神にすくわれる
シヨゥ
第1話
信じるに足りるものがあればわりとやっていけるもんだ。
どんなに非科学的であっても、どんなにちっぽけでも。自分が信じられさえすればいい。
信じることで今の自分が証明されるようなもの。そんなものがあればすばらしい。
「奏ちゃーん!」
「恵子ちゃーん!」
現場にくるとその思いが強くなる。
自身の推しに、自分の存在をアピールするために前へ前へとファンが殺到していく光景。それを壁に体重を預けながら見ている。
別に誰かが好きなわけではなく、音楽性やアイドル同士の関係性がなんとなく好きでにわかファンとしてやってきている僕にとっては異様に見える。
しかし彼らからしたら当たり前。好きなアイドルを信じて、名前を叫び、体を動かすことで彼らは自己の存在を証明しているようなものだ。
この光景はもしかしたら城攻めのようなものかもしれない。お殿さまを信じて、行けや掛かれやの号令で喊声をあげて敵城になだれ込む死を恐れぬ男たち。そう考えると彼らもなんだか勇ましく見えてくる。アイドルよりも彼らを応援したくもなってくる。
「突然ですが発表があります」
そんな気持ちで見ているうちに4曲目が終わり、神妙な面持ちでリーダーの奏が前に出た。なかなか言い出さないことで事の重大さに気づいた彼らが静まり返る。そして、
「私たち、今日を持って活動を終了することになりました」
そう告げられた。
「神は死んだ」
ライブ終了後、彼らのうちの誰かがそうつぶやいたのを聞いた。
信じるものを失った彼らはもろい。青い顔をして三々五々散らばっていく。まるで敗残兵だななんて思う。
彼らがまた新しく信じられるものに出くわせますように。そう願いつつぼくも家路を急ぐことにした。
神にすくわれる シヨゥ @Shiyoxu
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