誰でも職業をもらえる世界で無職と言われた俺はオリジナル職業で最強パーティーを作る

今川幸乃

無職になった男と奴隷少女リン

無職宣告

「ついにこの日が来たか……」


 俺は街のグローリア神殿の前でごくりと唾を飲み込む。


 ここラザフォード王国ではグローリア神という神様が信仰されており、国民は皆十五の誕生日を迎えた日に神様から「職業」を受け取ることが出来る。


 職業は現実の職業に対応しており、「農民」「八百屋」というありふれたものから「将軍」「賢者」といった稀少価値が高いものがある。「農民」の職業を授かれば農作物に詳しくなったり農具の扱いがうまくなったりするし、「将軍」になれば武術の能力が上がるだけでなく軍勢の指揮がうまくなり本人のカリスマ性も上がるらしい。


 そのため授かった職業により今後の人生は一変すると言っても過言ではない。どんなに貧しい生まれでも強い、もしくは珍しい職業をもらえれば出世街道を進むことが出来る。

 そしてラザフォード王国もその職業に適した者を適した職に就けることで発展してきた。


 授かる職業の傾向は生まれによって変わるらしく、例えば農家の息子は農民になる確率が高い。しかし例は少ないが平民出身の「将軍」や「賢者」もいない訳ではない。


 そのためラザフォード王国に生まれた者は誰もが十五の誕生日に奇跡が起こることを夢見て生きてきたと言っても過言ではないだろう。


 そして俺、アレンは幼いころに両親をなくして以来、ここロメルの街で様々な人の手伝いをしながら暮らして来た。

 農民の子が農民に、職人の子が職人になりやすいのであれば色々な職業の経験があればあるほど珍しい職業になれるのではないか。データをとったことはなかったがそう思っていたから俺は他人の手伝いをすることが苦痛ではなかった。


「いよいよだね」


 俺の隣にいた幼馴染のリオナが言った。両親ともこの神殿に勤める敬虔なグローリアの信徒であり、きれいな長い金髪に透き通るような碧眼、鼻筋が通った顔立ちで街でも評判の美少女だ。

 彼女は俺と同い年の少女で、幼いころの俺が「親無し」などと虐められていたときも彼女だけは仲良くしていくれた。

 俺よりも少し誕生日が早かったが、それでも俺と一緒に職業を授かりたい、と待っていてくれた。

 俺には過ぎた幼馴染だと思う。


「どんな職業がもらえるかな」

「リオナはやっぱり神官関係じゃないか?」

「そうだね。その点アレンは何になるか全然分からないから夢があっていいな」

「まあそのためにこれまで色々やってきたからな。よし、入るか」


 俺たちは心を決めると神殿に向かう。神殿の入り口前には新たに職業を授かった人に向けて「〇〇募集中」というような貼り紙が集まった掲示板があった。珍しい職業の求人にはびっくりするような高給が書かれており、俺は勝手に胸を弾ませる。


 入口に立っていた白ローブの柔和な表情の神官が俺たちを見て尋ねる。


「本日はどのような御用でしょうか?」

「今日十五の誕生日で」

「分かりました、少々お待ちください」


 そう言って彼が中に入ったかと思うと、代わりに奥から気難しそうな顔をした中年の男が出てくる。


 ちなみに職業の中には「神官」もあるが、「司教」「大司教」という「神官」の上位職業もあるらしい。そうなると「大司教」の職業を十五で授かってもいきなり飛び級する訳でもないので、しばらくは普通の神官としての修業期間があるためややこしいことになるのだとか。


「職業授与の方ですか。私はこの神殿で司祭長を務めているドネルと申します」


 司祭長ということはここでは一番偉いのだろうか。

 少なくともリオナは彼が名乗ると、急に尊敬の視線で彼を見ている。重要な儀式だから偉い人がしてくれるのだろう。


「まず先に儀式を行われる方はどちらにしますか?」


 そう言われて俺とリオナは顔を見合わせる。だがリオナは本来もっと早く職業をもらっているはずだった以上、俺よりも先にもらうべきだろう。


「リオナ、先に行ってくれ」

「分かった」


 そう言ってリオナが先に部屋に入っていく。


 そして数分後、リオナは嬉しそうな表情で部屋から出てくる。てっきりもっと時間がかかるものかと思っていた。

 きっといいリオナにふさわしい、素晴らしい職業をもらったのだろう。


「思ったより早かったんだな」

「うん、聞いてアレン、私『聖剣士』になったの」

「おお、良かったな!」


 聖剣士というのは簡単に言えば神官の力を持った剣士である。剣士としての能力も普通の「剣士」「兵士」よりも高い上に回復や強化の魔法も使うことが出来る。

 神殿での勤務も、軍への入隊も、冒険者として働くことも出来る上、数も珍しい職業だ。


「ありがとう、アレンもいい職業をもらってきてね」

「もちろんだ」

「では次の方」


 俺はドネルについて中へ入っていく。そして礼拝に使われる広間とは別の個室に連れていかれた。部屋の中央には小さな祭壇のようなものがあり、そこに透き通るような水晶が置かれている。


 俺は祭壇を挟んでドネルと向かい合って立つ。


「ではこの水晶に手をかざし、目をつぶってグローリア神に祈りを捧げるのです。私たちの生活が神により成り立っているということに思いをはせ、無限の感謝を……」

「はい」


 話が長くなりそうだったので俺は手をかざし、目をつぶる。

 そしてどんな職業が欲しいのかを考える。


 最初に浮かぶのは「将軍」「賢者」「領主」といったメジャーな職業だ。数はかなり少ないが、これらの職業を授かれば出世間違いなしと言われている。


 次に、「剣士」「魔術師」のような、出世には影響しないが能力的には優秀になれる系列だ。俺は強くなりたいとは思うが、偉くなりたいという気持ちはそこまで強くないので、こちらでも構わない。それに先ほどあげたものよりはもらえる確率が高い。


 他にも圧倒的な格好良さを誇る「聖騎士」、個人的に楽しそうだと思っている「遊び人」や、様々なことが満遍なく得意になる「冒険者」など欲しい職業はたくさんある。


 もっとも俺が思い浮かべたような職業はみな珍しいもので、大半の人は「農民」「料理人」「〇〇屋」のような職業になるのだが。


「……んん?」


 俺がそんなことを考えているとなぜか目の前のドネルから困惑するような声が聞こえてくる。職業授受の儀式は年に何度も行われるものなので今更手順が分からなくなることもないはずだ。


 それを聞いて俺はもしやすごい職業か珍しい職業を授かったのではないか、と期待に胸を高鳴らせる。もしかすると彼が今まで見たことない職業になったからこそ困惑しているのではないか。

 俺は勝手に胸を高鳴らせながら待つ。


「……いや、ですが、そんなはずは」


 が、続く彼の声は俺の期待とは違うものだった。

 そして次第に彼の声は困惑から焦りに変わっていく。


「一体どうかしたのでしょうか?」


 俺は思わず尋ねてしまう。すると彼は困り果てたような声で答えた。


「それが、どうも君は職業を授かってないようです。もしかして誕生日を勘違いしていたりしないでしょうか?」

「いや、そんなはずはありません」


 こんな仕組みがある国だから誕生日はきちんと記録され、皆しっかり覚えている。俺もここ数日は毎日日付と誕生日を確認しながらそわそわしていたから、間違えるはずがない。


 たまりかねて目を開けるとドネルはすっかり弱った様子で首をかしげていた。


「だが、ないものはないのです……いや、ですが待てよ? 聞いたことがあります。神の怒りに触れた者は『無職』と言われ、職業を授かることが出来ないと」

「そんな……俺が一体何をしたって言うんだ!」

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