出立
情報を聞き終え、ギルドを出た俺たちは宿の一室に集まる。
ドラゴンとの戦いで疲れてはいたが、それでも気がかりなことは先に話し合っておきたかった。
「とりあえず公爵の陰謀はいったん挫いた訳だが、改めて今後どうするかだ」
「あの、ご主人様はリオナさんのことはもういいのでしょうか?」
「気にならないと言えば嘘になるが……彼女がどこにいったのかは見当もつかない。それに彼女を探せば公爵家の者とばったりしてしまうかもしれないからな」
公爵がこの事件を聞いてどういう反応をするのかは分からないが、もしかするとリオナを探して事情を聞こうとするかもしれない。
リオナがどうなっているのかは分からないが、俺の支配が及んでいない以上公爵の支配が残っているか、自由になっているかどちらかだろう。だとすれば俺がわざわざ見つけても仕方ない。
「でしたら……もう少しここに残ってもいいような気がします。とはいえ、二十五層を踏破したらダンジョンももういいかなとも思いますね」
さらに奥にはまだまだ層が続いているらしいが、そこから先はただ魔物が強くなるだけでなく瘴気が満ちていて、歩くだけで危険もあるという。ティアの魔法があれば進むことは出来るだろうが、得られる戦利品も正気で汚染されていてそこまでの値はつかないらしい。
そのため、ほんの一握りの冒険者が時折降りていくだけだった。
もちろんこの街に留まり二十五層周辺で魔物狩りを続けてもいいのだが、俺たちの目的は別に冒険者としてお金を稼ぐことではない。
「確かに変な目のつけられ方をして面倒なことになる前に隣国に行ってもいいかもしれないわ。こんなことを言うのも何だけど、国が大変なことになっているなら私たちが多少変なことをしていても目をつけられることはないだろうし」
フィリアの言葉はもっともだった。
職業を集めようにも、この街の人々から買い取れる職業は大体買い取った感がある。
それよりも隣国に行ってそこで商売を続けた方がいいだろう。
「ティアはどう思う?」
「私は……」
ティアは先ほどの話を聞いてから浮かない様子だった。自分の国が自分の行動がきっかけで大変なことになっているというのだから無理もない。
とはいえ、この街に留まってもその事実は変わらないし、仮に俺たちがエートランド王国に行ったとしても国の問題を解決することは出来ない。
「よし、エートランド王国に行こう。国が大変なことになっているのはそいつらが引き起こしたことだからどうしようもないが、それで困っている人がいたら出来るだけ助けよう」
そんなことが出来るのかは分からないが、そうすればティアとしてもまだ気が楽になるのではないか。
「すみません、私のために……」
「別にティアのためという訳じゃない。職業を集めるなら別の土地にいった方がいいし、それなら公爵に睨まれているこの国よりも他国に出た方がいいというだけだ」
「……ありがとうございます」
まだ表情が晴れた訳ではないが、ティアは少しほっとしたようにそう言った。
翌日、俺はギルドに数日でこの街を離れることを言いにいった。
「おおアレンよ、行ってしまうのか!」
それを聞いて奥からギルドマスターのエンゲルが現れる。
最近はあまり顔を合わせることがなかったが、俺がこのギルドで信用を得られたのは彼の推薦があったからだろう。逆に、俺たちもダンジョンで得た魔物の素材などを大量にギルドに持ち帰ったので、お互いいい関係を築けていたのではないかと思っている。
「まあそろそろ職業の商売も一段落ついたからな」
武器や薬草を売るのと違って職業は最大でも一人一回しか売買しないので、どこかで打ち止めになってしまう。
「それに、俺たちが長居するとここのギルドに迷惑がかかるかもしれない」
俺は小声で言う。ギルドとしては今回の事件で俺が悪くないと判断したとしても、公爵は俺に罪を着せようと色々言ってくるかもしれないし、ギルドに俺の引き渡しを要求するかもしれない。
それを聞くと、引き留めようと言葉を探していたエンゲルの表情が真剣になる。
「気を遣わせてしまってすまない」
「いや、ちょうどドラゴンも倒して色々キリが良かったからな」
「そうか、それなら最後はせいぜい宴でも開くか。せっかくだし、最後の夜は酒場を全員に無料にするか」
「いいのか? 一冒険者のためにそこまでしてもらって」
「はは、その代わりほとぼりが冷めたら戻ってきてくれ」
「な、なるほど」
どうやらただの好意だけでなく、そういう打算もあったらしい。
まあ俺も戻ってこれるものなら戻ってきたいという気持ちはあるが。
「まあありがたくお言葉に甘えさせてもらうよ」
それから数日の間、俺たちは最後に職業の売買を行い、情報通の冒険者に公爵についての情報収集を依頼し、最後に盛大な宴を開いて街を出たのだった。
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