第64話 見舞い



「あの日、お父様が傷つく姿を見てロヴェイユ様をお呼びしました。

約束した通りにお力を貸して下さいました。」


アンの話が終わった。


「話してくれてありがとう。

落ち着いたら竜にお礼を伝えたい、そう話しておいてくれるかい?」


「必ず、伝えておきます。」


僕も竜にお礼を伝えたいと思っていたが、父も同じだったようだ。


「俺からもお願い出来るか?

竜には命を救って頂いた。」


「僕も。」


「お父様、お兄様を救って頂いたこと、私もお礼を伝えたいです。」


アンが微笑む。




「殿下、アンにまだ話があるのでは?」


父の言葉にアンは不思議そうにしている。

殿下は何やら考えているご様子だ。


「あります。

先にアンに二人っきりで伝えたいのですが、お時間を頂けますか?

その後、伯爵ともお話しさせて頂きたい。」


「承知しました。

エドワード、席を外すぞ。」


僕と父は部屋を出た。




「殿下からアンへの話とは何ですか?」


応接室を出て自室へ向かった父を追いかけた。


「わからないのか?

陛下が亡くなり、殿下は次期国王になられる。

では、殿下の婚約者であるアンは?」


「、、、王妃になるということでしょうか?」


「そうだ。

殿下はアンにプロポーズをされるおつもりなのだろう。」


、、、プロポーズ?


「近いうちにアンは王城へと嫁いでいくだろう。」


、、、嫁ぐ?


「エドワード、、、泣かないのか?」


今までの僕だったら涙と鼻水で顔がぐっしゃぐしゃになっていただろう。

ショックで頭が真っ白だが、涙は出ない。


「殿下ならば、アンを生涯幸せにして下さると信じていますから。」


強がってかっこつける。

本当は僕が守りたい!!!!!


「そうだな。

それに、、、お前にもアンよりも好きな女が居るみたいだし、なあ?」


父がニヤニヤしている。


「どうしてマリエルのことを!!??」


「ん?俺はマリエルだなんて一言も言ってないが?」


父の顔が更に緩む。


「何でもありません!!!!!

、、、マリエルの様子を見てきます。」


彼女とテオはまだ目を覚ましていない。


「マリエルもテオも大丈夫だ。

俺が選んで、雇った者たちを信じろ、エドワード。」


「お父様の人を見る目は確かな物です。

僕も二人を信じます。」


父の部屋を後にして、マリエルの元へ向かった。




「入っていいかな?」


マリエルが休む部屋をノックして、声をかける。


「エドワード?

入って。」


中から母の声がした。


部屋に入ると、ベッドにはマリエルが横向きに寝ていた。

マリエルは背中を刺されているので、うつ伏せにはなれない。

ベッドのそばには母が椅子に座っていた。


「エドワードも様子を見にきたのね。」


「はい、まだ目が覚めないのですね、、、。」


「ええ、山場は越えたと聞いたけれど、、、。

まだ油断は出来ないみたい。」


しばらく二人でマリエルを眺めた後、母が立ち上がる。


「二人きりにしてあげるわ!

マリエルに何もするんじゃないわよ?」


「何もしません!!!!

って、、、どこまで知ってるんですか?」


「どこまで?何も?」


とぼけた母の顔を見てわかった。

これは、、、全部知ってるな?


母が退室し、寝たままのマリエルと二人きりになる。


「マリエル、早く起きてくれ。

地下道での続きを君と話したい。」


マリエルのおでこをそっと撫でる。

前髪が柔らかかった。




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