フィリアⅡ

「私はフィリア。学園では主に錬金術について学んでいるけど、もしかしてその力もそれに関連するものかと思って」


 そう言うフィリアの職業は「学生」。あまり見かけない職業だが、名前の通り知識を覚えやすくなるという特徴がある。

 悪くはない職業だが、魔術学園に通っている人は大体「魔術師」系の職業だろうから、もしかすると劣等感があるのかもしれない。


 彼女はあてずっぽうに言ったのかもしれないが、実は職業の合成は錬金術に似ているような気もする。合成の話は外にはしてないが、何となくで言ったのなら勘が鋭いのかもしれない。


「どうだろうな。既存の力全てからは一線を画していると思うが」


 そう言って俺は職業をやりとりする力をざっと説明してみせる。


「……なるほど。とはいっても簡単には信じられないわ。私の職業を一度奪って戻すみたいなことは出来る?」

「出来るけど、そのまま返してもらえないとか思わないのか?」

「普通は奪って返ってこないよりも、あなたの言葉が本当かどうかを疑うと思うけど。それに、商売してるなら滅多なことはしないと思うけど」

「それもそうだな。じゃあ職業を俺に渡してもいいという気持ちになってくれ」

「ええ」


 彼女が頷くと、俺は「学生」を手に入れる。


「嘘……」


 自分の職業がなくなったのが分かったのか、フィリアは驚く。

 一方、俺も少し驚いていた。「学生」という職業はただ勉強が得意になる職業だと思っていたが、合成に使うと新しく生まれた職業の効果が強くなるらしい。リンの「専門奴隷」に似た効果だろう。

 これで合成してみたいという好奇心はわくが、さすがに返す。


「と言う訳だ。これで信じたか?」

「すごい……こんな魔法があるなんて聞いたことがない!」

「恐らくだが、この力は魔法ではないと思う」


 まず、職業は魔法ではない。人によっては職業を持っていても、全く魔力を持っていない人もいる。また魔法を解除する魔法は存在するが、職業を消す、もしくは無効にする力というのは聞いたことがない。


 俺は自分の力を職業の一種、言うなれば超上位の職業ではないかと思っている。

 俺が本当に無職であれば他人からもらった職業に自分がなることも出来るはずだ。そうでないのは俺の力も職業のようなものではないか。

 普通の人はリンの「専門奴隷」が「奴隷」にしか見えないように、俺のことも「無職」としか認識できないのではないか。

 そんな仮説があるが、今のところ確かめようもない。


「なるほど、そうかもしれないわ。本来は噂が嘘だということを確かめてすぐに帰るつもりだったけど、もっと研究したい!」

「え?」


 フィリアの申し出に俺は困惑する。

 そう言えばこれまで神殿には疎まれ、冒険者の人々には重宝されたが、調べたいと言ってくる人はいなかった。


 もちろん俺も自分の力の詳細を知りたいが、フィリアが信用出来る人物なのかはよく分からない。真相を知った挙句神殿に通報される可能性もある。

 それに、そもそもいくらフィリアが学園で優秀な成績を収めていようと、未知の力である以上分かる訳がないというのもあった。


「いや、研究と言われても俺は冒険者と職業取引の二つの仕事があって忙しいんだが」


 俺は婉曲に断ろうとする。

 が。


「断ってもいいけど、私は調査を命じたアルト公爵に結果を報告する義務があるの」

「おい、まさか脅迫するっていうのか!?」

「脅迫とかじゃないけど。ただ『噂は真実だったけど、力をもっと調べさせてほしいと頼んだら拒否された』て伝えるだけよ」

「……」


 そんな風に報告されれば、俺は絶対に怪しまれるだろう。

 リンは「失礼な」という目でフィリアを見ていたが、そう言われてはどう反論したらいいのか分からず沈黙する。

 すると今度はティアが口をはさむ。


「ですが私たちはダンジョンのかなり下の階層まで潜っています。ついてくるのは大変と思いますが?」

「私もそれなりに魔術の心得があるから心配することはないわ。それに、もし協力してくれたらお礼代わりに武器を錬成してあげる。あなたたちが使ってる武器、どれも量産品でしょう?」


 言われてみればその通りで、リンと俺の剣、ティアの杖はどれも多少高級な量産品だ。今の所持金を考えればオーダーメイドの高級品に買い直すことも出来るのだが、もう少し経験を積んでからの方がいいかと思って後回しにしていた。


「そう言えば錬金術を学んでいたと言っていたが、腕は確かなのか?」

「もちろん」


 彼女は自信満々に頷く。確かに、魔術師としてある程度の腕がなければ俺の調査なんか命令されないか。


「そういうことなら俺はいいと思うが、どうする?」


 俺は一応リンとティアに問いかける。

 リンは不満そうな顔をするが、断って変な風に言いふらされても困ると思ったのだろう、


「まあ、せいぜい足を引っ張らないようにお願いしますね」


 と少し刺のある口調ではあるものの了承する。


「私は構いませんが、ですが調べたとしても今話したこと以外に分かることはないと思いますよ」


 ある意味一番知られると面倒な秘密を抱えているティアは平然と答える。

 職業の合成のことがしゃべれないのは少し不便だが、フィリアがいないときにでもやればいいだろう。


 こうして俺たちはフィリアの提案を受け入れ、一緒にダンジョンに向かうことにした。

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