第56話 混乱


「なんだ!!??

何の音なんだ!!??」


助祭がパニックになっている。

巻き戻る前にこの場に居なかった助祭は、竜の咆哮を聞くのは初めてだ。

何の音か予想もできないだろう。


「アン!!??」


アンが意識を失い、加護が外れて竜が来るのだろう。

あの悪夢が再び起きてしまう。

アンを起こそうとした時、僕は気づいた。

アンには意識があった。


「よくもお父様を、、、。

王城の皆様を、、、。

私の家族たちを、、、。」


涙を流すアンだが、悲しみではなく怒りの表情をしていた。


大きな音がして王城が崩れる。

割れたステンドグラスからは大きな赤い顔と手が入ってきた。


「竜!!??」


助祭は驚きの声をあげ、竜を見上げて固まっていた。


「はい、お呼びしました。」


アンが竜に向かって話している。

どうやら竜とアンが会話を始めたようだ。

僕らには鳴き声にしか聞こえない。

アンは竜と話せるのか?


「アン!!??

これは一体、どういうことなんだ!!??」


目の前で起きていることが信じられず、アンに問いかける。


「ごめんなさい、お兄様。

終わったら全てをお話し致します。

もちろん、殿下にも。」


アンが困った様に笑った。

再び、竜に向き直る。


「この方を遠く、険しい山に置いてくることは出来ますか?」


竜が何かを言う。

多分、言ったのだろう。


「どちらでも大丈夫です。

二度とここへ戻って来られない場所へ。

置いてきたらもう一度ここへ来て頂きたいです。」


竜はアンが指さした助祭を指で摘む。


「やめてくれ!!!!!

聖女様お許しください!!!!!

何でも致しますから!!!!!」


助祭が涙を流しながらアンに許しを求める。

顔が涙でぐしゃくじゃだ。


「あなたにして頂きたいことは二つ。

二度とこの国に足を踏み入れないこと、反省すること、これだけですわ!!!!!」


アンの言葉を聞くと、竜が高く高く飛び上がって行った。


「このクソ女!!!!!

覚えてろよ!!!!!」


助祭の声が空に響いていたが、すぐに聞こえなくなった。


「お兄様!!!!!

お父様の止血を早く!!!!!」


「あ、、、ああ!!!!!」


アンに促され、すぐに父の手当をした。


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