第四話 縮地ノ術



「おまえに縮地ノ術を教える」


 そういうと徹山は九寸五分(約30センチ)の鎧通しを抜いた。

 鎧通しは重ねの厚い直刀で戦場での組み討ちを想定した短刀である。徹山は他行(外出)の際、常にこの短刀を右腰に差していた。


 一馬はちらりとさわをみた。

 対峙する親子とは距離をとっているが、遠慮して去る気配はない。興味津々きょうみしんしんといった目で見つめている。


「構わぬ。気を散らすな」


 徹山がいった。見られたところで実害はない。縮地は門外不出の秘伝ではないのだ。


 ならば、と一馬は持っていた木刀を構えた。

 すると――


 徹山が風のように動いた。

 二間(約3メートル半)あった距離を一気に詰められた。


 ぴた。


 気がつくと鎧通しの刃を首筋に当てられていた。


「わしがなにをしたかわかるか?」


 刃を首筋に当てたまま父が訊いた。

 一馬はわずかに首を振った。

 スッと父は刃をひき、鞘に鎧通しを納めた。


「これが縮地だ」


 父はもとの場所にもどると前傾姿勢をとる。


「わしの足元をよく見ておけ」


 そういうと、父は前方に倒れ込むようにして膝を抜いた。





   第五話につづく

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