第19話
☆☆☆
休日の遊園地はさすがに人が多かった。
家族連れやカップル。
女子会に男子会と、様々な人たちで溢れかえっていた。
昼前から出て来たあたしたちは、まず腹ごしらえをすることになった。
入ってすぐ右手に見えるレストランに入ると、ここも人でごった返している。
ちょうど昼時だ。
「20分ほど待つらしいけど、大丈夫?」
店員さんに待ち時間を聞いて来た健太郎がそう言った。
「大丈夫だよ」
あたしはそう言い、園内を見回した。
一歩ゲートをくぐるだけで、ここは別世界になる。
まるで小説と同じだった。
表紙をめくればそこには現実とは違う世界が広がっている。
いつでもどこでもどんなときでも、その別世界へ旅行することができるから、あたしは小説が好きだった。
「小説の進みはどう?」
健太郎にそう聞かれて、あたしは曖昧に頷いた。
「まぁまぁかな?」
「そっか。俺は小説のこととかよくわからないけど、愛菜はすごいなって思う」
そう言われると、なんだか照れてしまう。
小説なんて、賞を狙おうとしなければ誰でも書けるものだ。
「健太郎だって書けるよ」
「本当にそう思う?」
「思うよ」
あたしがそう言うと、健太郎は照れたように笑った。
「才能なんてないくせに」
不意に、笑顔の健太郎がそう言った。
「え?」
あたしは驚いて健太郎を見つめる。
健太郎は笑顔を浮かべたまま「愛奈と咲紀じゃくらべものにならない。咲紀の才能には勝てないって言ってるの」と言う。
健太郎だったその人の顔は、見る見る明日香になって行く。
目の前にいる明日香はニタリと卑劣な笑顔を浮かべてあたしを見下ろしている。
「なんでそんなこと言うの……?」
あたしは後ずさりをしてそう言った。
「咲紀の才能が妬ましかったから、イジメたんでしょ?」
「違う! あんなヤツに才能なんてなかった!」
「嘘ばっかり。本当は自分が1番よくわかってるんでしょ? 咲紀の実力のすごさを」
「やめて!!」
そう叫んで両耳を塞いだ時、健太郎の顔が見えた。
健太郎は驚いた顔をこちらへ向けている。
「……健太郎?」
「どうしたんだよ愛菜。急に叫んだりして」
健太郎はそう言い、あたしの手を握りしめた。
周囲を確認してみても、もちろん明日香の姿なんてどこにもない。
明日香はもう死んでいるのだから、いるワケがなかった。
すべてあたしの思い込み、幻覚だ。
それにしてはやけにリアルだったけれど……。
あたしは健太郎を見上げてほほ笑んだ。
「ごめん、大丈夫だから」
そう言って、額の汗をぬぐったのだった。
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