第五章『天体衝突で人類滅亡 GIANT IMPACT』

 心の糸がブチ切れて絶望の嗚咽を吐き出す部室。

 環も呆然。

「あー、核爆発による電磁妨害ってことねー。余計な事してくれちゃってー」

 稲穂が今更やってきた。

「まだだ! まだ諦めんぞォ────!」

 部長は最後までヤル気だ。一人で取り組んでいる。

 何処からか賛美歌が聞こえてくる。

 一年生の一人がバチカンのHPを開けて聞いていた。

 部室はすでに阿鼻叫喚の地獄絵図。環は絶望の余り一周まわって冷静になってしまった。


 空はどんどん赤くなっている。

「しっかりしろお前ら! あと十分もないぞ!」

 一人になっても戦い続ける部長。

 ふと、隣を見ると稲穂がいつもと同じようにゲームを始めている。今度は部室のTVで格闘ゲームだ。

「イナホ先輩は変わりませんね」

 さっきの一年生はなにをトチ狂ったのか教会の神父のように皆に説教を始めている。

 もう空は深紅に染まっている。

 諦めか、達観か。どちらかはわからないが心は既に平静そのもの。

 米田稲穂。逆巻環。並んで画面を眺める。

 ふと、言葉が出た。

「イナホ先輩」

「なに~」

「先輩と会えてよかったと思います」

「ふーん。あ、死んだ」

 稲穂は聞いているのか聞いていないのかわからない生返事をした。いつも通りに。

 時計を見ればもう残り三分もない。

 外は炎の如き茜色。地球終了まであと少し。

「ねえ先輩。俺先輩のコトが、」

 ────あれ? なに言ってんの俺?

 窓からの光で部室は真っ赤になった。視界が塗り潰されていく。

 空は赤く輝き、地上の全てを染め上げる。

 泣く者叫ぶ者戦う者平常の者。誰もかれもをが赤き光の中に埋没していった。


 ………………。


 …………………………。



 ────…………………。



 ────────…………………………?




「……ん?」

 目を開けた。

 網膜に見慣れた光景が映る。いつもの部室だ。

 生きている。

 あたりを見回す。皆は伏せていたり、頭を抱えていたり、叫んでいたり、スクワットしていたりしているが生きている。

「……あれ? どうなったの?」

 稲穂先輩がきょとんとした顔で言った。

 部長が窓を開けて外を見る。

 相変わらずテガッサの縦型円盤が浮かんでいる。

 真っ暗な夜空に浮かんでいる。

「空が、赤くない」


『エエスの皆さん。『オドラデク』の直撃、及び通過は無事完了しました!』

『加えて有益な情報提供ありがとうございます!』

『今後、星間での情報輸送の機会がございましたらぜひテガッサ情報宅配便に!』

『それでは皆さん!』

『バイチャッ!』

 そのまま一瞬光ったと思えば円盤は消えていた。

 あとに残ったのはいつもの日常。

「どういうことなの……?」

 全員開いた口がふさがらなかった。

 横のPCの画面に掲示板が映っている。地球人の獲得した二十九万七千ポイントが、ひっそりと三十万ポイントに変わった。

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