【完結】怪人同盟 ~正義と悪の狭間で~

maesonn

プロローグ

正義と悪とその狭間

【1】



 ――その世界には、正義ヒーローがいてヴィランがいる。


 20XX年、世界はかつて混沌の渦にあった。


 異世界からの征服者、宇宙からの侵略者、悪の秘密結社……複数の勢力が同時多発的に世界に降り立っては世界の秩序を破壊つくさんとした。


 後に「混沌の世紀カオティックセンチュリー」と呼ばれるこの時代は、秩序の中で生きる者達にとってはまさに悪夢の時代と言えた。


 だが、そんな暴虐の時代に、秩序の光を取り戻さんと立ち上がった者達も確かにいたのだ。


 それこそが、【ヒーロー】。様々な能力ちからを駆使して、秩序の破壊者達に立ち向かった者達だ。


 激しい戦いの末、ヒーロー達は世界から秩序を取り戻すことに成功した。


 今の世界は、ヒーロー達による、ヒーロー達が中心の時代「正義の世紀ジャスティスセンチュリー」を迎えている。


 世界は秩序を取り戻した。しかし、安定している訳ではない。


 未だ、世界各地には侵略者達の残滓ざんしがくすぶり、消えないでいる。ヒーロー達は彼等を悪――ヴィランと断定して必死の戦いを続けている。治安が良いとは言えない。ともすれば、世界が再び大混乱に陥ることが十二分に起こりうる世界なのだ。


 ヒーローを中心とした人々が、不断なき努力の末に、危うい均衡きんこうの上で秩序を形成している。正義の世紀ジャスティスセンチュリーとはそんな世界だ。




 この世界には正義ヒーローがいてヴィランがいる。


 だが、この物語は正義ヒーローヴィランだけの物語では無い。


 正義ヒーローヴィランの物語であり……その狭間に生きる者達の物語でもある。



△△△



「この前の〈ティアエレメンタル〉、格好良かったねー!」

「ほんとほんと、〈コンプレックス・コンキスター〉の幹部を追い払っちゃったの、大金星だよね!」

「でもティアアクアさんの怪我が心配……」

「大丈夫かなぁ……ヒーローでもやっぱり怪我は心配だよ……」

「この前の〈プリンスナイト〉カッコ良かったよなぁ!」

「俺としては〈マスクドソルジャー雷電〉の方が……」


 昼下がりの学園、教室の中、昼休みに興じる学生達の会話が聞こえる。正義の世紀ジャスティスセンチュリー真っただ中の世界においては、ヒーローはがぜん注目の的である。


 会話の中にヒーローが上がることなんて日常茶飯事。アイドルのように羨望せんぼうの声を向けられるヒーローも多数存在する。もっというと、この世界では、様々な事情からヒーローがアイドル(あるいはその真似ごと)をやっているパターンも珍しくない。


 また、この学園――〈国立東雄高等学校こくりつとうゆうこうとうがっこう〉は、若きヒーローを育てるための学科である〈ヒーロー科〉が存在している。実績もかなりのものであり、卒業生にも在学生にも有名ヒーローがいる。そんな学校なので、校内では自然とヒーローのことが話題の中心になるのである。


 さて、そんな中にとある男子高校生が二人、顔を向き合わせて雑談をしている。


「黒いスーツに、銀のマスク、異形の姿……謎の存在たる〈怪人〉の目撃情報は増えている!」


「と言ってもそれ、ソースが全部うさんくさいのばっかりじゃない?」


 興奮した様子で話す男子に比べると、聞き手側の男子にはそこまでの熱量はなかった。


「それに、この世界にはヒーローもヴィランもいるんだよ? 〈怪人〉がいたっておかしくないじゃない?」


「それはそうだけどロマンが無いよぉ!? 謎の存在に心が震えないなんて、ロマンが無いんじゃないかなぁ!? 藤田ふじた蒼澄あおとくうんん!!」


 聞き手側の青年――藤田蒼澄は、やや理不尽な批難の声を苦笑で受け流す。


 どこかぽやっとした雰囲気をまとわせる青年だった。くりっとした優しげな瞳や、やや丸っこい顔の輪郭、ぷりっとしたこぶりな唇、色々じっくり見てみるとまるでハムスターを思わせるかのよようである。カッコいい、というよりはカワイイという言葉が先に出てしまう。


 ただ、身体つきの方はあまり丸みを感じさせなかった。身長こそおよそ170cmと少しであり、あまり高いとは言えない。だが、全体的なシルエットがシャープであり、特に手のひらをよくよく見ると、ゴツゴツした部分が見え隠れしていた。鍛え上げられた手つきである証拠である。そんなところを見ると、小動物は小動物だが、イタチのように獰猛さを備える小動物にも見える。藤田蒼澄は、そんな青年だった。


 ちなみに、さっきから彼に色々語っている青年の名前は橋本。名字の五十音が近いので席が前後で隣り合わせになり、自然に蒼澄と仲良くなった。


「ロマンねぇ……」


 蒼澄が呟く。彼自身、男の子が好きなモノは大体好きではあるのだが、この話については蒼澄の食指しょくしが動かない。


「まぁ、蒼澄は普段の生活がロマンに溢れてるからなぁ」


「どういうこと?」


「どういうことってお前なぁ……」


 蒼澄のキョトンとした表情に、橋本が心の底から呆れを吐き出したようなため息をつく。そして、蒼澄をジト目でめつけた後、拳を握って言い放つ。


「実感が無いなら、お前に教え込んでやる……お前の私生活がどれだけロマンあふれるのかを!」


「は、はぁ……」


「まず一つぅ! お前の親父さんだっ!! お前の親父さんである藤田小五郎さんはこの日本における五指に入る最高のヒーローである〈サムライマスク〉だぞ!!」


 勢いある張り上げた声で橋本が蒼澄に言葉を叩きつける。周りも何事かと視線を向けている。蒼澄はなんだかいたたまれなくなっていた。


「それだけじゃねぇ! お前のお母さんは異世界たる〈トレッセルーン〉の元王族っ! めっちゃ美人!! しかも血の繋がりが無い義母っ!! さらには義妹もいると来たもんだっ!! こっちも美人っ!! 義妹のリコちゃんも有名人だしっ!! 更にはだなっ!!」


 橋本は、以下延々と語る。要約すると、蒼澄の交友関係がいかにロマンあふれるものかと、普通ではあり得ないくらいに凄いものなのだと言いたいらしい。蒼澄としては自分の家族や友人の話しをされてるだけなので、『はぁ、そうなんだ……』、という感想しかわかないのだが。


「とどめにお前の幼馴染だよっ!」


 橋本がテンションをさらに一段階上げる。周りの目が本格的に痛くなってきたので蒼澄としては止めて欲しかった。


「お前の幼馴染! お前の幼馴染にはな! フィクションでしか見ないような美少女幼馴染がいるんだぞっ!! この学園一の美少女といっても過言じゃない存在っ! やや赤い地毛を長いストレートにした超絶美少女っ!! メロンのような巨乳!! 桃のような巨尻!! ムチッとした太腿!! たくましく健康的な腰つき!! キリリとした吊り目!! チラリと見せる八重歯がチャーミングっ!!」


 橋本の凄まじい熱弁にクラスの何名かがうんうんと頷いている。男子だけじゃなくて女子にもその反応が見える辺り、蒼澄は話題に上がった彼女の人気を改めて実感してしまう。


「お前にはなぁ……幼馴染にあの朱音あかねさんがっ! 学園最強の美少女の大和朱音やまとあかねさんがいるんだぞっ!! しかもその朱音さんはあのティ……」


「ありがとう橋本君。でもそこまで言われると面映おもはゆいわね」


 いつの間にか、橋本の後ろに一人の少女が立っていた。熱く語っていた橋本の動きが瞬時に止まる。そして、彼はまるでロボットのようにギギギとゆっくりぎこちなく顔を後ろに向ける。


「あっ、朱音ちゃんだ」


「大和さんっっ!?!?」


 唐突に現れたくだんの人物、蒼澄の美少女幼馴染――大和朱音を前にして、二人の反応は正反対だった。ちなみに、朱音と蒼澄は別のクラスである。


「大和さんっ! これは、そのっ!!」


「ごめんなさい、驚かしちゃって……でも嬉しかった、ありがとうね」


 朱音が満面の笑みを橋本に向ける。柔らかく、温かみのある笑顔が大変に魅惑的だ。その笑顔を向けられた橋本が、分かりやすく顔を赤くして照れる。


「ところで、どうしたのさ朱音ちゃん? わざわざこっちのクラスに来るなんてさ」


 橋本を横に置いておいて、蒼澄が朱音に問いかける。周りの生徒の視線は全て朱音に集まっていた。


「あんたに用があったのよ、蒼澄」


 そんな視線を気にする様子もなく、朱音は蒼澄に言った。橋本の時の対応と違い、長い付き合いである幼馴染の蒼澄への態度はくだけたものだ。もっとも、蒼澄が朱音に対しての態度も同じではあるのでお互い様だが。


「今日の放課後。あんた、予定ある? ないわよね? ないって言いなさい」


「実際ないんだけどさ……なんでそんな圧かけるのさ」


「そんなことはどうだって良いでしょ」


 朱音の質問に乾いた笑いで蒼澄が答える。この幼馴染は、親しい間柄の人間に対しては遠慮がないことを蒼澄は良く分かっている。


「今日、師範と個別の稽古やる予定なのよ。あんたも一緒に道場に来て参加してちょうだい」


「それ自体は問題ないけど、良いの? 個別の訓練なんでしょ?」


「別に、他の人が参加しちゃいけないって訳でも無いから。それに、あんたがいた方が稽古が捗るわ」


「ふぅん……そんなもんかな。了解、放課後は校門で合流しよう」


 朱音の頼みを蒼澄がその場で引き受ける。蒼澄としては、特に断る理由もない。だが、一つだけ疑問に思うことがあった。


「それくらいのことなら、携帯に連絡すれば良かったんじゃない? わざわざクラスに来て直接言わなくても……」


 蒼澄の素朴な疑問に、朱音はぷいとそっぽを向く。


「……別に、たまたま近くを通ったからついでにって思っただけよ」


「ああ、なるほどね」


「別に、あんたの顔が見たかったって訳じゃないから勘違いはしないようにね」

 

 それじゃ、と短い言葉を残して朱音が蒼澄のクラスから出ていった。蒼澄はそれを困ったような顔で見送った。


「全くもう、唐突なんだからほんと」


「なぁ、蒼澄……」


「どしたの?」


「……いや、なんでもない」


 言葉をにごした橋本に、蒼澄は若干の疑問を感じつつも、そのタイミングでチャイムが鳴ったので深くは追求しなかった。


 ちなみに、橋本にはバッチリ見えていた。蒼澄から顔を背け、教室から出ていこうとした朱音の表情を。


 まさに恋に恥じらう乙女の表情だった。口を結びつつも、顔を赤くして、強い言葉を使って照れを隠していた。「あんたの顔が見たかった訳じゃない」、なんてうそぶきながら、その本心は言葉と全く真逆のところにあることを、ありありと表情が伝えていた。


 そして、それらは、朱音が蒼澄に対してどんな想いを持っているのかを、あまりにも分かりやすく雄弁に物語っているのであった。


「美少女幼馴染にしてツンデレキャラかよ……」


「なんか言った?」


「なんでもねーよ」


 もっとも、そんな朱音の想いを蒼澄は全く気づいてない。そんな様子が橋本にも伝わったようである。どこかぼやっとした蒼澄に対して、橋本は少々ぶっきらぼうに接してしまうのであった。



△△△



 バタンッ――――!!


 バタンッ――――!!


 小気味よい音が室内に響く。


 人が畳に投げられ、叩きつけられる時の音だ。だが、しっかりと受け身が取られた上で発せられたその音は、痛々しさを欠片も感じさせない。むしろ一種の爽快さがあるかもしれない。


 バタンッ――!!


 バタンッ――!!


 先程から投げられているのは蒼澄で、投げつけているのは朱音だ。蒼澄がひたすらに当身あてみを繰り出そうとしては、朱音がそれを受け、崩し、そして投げている。


 その様子を、一人の男性が正座をして見守っている。細身な男性でありながら、無駄なく肉付けされた筋肉が着ている道着の上からでも分かる。表情こそ柔和だが、二人の動きを一切見逃さんと言わんばかりに、ギラリと鋭い眼光を放っている。


 この男性は、蒼澄と朱音にとっての武術の先生である。名は、黒川龍二くろかわりゅうじ。二人が通っている道場である、〈黒川流柔術道場〉の師範である。


 さて、正義の世紀ジャスティスセンチュリーは、ヒーローが中心となって作られているヒーローのための時代である。


 そのため、大小様々な事柄が、ヒーローのための社会へ合わせるかのように発展を遂げていった。


 その中の一つに武術がある。


 正義の世紀ジャスティスセンチュリー前の時代における武術は、どちらかという競技としての側面、およびそれを通しての精神教育的な側面が強かった。


 柔道や剣道などは分かりやすいだろう。特に柔道は競技性を高めるために、怪我の危険性が高い技を次々と禁止したほどだ。


 これらを競技として競い合わせることで、相手への礼儀や敬意を育む。武術にはそういったことが役割として求められていた。


 だが、混沌の世紀カオティックセンチュリーを経た正義の世紀ジャスティスセンチュリーにおいては、武術の求められる役割が変わった。


 もちろん、前述の役割も無い訳ではなかったが、それ以上に実戦で使えることが役割として求められたのだ。


 ヒーローがなぜ時代の中心になっているか、それはヴィランがいるからである。各地に潜むヴィランの魔の手から罪なき人を守る存在が必要だからこそ、ヒーローがいるのだ。


 そして、ヒーローには力が必要だ。


 力を求めるヒーローに対して、競技としての武術ではその需要に応えることは出来なかった。ゆえに、この世界における武術は、戦闘で使えるより実戦的なものとして発展していくことになる。


 この〈黒川流柔術道場〉もその流れで生まれた。元々は合気道の道場であったのが、時代の要請に合わせて実戦的な武術として生まれ変わった末に出来たのがここであった。


 もっとも、合気道は大東流だいとうりゅうという柔術を中心とした総合武術を源流としている。そういう意味では、生まれ変わりというよりは先祖返りに近く、似たような現象は正義の世紀ジャスティスセンチュリーにおける世界の各地で起こっていた。


「止めっ!」


 黒川が声を上げる。蒼澄と朱音の二人は、その言葉を最後に動きを止め、格式に則った礼をお互いに交わす。二人の全身から、汗がとめどなく流れていた。


「次は剣を使った稽古にしましょう」


 黒川がそういうと、二人は勢い良く「はい!」と返事をして木刀を準備する。


「稽古の前に、身を守る防御装具ガードクロースの動作もしっかり確認してください」


 その言葉に、二人は再び勢い良く返事をして、自身が装着している装備の動作確認をし始めた。


 先程は武術が実戦的な発展を遂げた理由として、時代の要請という理由を上げた。だが、大きな理由はもう一つある、それが技術の発展だ。


 戦争は発明の母というが、混沌の世紀カオティックセンチュリーという未曾有の大戦乱を経験した世界は様々な技術を得ることになった。


 異世界からの技術、外宇宙からの技術、秘密結社が秘匿していた技術……これらの技術は、ありとあらゆる分野で凄まじい技術革新を引き起こしたのである。


 その波及は武術にも及ぶ。特に目立ったのが防具だ。


 武術というのは危険が伴う。空手がなぜ寸止めで訓練するのか、なぜヘッドギアとグローブの着用が義務付けられたフルコンタクト空手なるものが生まれたのか、それは鍛え上げられた空手家の拳や蹴りは、容易に人体を破壊してしまうからに他ならなかった。


 しかし、正義の世紀ジャスティスセンチュリーにおける先進的な技術は、防具によって人の身を守ることを手軽にしたのだ。


 例えば、今蒼澄と朱音が着けている指ぬきグローブ。ほとんど素肌に近い状態の拳であるが、防御装具ガードクロースであるこのグローブを装着することによって、相手へ与える衝撃と自分が受ける衝撃を緩和してくれる。それらに類する装備を脚や首といった部分に着けている。


 これらによって、実戦を想定した稽古であっても、寸止め等で相手を守る必要が無くなり、より本格的な稽古をすることが可能になった。その影響で、実戦的な技術が稽古で磨かれやすくなり、武術はますます発展したのである。


「――――」


「――――」


 蒼澄と朱音が木刀を正眼に構えて見つめ合う。間合いは一足一刀いっそくいっとう、一歩踏み出せば相手に剣が届く距離だ。


 ややあって、蒼澄が踏み込む。正中線をきれいになぞるような、上から下の切り落としを朱音に斬り放った。


「――ヒュッ!」


 浅い呼吸とともに、朱音が右斜め前に半歩踏み出し蒼澄の攻撃を躱す。そのまま、身体を回転させ、蒼澄の力に逆らわずその力を利用するようにして、彼の身体を崩しながら押し付けるように木刀で首元を斬った。


 首元から下に向かう力を押し込まれたことによって、畳に叩きつけられた蒼澄。受け身を取ってすぐさま起き上がるが、朱音が起き様に肩を掴んで懐へ引き寄せる。そして、蒼澄の顎を斬りながら後ろへ転がした。これらの動きは全て、力みを全く感じさせない柔らかなものだった。


 朱音の動きも流麗だが、受ける蒼澄の動きもまた同じくらいに美しかった。二人が並々ならぬ実力をもつという証左しょうさである。


 そういった稽古を何度か繰り返した後、黒川が声を上げ、二人を止める。


 そして、武器を変えてまた同じように稽古を行う。時折、攻め手と受け手を入れ替えたりもした。


 そうして、約二時間が経った頃合いになり。黒川が稽古の終了を宣言した。


「「「ありがとうございました」」」


 三人がお互いに向って礼をする。どんな風に発展しようと、武術のこういった礼儀を重んじる姿勢は変わらなかった。

 

「やはり二人とも素晴らしいです。その歳にして、ここまでの技の冴えを見せる者はそうそういないでしょう」


 師範の黒川をして、蒼澄と朱音の評価は高い。


「ただ、少しだけ朱音さんの方が攻め気が強かったのは気になりました。もっとも、それがあってなお動きがなめらかであったのは素晴らしいことですが」


「……はい」


 朱音が少しだけ眉を動かして呟いた。


「朱音さん、心の乱れは一瞬の隙となります。戦いにおいてはそれが致命的なものとなるでしょう。聡明なあなたにとって、こんなことは百も承知だろうと思いますが」


「とんでもないです。師範の言葉がためにならなかったことはありません」


「それは良かった」


 黒川が温和に笑う。


「朱音さん、あなたの背負うものは重い。あなたの心の乱れについて、ここで根掘り葉掘り聞くのはやめておきます。ただ、背負っているものを誰かと協力して持つことは出来るはずです。そのことを忘れないようにしてください」


「……ありがとうございます」


 朱音が深々と礼をする。その姿を、蒼澄はどこか遠くの存在を見るかのようにながめていた。


 朱音は、〈国立東雄高等学校こくりつとうゆうこうとうがっこう〉のヒーロー科に通う生徒である。


 このヒーロー科、優秀なヒーローを生み、育てるために創設された学科である。さて、ここに通う生徒だが、全ての生徒が最初からヒーローである訳ではない。大体の生徒は、世間からヒーローとして認められていない状態からスタートする。


 なのだが……大和朱音に関しては違った。


 彼女は、すでにヒーローなのだ。ヒーローとして世間から認められて、ヒーローとして世界を脅かすヴィランと戦っている者だ。


 朱音が背負うもの、それは、世界の平和。


 確かに、一人の少女が背負うものとしてはあまりにも重い。

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