第13話
先生かもしれない。
今この状況を見られたらヤバイ。
そう思っていた次の瞬間、教室へ入って来たのは修人と和人の2人だった。
「あれ? なにしてんのお前ら」
修人があたしと明日香を見てキョトンとした表情になっている。
あたしは握りしめた拳を一旦下げて、写真を修人と和人の2人に見せた。
「は? なんだよこの写真。明日香と健太郎?」
和人はそう言って目を見開いている。
文芸部のメンバーはみんな、あたしと健太郎が付き合っていることを知っているのだ。
「明日香が健太郎をたぶらかしたの」
あたしは怒りに任せてそう言った。
「違う!」
床に這いつくばったまま明日香が叫ぶ。
しかし、この写真を見てしまった2人の反応は冷たかった。
「明日香が先に誘ったとしても、健太郎が先に誘ったとしても、結果は同じだろ?」
和人はそう言い、明日香を見下ろす。
「俺も同意見。やってることは同じだな」
修人は口元に笑みを浮かべている。
まるで、面白いネタが浮かんできた時のような表情をしている。
「そんな……」
自分の味方がどこにもいない状態の明日香は、見る見る内に目に涙を浮かべた。
「泣きたいのはこっちだよ!」
あたしはそう言い、明日香の頭を床に押し付けた。
「謝れよ!」
そう怒鳴ると明日香は床に額をこすり付けたまま「ごめんなさい!」と、悲鳴に近い声で言った。
それでもあたしの気持ちは収まらない。
この中ではダントツトップだったあたしが、明日香に裏切られるなんてあってはならないことだった。
「次のターゲットは明日香か。まぁ、仕方ないよな美春は死んじまったんだしさ」
修人が高みの見物をしながらそう言った。
「咲紀はいなくなったんだから、もうイジメは終わりだよね!?」
ハッと顔をあげてそう聞いてくる明日香。
「そうだね、イジメはもう終わり」
あたしは優しくほほ笑んでそう言った。
「明日香をイジメたりなんかしないよ?」
続けてそう言うと、明日香は少し安堵した表情を浮かべる。
あたしはその頬をもう1度勢いよく殴りつけた。
「だからこれは復讐」
明日香の顔が、一瞬にして恐怖に歪む。
「修人と和人も手伝ってくれるよね?」
2人へ向けてそう言うと、修人と和人は含み笑いを浮かべて立ち上がったのだった。
☆☆☆
1番のターゲットだった咲紀が自殺をしても、部活内のカーストはあたしがトップだった。
今までも、これからもそれは変わらない。
修人と和人から暴力を受けて、動けなくなってしまった明日香を見下ろし、あたしは笑顔を浮かべた。
明日香は口の端から血を流し、意識も朦朧としている状態だ。
「人の彼氏に手を出したらどうなるか、わかった?」
あたしは明日香の横にしゃがみ込んでそう聞いた。
しかし、明日香は答えない。
口を開く元気も残っていないようだ。
「どうするんだよこれ。ちょっとやり過ぎたか?」
手についた明日香の血を拭きながら、修人が言う。
「大丈夫だよ。これくらいやらないとわからないんだから」
そう答えて時計へ視線を向けると、もう6時が過ぎていた。
外は太陽が傾きかけている時間帯だ。
「明日香、そろそろ帰るよ」
到底動けないであろう、明日香にそう声をかける。
やはり、明日香からの返事はなかった。
しかたないから今日はここに置いて帰るしかなさそうだ。
そう思って鞄を手にした時だった。
「おい、ちょっとヤバイかもしれないぞ」
そんな緊迫した和人の声が聞こえて来た。
和人は明日香の手を取り、脈を確認している。
「ヤバイって?」
あたしと同じように帰る準備をしていた修太が手を止めた。
「脈拍がゆっくりになってきてる」
「ちょっと、冗談でしょ?」
そう言いながら、あたしは明日香の首に手を当てた。
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