#012 アルデンティアの地理
あなたとカオルは食堂から書斎へと食事の皿を運んだ。
今、あなた達はヒモリヌシの書斎で、朝昼兼用食の粥を食べながら低いテーブルを囲んで座っている。粥は野菜がたっぷり入ったもので、色取りもよく、滋養によさそうだ。
ヒモリヌシは、あなたがこれから向かうべき町や村を教えてくれる。あなたは筆記用具と日記帳を取り出し、説明を聞きながら自分で地図を書かねばならない。
ここはアルデンティア大陸の平野部である。西には山脈が聳え、東には大海が拡がる。
まず、ここルノアルからは街道が東西に分かれつつ、それぞれ次第に北へと延びていく。ルノアルの北にはニユヨカズと呼ばれる非常に広大な湿原が広がっており、人馬は通行できないため、街道が迂回しているのだ。東回りは海岸の道、西回りは山道となる。
ここから東北へ行った先には、アジューリア海(大碧海とも)に面したドトルがある。ここにはヒモリ親子の親しい知り合いであるメイカケイ(命火恵)がいる。彼女は「魅力的な女性」なのだそうだ。
ドトルからは北へ街道が延びる。その先に港町イクセルシアがある。エイカゲン老人の旅話によれば、ここにはナンジアルカ(汝在火)という漁夫の同胞がいるという。しかし、ヒモリ親子は彼とは全く面識も音信もない。
イクセルシアでは街道が西と北へ分かれるが、これを北へ進む。その先にはコメダコという港町がある。ヒモリ親子はここへは行ったことがないという。
ここからさらに街道を西へ進むと、大都会シユベルに至る。この世のあらゆるものが集まると言われ、「集都」とも通称される。ここが、あなたの目指すべきゴールだ。
さて、もう一つ別の旅路としては、西回りルートがある。ここから西へ行った先に、シヤノアルがある。ここには多芸多才な職人として知られるトワサクホ(常去来火)がいる。ヒモリは彼にあまり好かれていないらしい。
シヤノアルからは北に向かって山道が続く。その先にタリズがある。ここに同胞がいるという話は聞かないが、風光明媚な土地であり、寄るのも一興だろう。
タリズからは山道の街道が東と北へ延びる。これを北へ進むとサルティコに出る。ヒモリ親子はここへは行ったことがないという。
サルティコを東へ進むとシユベルに至る。つまり、東回りでも西回りでもシユベルを目指すことができる。
あなたは以上の地理を示した図を日記帳に書き留めた。それゆえあなたには不要とは思われるが、念のため、その模式図を次節(§013)に示しておく。
「ざっと、このような位置関係になる」ヒモリが言う。「しかし、今私が挙げた村や町は便宜的な目印のようなものにすぎない。実際には君は、他の数多くの町や村でも宿泊せねばならないし、場合によっては野宿する必要もあるだろうね」
「シユベルまではどれくらいの日数がかかるものですか」
「そうだな……東西どちらを歩いても、概ね1か月ほどだろう。急げば半月で行けないこともないが」
「結構遠いですね。それともう一つ、今、地図のようなものを書いてみましたが、イクセルシアの西、あるいはタリズの東はどうなっているのですか」
「アサマツクという都会があるが、そちらへ行くには及ばない。あそこは治安が悪いのでね」
「母がいるの」カオルが言った。「10年前まで、私達も住んでいたのよ」
「カオル、余計なことは言わなくていい」
「私にとっては余計じゃないわ。実際のところ、ヒモリ、あなたにとってもね」
二人の表情が、やや険悪になった。あなたは雰囲気を和らげようとして口を挟む。
「なんだか親子というより親友同士の会話みたいだね。そんな気がするよ」
するとカオルは棚のランプを指さした。
#014へ進む。
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