秀才学生フィリア
フィリアⅠ
「ドラゴン討伐で随分報酬が出たんだろう? じゃあ俺の職業引き取ってくれないか?」
「私も、今の仕事にこの職業全く役に立たないんです!」
レッサードラゴンを討伐した俺たちは瞬く間に街中で有名になった。もちろんドラゴンを倒せるだけの実力を備えたパーティーは他にもいくつかいるにはいるのだが、それに加えて俺が職業を売買する不思議な力を持っていることが噂の広まりに拍車をかけているのだろう。
冒険者たちは職業の交換、俺から買う方を頼んでくることはあったが、手放したいという者はそんなにいなかった。
しかし最初に俺が職業を交換した男たちのように、街中で暮らす人々の中には自分たちの職業とは無関係に働いている人が一定数いる。
そういう人にとっては、ほぼただ同然で大金を手に入れるチャンスだろう。
そんな訳で俺がギルドに商売をしていると、普段ギルドにはほとんど縁がない人々がやってきたという訳である。
今もリンとティアと三人がかりで俺の力がどのようなものか、職業の相場はどのくらいなのかを説明している。
そしてお昼時になりようやく人が一段落し、俺たちは一息つく。
「おお、盛況のようじゃな」
そこへ俺をギルドに勧誘したギルドマスターのエンゲルが現れた。
「悪いな、ギルドで商売してしまって」
「構わぬ。元々ギルドで商売をしている者自体はいたからな」
と言っても、普通は冒険者相手の商売なのでここまで人が集まることはなかったのだが。
「だが、関係ない人がたくさん来て迷惑じゃないか?」
「確かに混雑はするが、その分依頼や売り上げも増えたからな」
ここにきたついでに冒険者への依頼をしたり、ギルドで売っているアイテムなどを買っていったということか。基本的に冒険者向けのものが多いが、言われてみれば薬草や携帯食料、旅用品などは一般の人でも十分に役立つ。
ギルドの売り上げにも貢献できたのなら良かった。
「ドラゴンの素材も高値で売れるだろうし、本当に勧誘して良かったわい」
「それなら良かった。それはそれとして、俺の力も割と広まっているだろうが、文句とかはこないのか?」
有名になるのは嬉しいが、それが気がかりだった。
するとエンゲルは真剣な表情になる。
「うむ、この街の神殿からは苦情が来ているが、ここでは神殿よりもギルドの方が力が強いからいくらでも握りつぶすことが出来る。何せこの街はダンジョン目当てに多数の冒険者が集まってくるからな。必然的にギルドの収益は高い。問題は街の外だが、すでに噂は広まってしまっている。すでにアルト公爵など数人の領主から問い合わせがきている」
「そうか」
アルト公爵と言えば、魔術公爵として有名な人物だ。あまり政治に詳しくない俺ですら名前を聞いたことがある。
「今のところ正直に伝えてはいるが、半信半疑どころか七割、八割で信じられてないだろう」
まあそれが普通の反応だろう。
「とはいえ、そろそろ街の外から噂を確かめにくるような人物が現れてもおかしくはないな」
「その場合、ギルド的にどうした方がいいとかはあるのか?」
「さあな。とはいえ仮に隠そうとしてもすぐばれるだろう、堂々と対応するしかあるまい。とはいえ、もし大貴族や王宮から勧誘を受けてもこの街に留まってくれるのが一番だがな」
そう言ってエンゲルはがはは、と笑う。
確かに教会から迫害されそうになったのであまり考えたことはなかったが、俺の力が有用なものであることには間違いない以上、誘いがくることもあるかもしれない。
いや、ティアの話を聞く限りむしろ平民と違って貴族の方が職業に敏感かもしれない。平民なら職業が外れでも白い目で見られるだけかもしれないが、貴族であればその地位を全て失いかねないのだから。
「今のところ俺は自由が好きだから誰かに仕える気はないな」
「それは良かった」
エンゲルだけでなく、会話を聞いていたティアもほっとしている。
実際、偉い人に仕えるとティアの正体がばれて面倒なことになる危険もあるから、大金を積まれても士官に応じるつもりはない。
教会のように俺を嫌うだけでなく、無理に俺の力を利用しようとして誘拐まがいのことをされる可能性もある。いずれそうなったときのことも考えておかないとな、などと思っていると。
「あの、あなたが噂の職業売買人のアレンさん?」
不意に後ろから声を掛けられる。
振り向くと、そこには学校の制服のような服装に旅用のマントを羽織った女性が一人立っていた。
年齢は十八、十九で少し上だろうか。確か魔術学園は十五で職業を授かってから入学すると聞いたことがある。
少し地味な顔立ちに三つ編み、制服もきっちり着込んでいていかにも真面目な学生といった雰囲気だ。
「ああ、そうだが。もしかして魔術学園からきたのか?」
そう言えば先ほど話題に出たアルト公爵の領内にあった気がする。
「ええ、そうよ。話題になっているからどんなものかと思って見にきたの」
その言葉を聞いて少しだけ俺は身構えた。
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