幼馴染達と異世界転移したら、自分だけ雑魚過ぎて劣等感がすごいんですが......

KOYASHIN

第1話 : プロローグ

—————緑の草原。青い空。豚のようなモンスターと狼に似たモンスターと戦う男3人女1人。年齢は、10代後半であろうか。男子たちは剣やら弓やらを使い、紅一点の女子は、手から火をだし、水をだし........


 そんな光景を少し離れた所から、体育座りで冴えない顔を浮かべ、見つめる男子。


 男子の名は、草映太クサハエタ、17歳。


 「こんなはずでは......」


 急に映太は、頭を抱えながら悶えている。


———時は遡る事、一週間前。


 普段と変わらず、幼馴染の仲良し5人で高校の下校途中におしゃべりをしていた映太達は、急に目の前が真っ白になり、気づくと見たことのない部屋にいた。


 童話に出てくるようなお菓子の家という表現がピッタリであろう。そんな小屋の中。


 目の前には、一人の老人。黒いフードを被り、立派な白髭を蓄え、正に“魔法使い”といった風貌。


「ようこそ、勇者様方!早速ですが、皆様にこの世界で魔王を倒していただきたいのです。」


 唐突にもそんな事を言われたのだから、5人は混乱する.....かと思いきや、全くそんな素振りを見せず、むしろ楽し気な笑顔ではしゃぐ5人。

 

 「ゲームみたいだな!」


 五人の中で一際大きな体格の男子が言う。


 「楽しそうだね!」


 紅一点の女子がはしゃぎながら笑顔を浮かべている。


 「なんでみんな、そんな楽しそうなんだよ....」


 映太は、突然の出来事に不安でいっぱいであったが、いつもと変わらない四人を見て、流れに身を任せる事にした。


 「それでは、この水晶にお触りくださいませ。勇者様方」


 老人はそう言うと、目の前の台座の上にある水晶へと五人を誘う。占いで使う事以外に見た事ないような水晶は、大事そうに置かれていた。


 躊躇いなく、真っ先に触りに行く友達を前に、映太もワクワクしてきたのか、目を輝かせている。


 水晶に触ると身体を一瞬、虹色の光がモヤモヤと包み込む。


 すると、ゲームで見た事があるようなウインドウが触った者の前に表示された。


 そこには、『職業』『ステータス』『スキル』の文字が表示されており、それを見た5人は、目を煌かせて同時に「おーーーーーーー!」と歓声のような声をあげる。

 

 最後に映太の番になり、期待に胸を踊らせながら水晶に近づく映太。


(ついに、俺にも人生をやり直せるチャンスが!)


 そう思い、泣きながらに笑顔で水晶に触る映太。

虹色の光に包まれて、光が消えると他の4人が興味津々に映太のウインドウを見に集まる。


 『名前:草映太

  職業:雑魚

 ステータス:ちから“1” ぼうぎょ“1” HP“1” MP“1” かしこさ“1” すばやさ“1”

スキル:外部からの能力変化を受けない』

        

「ドンマイ!」

「ドンマーイ!」

「ドンマイだな!」

「気にしない、気にしない!」


4人が笑いながら映太の肩をポンっと叩く。


 笑ってはいるが、軽蔑ではなく、励ましである。


(なんでだ!これって異世界きて無双しまくるとかそんな流れじゃないのかよ!職業雑魚ってなんだよ!そもそも雑魚って職業なのか!?ステータス全部1とか、みんな100とか普通にあるぞ?なんでなんだーーーーー)


 映太は、肩を落とす。

 

 映太は、現実世界でも冴えない、全てが平均以下。そんな学生だった。


 しかし、幸運にも幼馴染の4人に恵まれた事でいじめなどは受けずに、普通の青春を謳歌していた。


 だからこそ、この異世界の展開に期待したのだろう。

 

 草原に座る映太の前で多数のモンスターを軽々葬っていく4人。


 オオカミのようなモンスターの目にも止まらぬ速さを軽々といなして、避けながらに剣でオオカミモンスターを両断する青年。


 整った顔、長身細身。彼は、この幼馴染グループのリーダー的存在。

天草五郎アマクサゴロウ職業<勇者>


 五人の中で一番大きな体格。

 豚のモンスターの突進に全く怯まずに真正面から大剣で一刀両断する快活そうな顔立ち。

 高校生にしてはゴツい筋肉質の身体。運動神経は抜群。

前田慶三郎マエダケイサブロウ職業<大剣使い>


 少し離れた所から、ブタのモンスターの眉間に弓を放つメガネの青年。

 身長は小さいが、頭脳明晰。

黒田官介クロダカンスケ職業<弓使い>


 幼馴染グループの紅一点。容姿端麗、学歴優秀、運動神経も映太の数倍は良い女子。

 手を振りかざし、何やら言葉を発すると氷の矢や、炎の球を出し、モンスターを笑顔で葬っている。

出雲阿子イズモアコ職業<魔法使い>


 現実世界でもこの異世界でも高スペックな四人。

この四人が映太の幼馴染であり、一緒にこの世界に来た仲間である。


 四人は、一通りモンスターを狩り終えると仲良く並びながら映太の方に歩いて来た。


 阿子が笑顔で小袋を映太に差し出す。


「はい!これ映太の分ね!」

「いつもすみませんなぁー」


 そう苦笑いしながら映太は小袋を受け取るとその小袋を開ける。


 そこには金、銀、銅といったサイズ様々なコインが入っていた。

 

 この世界では、基本モンスターを倒す事でお金やアイテムをゲットする。


 しかし、映太はステータスがオール1という逆チート状態なわけで一番弱いであろうスライムのモンスターにも勝てない。


 しかも、HPが1しかないので一撃でお陀仏だ......

なので、みんなが映太の分も狩りをしている。


 ちなみに、この世界では死んでしまっても勇者である映太達は、近くの町の教会で何度も甦る事が可能ではあるが、そこから移動もしないといけないし、お金も掛かるのだ。


 そのため、町のアイテム屋で『身代わり人形』という藁で作られた、いかにもな人形を阿子が映太のために買い漁り、映太に持たせている。


 この人形は、人形一つにつき、一度死んでもその場で即座に甦るというすごいアイテムなのだ。


 勿論、それなりの値段はするが、みんなでお金を出し合って現在、映太はこの人形を15個も保有している。


 「さて、街に戻るか!」


 豪快に大剣を肩に担いで、慶三郎が言うと、

リーダー的存在である五郎が言う。


「そうだね。とりあえず街に戻って明日は、北の迷宮を探索しよう」


 皆が頷き、足並みを揃えて近くの街「リュンフェン」へ向かった。

 

その夜、いつもの宿屋のバルコニーで夜空を眺めながら黄昏れる映太。


「この世界は空気がうまいなぁー」


 この世界は、機械類などは見当たらない。現実世界だと中世の文明レベルといった所である。


 都会で育った彼らにとっては、空気だけでなく全てが綺麗に感じる。


 「確かにこの世界の空気は澄んでいて美味しく感じるよね」


 声だけでわかるイケメン感。

 天草五郎が、お茶を持ちながら映太の横に来て、一緒に夜空を眺めだす。


「映太、何か悩んでるの?」


優しく五郎がそう聞くと映太はわかってるだろ?とでも言いたげな表情で、

「うーーん、俺この先何をこの世界ですればいいんだろーってね...戦闘は五郎達に任せっきりだし、魔法も使えん。装備道具でもステータス上がらなかったしなー」


言い終えるとため息をつき、肩を落とす映太。


 この世界では、武器や防具をつけるとステータスに+10といった具合で元々のステータスに加点される仕組みである。


 しかし、映太はスキルで『外部からの能力変化を受けない』


 つまり、アイテムを装備してもステータスが上がる事は無いのだ。


 この世界に来た初日に、秀才官介が映太のステータスの低さを改善するべく、防具や武器の情報を仕入れ、モンスターを倒して、そのお金で少し良い防具を映太にプレゼントしたのだが、ステータスが上がらなかった事を思い出す映太。


 「はぁ..........」


もう一度深くため息をつく映太を横目に、まるでキラキラしたエフェクトが掛かっているかのような横顔で五郎は言った。


「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。何とかなるさ。とりあえず、映太は映太のままでいてくれればいいよ」


(こいつ、まさか男もいけるのか....?)


映太は、一度は疑いの眼差しを向けつつも、もう一度ため息をつき、

「ありがとう、五郎」

「どういたしまして」


ハニカミながら返す五郎。


もう一度、夜空を見上げた二人。


「明日の迷宮、俺絶対死ぬな......」


 北の迷宮は、この辺りでは、レベルが高いモンスターの住処となっている。

 映太の不安とは裏腹に初めての迷宮探索に胸を躍らせる他四人。

 五人の旅は、始まったばかりである。



————この世界は、東側に人間が統治する聖王国。西側に魔族が統治する魔王国が領土を争い合っていた。

 聖王国の東に位置する中規模ほどの田舎街『リュンフェン』。

 映太たちは、この街から西側の魔王国にいるであろう魔王を倒すために冒険をするのであった。


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