三章『怪人たち HUMANS』
真昼の崖の上。この時間帯は影がかかって涼しい。
草の上に座りカップ麺をすする剣次。横にはコンビニの袋。残り汁は崖の下へと捨てている。
「蕎麦のような、それでいてまた違うソレは昼飯かね」
頭上の声に顔を向けると太い枝に『鳥』がいた。
せっかくいつもと時間をずらして来たのに無駄になってしまったことに悪態をつく。
「はは、嫌われたかな」
『鳥』は真面目腐った口調で笑う。
「こんな時間にも来るのだな。仕事はどうした?」
「バイトはもう少し後だよ。関係ないだろ」
「『ばいと』? ……よくわからんが、ろくな仕事じゃないな。口ぶりでわかるぞ」
「ほっといてくれ。……てゆーかお前は何者だ? 名前は? 世間じゃ宇宙人とか異次元人とか言われてるぞ」
「相当な言われようだな……」
「その姿見て人間だと思う方がおかしいと思うけど」
強い日差しが顔に当たる。影がズレ始めた。少しの沈黙の後、『鳥』が口を開く。
「私の名は、『
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜のファミレス。困り顔の塔香の前にはニコニコ笑う宇津良氏。塔香の隣ではなぜか付いてきた須田がハンバーグを注文している。
「さ、どうぞ貴女も」
宇津良氏から差し出されるメニュー表に苦笑いをしながら塔香は受け取る。
「いやあ、貴女の書かれたレポート、とても感銘を受けました。どこでお調べに?」
「ええ? ああ、いや」
どうもこの宇津良という年寄りは教授の知り合いらしい。教授に会いに来た時たまたま目にした塔香のレポートに反応し面会を申し入れてきたのだとか。
妄想とネットのコピペ八割の適当な駄文とは知らずに。
「で? あの情報は出どころはなんです?」
「あ、え~と。守秘、義務とか」
「んん~。そうですかぁ」
残念そうに頭を掻く宇津良氏。
「分かりました。私の話からまず初めて、駄目なら諦めましょうか」
「いやあのですね」
「私ね、……会いたいんですよ。あの『鳥たち』に」
机の上に鉄板焼きのハンバーグがどんと置かれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜のマンション前。道路上で若い男女がふらふら歩いている。お互い酔っているらしい。
「んぃ? なにあれぃ?」
女性が呟く。マンションの前の大きな樹の下に人がいる。この熱帯夜に外套を着こんでいるらしい。
「すまん、少しいいか」
人影が喋った。飛び上がって驚く男女。
「ここに、
人が此方を見た。その顔は、人ではなく鳥の顔。総毛立つ男性。次の瞬間。
「動くな!」
複数方向から光を浴びせられる。警官に囲まれた。
「不法入国容疑で逮捕拘留させてもらう」
光の向こうから威圧的な言葉が飛ばされる。『鳥』がどこか自嘲気味に笑った。
「そうか。────もはやこの国の人間ですらないのか」
『鳥』はばさりと翼を広げ羽ばたいた。みるみる上昇していく『鳥』の体。警官隊は拳銃を構えたり降ろしたりしてもたついている。射撃指示は出ていないらしい。
そうこうしているうちに『鳥』は星の見えぬ夜空へと飛び去っていった。
真夜中の東京。輝く夜景を背景に、奇妙な通信音声。
『……『雀』、応答せよ』
『こちら『雀』。事情により原隊復帰時間に遅れあり』
『……カレーか?』
『あ、バレました? いやあ海軍時代が懐かしくって』
『食うのは構わんが原隊復帰を優先しろ』
『了解、早急に帰還します』
深夜の崖の上。細い枝先に『
『……お疲れ様です。どうですか『
「わからんよ。姿も見えんしどこに隠れているのか」
『困ったやつです。早く見つけましょう』
「お前、陸に降りるのはまだだったか」
『明後日の予定です。その時はよろしくお願いします』
ああと返事をする鳶。できる事なら玉手箱が紐解かれぬようにと誰にも聞こえぬ声で呟く。遥か彼方の高層ビルの赤い光を眺めながら。
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