第六章『太古からの落とし物 GIANT CHENTIPEDE』 

 岩魚の自宅でもある寺に戻る。

 剣次から取り上げた、すっかりしなびて小さくなった『生体』サンプルをひたすら調べている。

 剣次はというと病院に行ったもののさした異常もないのですぐに退院して寺に住みついている。

 あの『地下鉄』のことは覚えていない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 彼女はアレをひたすら探す。

 どこへ行ったのだろう? どこに隠れたのだろう?

 普段行かない場所や、恐い奴がうろつく時間にも調べたというのに。探したというのに。

 彼女は自分が知る以外にももっと大きく広い未知の世界があることは知っている。

 多少の危険は犯しても、踏み込むべきだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「真夜中に走る幽霊電車に発光する木。か」

 真田鞘香さなださやかはうさんくさそうにこちらをねめつけた。

 ここは警察事務所、岩魚と真田剣次はこのあいだのこともかねて真田鞘香と相談していた。

 鞘香がぽつりとこぼした。

「そういえば、その地下鉄が最近になって昼間にも出現したな」

「いや、それだけじゃない」

 その発言に剣次が食いつく。なんだか張り合っているように見えた。

 例のサイトによると、

 足元をなにかが走り抜ける振動。

 駅にぽっかり空いた横穴。

 突然線路に飛び降りてトンネルに消えていく人々。

「わかったか、姉さん。なにかが地下にいる」

「それは怪奇だな……ん、すまん本部から電話だ」

 携帯を取り出し話を聞く鞘香の目の色が突如変わった。

「地下鉄新大久保駅周辺で脱線事故、原因はなにかとの正面衝突だ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「これがそうだ。岩魚さん、よろしく頼む」

 薄暗く狭い地下鉄トンネル内。

 人払いはすませてある。大型ライトが設置されあたりは非常に明るくなっていた。

 そして岩魚、鞘香、剣次、ほか警察数名の目の前にはブルーシートに包まれ、ワイヤーでがんじがらめにされた『モノ』が転がっていた。

「よし」

 パチン、パチン、と岩魚は慣れた手つきでワイヤーを外していき、シートをはぎ取った。

「うわっ!」

 本能的に恐怖を刺激されたのか剣次が飛びのく。

 シートの下には、巨大な芋虫がいた。

 全長は二メートル程度。

 顔面には皿か巨大な投光器のような複眼が二つありヘッドライトに見えないこともない。全身は分厚く黒光りする装甲に覆われているが、脇腹にはまた別の器官がある。

 半透明の窓状の部分がそれであり、発見時はそこがまだ発光していたそうだ。

 岩魚は手術着に身を包み、怪物の装甲の隙間をまさぐって、

「すみません。電ノコあります?」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 新大久保付近を徘徊していたところを電車と正面衝突。

 地下鉄は怪物をひきずりながらホームに突入。

 警察が対応し『証拠品の回収』を優先し対応した。

 資料写真をとりながら手際よく岩魚は怪物を解体していった。

 怪物の装甲の間には妙に隙間があり、開くとそこにはかなり大きい空間があり、さらに内部に発光器官も確認された。

 つまり光で獲物を集め、装甲の中に閉じ込め捕まえるのだ。

「なるほど、夜間で見れば地下鉄に見えないこともない」

「いえ、地下鉄としてはサイズが足りませんし、生殖器も未成熟です。この生物は幼体ですね」

「まだいるんすかこいつら……」

 作業を終えた岩魚が芋虫のとなりに例の植物サンプルを並べた。

 だいぶ白くしなびているが未だ弾力がある。

「私なりに調べた結果。この植物は植物でなく、『菌類』だということがわかりました」

「それで、なにがわかったのです岩魚さん」

 先を促す鞘香に岩魚は言う。

「『夜の終電車』は古生代石炭紀に生息したアルスロプレウラの亜種。『光る木』はシルル紀の大型菌類プロトタキシーテスの亜種。

 おそらく、冬虫夏草のような関係です」

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