第1話 行きのタクシー、帰りのタクシー 

 少し傷心で降り立った初めての某国ホーチミン市。某国香港行きの便を待つストップオーバー予定の22時間の市内観光に向かう(ホテル代節約のため、最後の数時間は空港の登場待合中に仮眠を予定)。


朝。空港から市内行きのタクシー。

運転するは真面目そうな眼鏡青年。

……が、いきなり料金メーターを止めて、彼はカタコト英語で価格交渉を始めた。


 良く分からない状況のまま言い合いになり、テンションが上がる。


 市内の渋滞でチャンス到来。停車した隙にドアを開け、妥当であろう価格(数ドル分の札)を眼鏡青年に投げて、後続かかバイクがつっこんでこないことを確認しつつ降りる。


 いい感じで血圧が上がったので、そのまま街歩き。

 


昼、市内中心部観光地では女子力高めのホーチミン女子に接客を受ける。あくまで米ドル持ってそうな観光客として。

 その後、ミッションの一つであるASEANスーパーの価格調査。某国ジャカルタ市、某国クアラルンプール市と比べて、鶏肉価格は……牛乳価格は……。

 カフェでエクセル表をアップデート。

 ……という感じで12時間ほど市内を過ごすうちに、ホーチミンの地図は少し頭に入ってきた。



 夜の空港への帰り道。

 はい来ました、東南アジアらしいスコール。基本半そででいい東南アジアのボッチ紀行では、軽量化のため傘を持たない僕は、雨宿りに、おなじみのロゴの入ったお店に入った。お店のお立ち台の上には、ボディコンシャスなバドガールの皆さん……扇子持っているし、ジュリアナ日本的な何かなのだと思う……。

 お立ち台のこちら側は外国人席。反対側は地元の人々席。盛り上がっているのは地元パート。とはいえ、お立ち台を対し向かい合ううちに会話も起きる。

「おい、君何やっている」

「あぁ、こんな……して、あと、……しててね。」

「「うぇ~い」」と乾杯。


……2時間ほど店で過ごすうちにスコールは止んでいる。会計を済ませ、彼らと店のおねえさんにバイバイして、空港に向かうタクシーに乗りこんだ僕。……あれ、なんでお前らも乗り込んでくるの?

 突然始まる、ローカルな会話。空港に向かう一本道をタクシーは左に曲がった。


「せっかくだしもう一軒いこうぜ」的なノリで、謎のカラオケ店に。当時のASEANではおなじみのカラオケ合戦の乾杯は、謎氷入りのビールだった。


早朝。ドルを使い切った僕は、ついに財布の奥から日本円を取り出し、時間ギリギリで空港にたどり着いたのだった。帰りのタクシー運転手さんが真人間で良かった。


 あれ、素直にホテルに泊まってた方が断然安かった?……と思った時の僕は知らなかった。謎氷に含まれていた細菌類たちが、僕のおなかの中で急速に増殖していることに。

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