報告

「やりましたね! まさかレッサードラゴンを倒してしまうなんて!」

「すごい……」


 ドラゴンが息絶えたのを見て、リンは喜びの声をあげてティアは呆然としている。


「俺たちは強い職業を持ちつつも経験はまだまだだったというのに、二人ともよくやったな。特にティアは初日で」

「あ、ありがとうございます。でもやっぱりそれはアレン様が強かったからです」


 ティアの方は未だにドラゴンを倒したということの実感がわかないようだ。


「いや、俺たち三人全員の手柄だ」

「あ、ありがとうございました!」


 俺たちが喜びを分かち合っていると、不意に後ろから声がかかる。誰かと思えば魔術師、それにディグルの女性取り巻きたちであった。


「ディグルのせいで大惨事になるところを止めてもらって申し訳ない」

「それはどういたしましてだが……しかしドラゴンが追いかけてきた時点で卵を返す。ディグルにそうさせるべきだったんじゃないのか?」


 ディグルは嫌なやつだったが、パーティーである以上他のメンバーにも責任はある。俺がドラゴンを倒しても手柄は三人で分かち合うのと同じように。


 俺の言葉に魔術師は申し訳なさそうな表情をし、女性たちはそっと目をそらす。


「そ、それは……済まない、実は俺たちはどんどんディグルとの力の差が広がっていって、ディグルのワンマンパーティーになっていったんだ」


 確かにディグルは「魔導剣士」というそこそこ強い上に魔法も物理も両方できる職業だった。そしてこの魔術師以外はいかにも取り巻きを集めた感じのパーティー構成だ。そうなってしまうのも無理はない。


「あ、あの、やはり私たちも連帯責任で罰せられてしまうのでしょうか?」

「どうにかならないでしょうか」


 女性たちも不安そうに俺に尋ねる。

 実際彼女たちも「剣士」はまだいい方で、「荷物運び」「山師」といった戦闘職ではない者までいた。顔は可愛いからディグルはそれで選んだのだろうが、確かに逆らえないのも無理はない。


 とはいえ事実は事実として報告するしかないのではないか。

 俺がそう思っていると、女性たちのうち一人が思わぬことを提案する。


「あの、もしよろしければ先ほどの職業をそのままお渡しするので今の事はなかったことにしていただけないでしょうか?」

「え?」


 意外な言葉に困惑する。が、彼女たちは、「職業渡しちゃうの!?」「でもドラゴンを四層まで連れてきたのはきっと重罪に違いない」「もう冒険者なんてこりごりだからこんな職業はいらない」などと話している。

 俺はその辺のしきたりは詳しくないが、魔術師の男も苦々しく頷いている以上それなりの罰が下されるかもしれないことなのだろう。


 そんな脅迫のようなことをして職業をもらっていくつもりはなかったが、向こうから言ってくるならそれでいい気もする。


「そうか。俺も悪いのはディグルだと思っているし、そこまで言うなら今回のことは黙っておく」

「ありがとうございます!」


 一人の女がほっとしたように頭を下げる。


「でもこれからどうするんだ? 職業がないと大変だろう?」

「それはそうですが……」


 彼女らの表情は暗くなる。


「ならこれを持っていけ」


 そう言って俺は職業の値段に相当するぐらいの銀貨を渡す。

 職業を持っていない者の肩身の狭さは身に染みて分かっているので、せめて新しい生き方が見つかるまではこれでどうにかしてほしい、というお金だ。

 それにディグルのドラゴンの卵も、流れ的に俺が持っていって良さげな雰囲気があるから、その値段に比べれば大したことはない。


 すると彼女たちの一人は涙を流す。


「ありがとうございます、見ず知らずの私たちを助けていただいてそこまでしていただけるなんて」

「ああ、私たちもディグルではなくこんな方と冒険したかった」

「あいつ、調子がいいときはいいやつだけなんだけど、だめなときは本当だめ」

「あと申し訳ないが、ディグルはちゃんと街の病院まで運んでやってくれ。さすがにそこまでは面倒見たくないからな」

「それはわしがやろう」


 魔術師が頷く。


 こうして俺は思わぬ戦果を手に入れつつ、ディグルのパーティーと別れてギルドに帰った。


 そして俺たちはギルドに、ドラゴンの鱗や牙、そして卵を届ける。


「えっっっっっっっっっ!?」


 それを見たギルド職員はさすがに仰天した。


「こ、こんなにたくさん……一体どうしたんですか?」

「いやあ、強くなったのが嬉しくてついつい深入りしてしまってドラゴンにぶつかったんだ。たまたま戦った訳だが……強かったな」


 俺は適当なストーリーをでっちあげる。

 職員は改めて俺たち三人を見て、もう一度目を丸くした。


「そんな、まだ冒険を始めてすぐだというのに……やっぱり信じられません。これだけの量だとすぐには算定出来ないので少々お待ちください」

「ああ」


 そう言って職員は大量の戦利品を抱えて奥へ戻っていく。

 一方、それを見たギルド内の他の冒険者たちも騒がしかった。


「おいおい、あいつドラゴンを倒したって本当か!?」

「見ただろ、あの戦利品」

「変な力を持っているだけかと思ってたが、そうでもないみたいだな」

「あの娘二人も、てっきりディグルみたいに金だけで囲っているかと思ったが実力者に違いない」

「仮登録証なんか使ってるけど普通にAランク相当だろ」


 などといった声が次々と聞こえてくる。


「良かったですね、ようやくご主人様の正当な評価が広まりつつありますよ」

「ようやくも何もまだ数日なんだが……」


 どこかで実力を示そうとは思っていたが、まさかこんなに早く示してしまうことになるとは。ディグルに絡まれたときは面倒だとしか思わなかったが、それがこんなことになるなんて思わなかった。


 そこへギルドの奥から職員がずっしりと重い袋を持って戻ってくる。


「これが今回の素材の代金です」

「うおおっ」


 ティアからもらった大金で見慣れていたとはいえ、こんなに大金をもらってしまうとは。


 こうして俺たちは今回のドラゴン討伐で職業も評判も金も全てを手に入れたのだった。




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