第38話 釣り雑誌デビュー

 初取材の日、美沙希は3匹のバスを釣った。

 バズベイトで30センチ。

 スピナーベイトで34センチ。

 クランクベイトで32センチ。

 アベレージサイズだが、すべてをハードルアーで釣ったという快挙。

「周りがみんなソフトルアーを使っていたから、あえてハードルアーを使ったんです。ハードルアーにしか反応しない魚を獲ることができました」と彼女は語り、小鳥遊はスマホでそれを録音した。


 カズミは4匹も釣った。

 4インチヤマセンコーノーシンカーでこの日最大サイズとなった43センチ。

 3センチヤマセンコーノーシンカーで27センチ。

 4インチカットテールダウンショットで25センチ

 6インチジャンボグラブスプリットショットで33センチ。

 岸沿いをていねいに探った結果だ。

「あたしはワーム使いなんです。ハードルアーはぶっちゃけ持ってないんですよね。ねちっこい釣りが得意になっちゃいました」と彼女は照れくさそうに話した。


「オッケーだ。これは記事になる。見開き2ページにするよう編集長に頼んでみるよ。ありがとう、これは約束の報酬だ」

 小鳥遊は5千円札を2枚サイフから取り出し、1枚ずつ美沙希とカズミに渡した。ふたりにとって初めてのバイト料だった。


 7月1日の放課後、真央との勉強会を終えた後、ふたりは駅前の書店を訪れた。

 ブラックバスマガジン7月号が発売されていた。

 残念ながら1冊しかない。980円。

 半額ずつ出し合い、共有の本として購入した。

 駅前のレトロな喫茶店に入って雑誌を開く。


「釣りガールズ 水郷を行く 第1回キタトネ川の巻」という記事が雑誌の真ん中あたりにあった。写真が豊富なフルカラー2ページの記事だ。

 美沙希のぎこちない笑顔とバズベイトで釣ったバスの写真。

 カズミの大きな胸と43センチのバスがしっかりと撮れているバストショット。

 ふたりがウシボリで釣っている風景写真。

 キタトネ川・ヨロコシ川合流部で美沙希がスピナーベイトで釣ったバスを取り込んでいる写真。

 キタトネ川・マエ川合流部でカズミが33センチのバスを右手で持ち、左手で6インチジャンボグラブをつかんでいる写真。

 どれもきれいに撮れていた。釣りガールM(美沙希)は美しく、釣りガールK(カズミ)はかわいい。


「今月号から『釣りガールズ 水郷を行く』の連載を開始する。主役は地元の女子高生バサー。釣りガールMは釣り歴10年の美少女。ハードルアーからワームのノーシンカーまでなんでもござれのマルチプレイヤーだ。もうひとりの釣りガールKは釣り歴2か月の初心者。スタイルがよくて可愛らしい女の子。ワームの釣りを得意とする。

 取材は6月下旬の雨の日に敢行した。(中略)以上のとおり、ふたりは見事な釣果を披露してくれた。

 釣りガールMは圧巻のハードルアー3匹。きれいな顔して大胆な釣りをする。

 釣りガールKはワームで4匹。初心者とは思えない繊細な釣りを見せてくれた。

 次号も水郷でふたりの釣りを紹介する。8月号の釣りガールズをお楽しみに!」


「きゃーっ、顔がしっかりと写っちゃってるよー」

 カズミは興奮して、頬が紅潮していた。

「カズミと一緒の記事にしてもらってよかった。オカッパリのプリンセスと呼ばれるのを回避できた」

 美沙希は冷静な顔つきだが、内心はドキドキしていた。

 彼女たちはコーヒー1杯で1時間粘り、ブラックバスマガジンのそのページを眺め続けていた。

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