第36話 聖女の奇跡



大教会、王城、フェイン家の屋敷の隣の街に教会はある。

僕と殿下は馬車で共に向かった。



「殿下、ご足労頂きありがとうございます。」


教会についた殿下と僕を眼鏡を掛けた大柄な男性が迎えてくれた。

黒幕候補の一人、アダムス司祭だ。


「殿下!エミリーに会いに来て下さったのですか〜?

嬉しいですう!」


殿下の前でぶりっ子をしているエミリーはサラの時とは別人のようだ。


「こちらフェイン伯爵家の御子息、エドワード様です。

聖女に関しての記録をして頂いています。」


殿下がアダムス司祭に僕を紹介した。


「アン聖女のお兄様ですね?

司祭のアダムスと申します。

本日はよろしくお願い致します。」


「エドワード・リー・フェインです。

こちらこそ、よろしくお願い致します。」


頭を下げた時に僕のことを睨んでいた。

見逃してないからな!!??




エミリーの聖女としての活躍を聞きながら、教会を見学した。

枯れていた花を蘇らせたとか、天候を変えたとか嘘みたいな話ばかりだった。

たぶん嘘だろう。


「エミリー様!

いらっしゃいませんか!!!

どうかお助け下さい!!!」


教会の入り口の方から女性の声がした。

司祭とエミリーが走り出すので、僕と殿下も続いた。


「ああ、エミリー様!

どうか息子をお助け下さい!!!」


そこにはぐったりした男の子を抱いた女性が立っていた。

二人ともボロボロの服を着ていた。

アダムス司祭が男の子の額に手を置く。


「これはひどい熱だ!

すぐにベッドに運びましょう。」


教会の奥の部屋のベッドに男の子を寝かせ、エミリーがそばに立つ。

アダムス司祭がエミリーにコップを渡す。


「エミリー、奇跡の水でこの子を癒せるかい?」


「はい、司祭。」


エミリーはコップを胸に当て、祈った。


「女神様、少年を病からお救い下さい。」


男の子の上半身を起こし、少しずつ水を飲ませていく。

時折声を掛け、男の子を励ましていた。

まさに聖女のような姿だった。

数十秒掛けて、男の子は水を全て飲み終えた。


「これで大丈夫でしょう。

時期に良くなります。

それまでお母様も一緒にこの部屋で休んでいてください。」


エミリーが母親に優しく声をかける。


「ああ、エミリー様!

本当にありがとうございます!!!」


母親は涙を流しながら感謝していた。

司祭は何かあればすぐに自分を呼ぶようにと、部屋に教会の者を待機させた。




僕らは教会の見学の続きに戻った。

教会の中庭には花が咲いていて、エミリーが育てているのだと自慢げに語る。


「エミリー様!!!」


突然、エミリーを呼ぶ声がした。

振り向くと、そこには先ほどまで熱でぐったりしていた少年が元気そうに母親に抱かれていた。


「エミリー様のおかげです!

息子は3日前から何をしても熱が下がらず、苦しんでいました。

お水だけで治してくださるなんて、、、さすがは聖女様です!

ありがとうございました!」


涙を流しながらお礼を言う母親。


「殿下、これがエミリーの聖女としての力です!

エドワード様、記録をお願い致します。」


アダムス司祭が微笑んでいる。


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