方の反応が返ってこない。
一人でこの場を突破するしかない。
少女は覚悟を決めた。
屋上への侵入を拒む格子状のドアをよじ登り広い場所に出る。
目的はここから五つほどビルを挟んで離れた場所にある屋上ペントハウス。
その一室に異世界へ渡るゲートを設置しており、自身の魔力を通して起動することができる。少女自身は本来なら不要な物ではあるが、部下の買い出し用の為に設置した物である。あとLANと電気の引き込み口。
敵は二人。顔に足跡をつけたエロガキと、図体のでかい同じく黒尽くめのスポーツ刈りの大男。
「ちくっしょーもう怒ったかんな。謝っても許してやらん。一日くすぐりの刑にしてやムグッ」
「カズ、お前ちょっと黙ってろ」
真っ赤な顔のエロガキを遮ってラガーマンが前に出る。
「何か勘違いをしていると思う。我々は君を逮捕する権限も無ければ治療行為もできない。ただあの場所で何が起きたのか聞きたいだけだ」
静かにゆっくりと、宥めるような声で諭してくるが、
「今の言葉に嘘を感じた。信用できない」
何が嘘かは少女にはわからなかった。だが鋭い感覚は彼の意識せず動かした細かな表情を見逃さなかった。
逃げるにしても多分二人だけではないだろう。少なくともエロガキがミサキと呼んだ人物が居ない。先回りされて退路が絶たれている可能性もある。
「そうか残念だ」
残念そうでない表情で言うラガーマン。
その後ろで、ニヤニヤとカズと呼ばれたエロガキがにやけている。
「そっか残念だなぁ」
後ろ手に持っていた大きな紙バッグをチラチラと見せつけるエロガキ。
「はああああああああああ! 私のPS誤ぉぉぉぉぉぉぉ!」
静寂の秋葉原にここ一番の少女の叫びがこだました。
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