第六章『X獣 BEAST』

 とりあえず平行アンゲリカが岩魚に依頼したガラクタたちは剣次の部屋に持っていった。平行アンゲリカはリュックを広げ設計図のようなものとPC状のものをガラクタと突き合わせて放置していく。

 アンゲリカのいる基地は四川に教えてもらった。電車に乗って向かう。

 隣に座る平行アンゲリカはこれまで旅してきた平行世界のことを語ってくれた。

「どの宇宙も最初がビッグバンという現象である以上、同条件で構成されていく世界は必然的に似たような過程を経て似たような世界になるんですよ。もっとも微妙な差異もあるのですが」

 なんでも彼女が本来いた世界では剣次は雑誌記者をしていて彼女はフリーターだったとか。ちなみにあの古寺に住んでいたのは岩魚ではなく四川だそうだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ―――監獄だ。

 その建物を見た時そう感じた。

 その場所は世界から切り取られたかのように孤立している。

 等間隔にそびえた木立がまるで檻のよう。

 木々は外界と内界を分ける目に見える結界。

 誰も入れぬし誰も出さぬという意思。

 その向こうに巨大な木製の門があった。

 門をくぐってみればそこは寝殿造りの屋敷である。

 研究ではなく会議などの目的の場合こういう建物の方が便利なのだろうか。

 見張りの自衛隊員がアンゲリカと同じ顔の平行アンゲリカの顔を見て息をのんだ。

「……しかし、なんだこりゃ」

 門の中に入って見れば庭中に大量の紙が投げ込まれていた。

 郵便受けも同様にハガキ、封書、メモ用紙、CD、DVD、メモリーカード。様々なものが押し込まれている。

「何か……妙な男がうろついていて、窓に紙でくるんだ石を投げ込んだり変な紙屑を戸に突っ込んだりしておりまして」

 見張りの隊員が話す。彼らが捕まえようとすると男は煙のように逃げてしまうらしい。

 紙を拾って広げると識別コードのような模様が広がっていた。

 面会ということで中に通してもらう。本来は許されないことらしいが四川の口利きがあったらしい。

 アンゲリカは書斎にこもっているとのこと。

 長い廊下を突き進み書斎の扉をノックする。

「はぇぇい……」

 中から気の抜けた返事が聞こえた。扉を開けるとアンゲリカがいる。

 アンゲリカは机に突っ伏しており、剣次たちの姿を確認するとふらりと立ちあがる。足元がふらついていた。

「お前、大丈夫か?」

「……大丈夫ですよぅ。うぇーい」

 見たこともないくらい頼りない生気の抜けた顔をしてVサインをするアンゲリカ。見ていて痛々しい。

「ホントに大丈夫かお前。自衛隊に拷問でもされてるんじゃ……」

「そんなことないですよぅ。むしろ毎日お医者が来てくれるくらいで……」

 心配されてるんですう私。とアンゲリカは苦笑した。

 そして剣次から視線をズラし平行アンゲリカの方を見て眉を顰める。

「やってくれましたねっ」

「参ってるみたいですね」

「大したことないだろうと思って召集に応じたらいきなり質問攻めですからねぇ。それに私名義で出てたあのHPの論文」

「どうですか? 私の書いたのは?」

「生物学者ではないので詳しいことは言ーえーまーせーんー、が――――」

 アンゲリカが机の上のPC画面を広げて来る。画面にはあのクラックされた『ネイチャー』のHP。

「――――やはり、貴女の仕業でしたか」

「そうです」

 真剣な顔で頷く平行アンゲリカ。やはり彼女が犯人なのだ。

 しかし、何の目的で。

「名を騙ったことは謝ります。しかし私がこの世界に干渉するための起点としてもう一人の『私』を使うのが最も効率的だったのです」

「世界に干渉ぅ、とは?」

「数多の平行宇宙。を渡り歩いてきた私の最終目的です」

 アンゲリカの鼻先に人差し指を当てる平行アンゲリカ。

「どういうこと?」

 アンゲリカの潤んだ弱った瞳が見つめる。

X獣カイジュウとの戦争に決着をつける」

 力強く平行アンゲリカが胸に手を当てた。


「私はあの『X獣カイジュウ』を倒すために、平行宇宙を旅しているのです」

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