第151話:付与魔法使いはエルフの里を散策する

 時刻は十四時すぎ。


 少し遅めだが、昼食のため屋台街へ行くことに。


 エルフの里では、レストラン形態の店がないらしく、屋台で調理された食べ物を買うか、自宅で各々が自炊をするらしい。


「エルフの里は、世界樹を中心に概ね建物は同心円状に広がっているんです」


 歩きながらふと曲がり角がないなと思っていたところ、ちょうどニーナが説明してくれた。


 思い返すとやけにカーブが多かったが、そういう事情があったらしい。人間が住む街は綺麗な格子状の街並みだったり、逆に不規則で落ち着きのない街並みだったりと様々だが、この形態は初めて見る。


 見通しが良く開放的な反面、馬車が少し走り辛そうな気がする。まあ、小さな街ということもあってこの形でもあまり物流面では困らないのかもしれない。


「ここが学校で、ここが公民館で、あそこが……」


 様々な施設の説明を受けながら、目的地へ向かう。


 そんな時だった。


「ソフィア様、人間が里に侵入したという情報が! なっ、ちょうどそこに!」


 息を切らしてやってきた無精髭のエルフが、俺たちを指差して忌々しく睨んでいた。


 どうやら、怪しい者だと思われてしまったらしい。エルフの里の住民はその全てがエルフなので、人間はどうしても目立ってしまうようだ。


「ま、待ってください!」


「アルスさんたちは怪しい者ではないんです!」


 ニーナとマリアが擁護してくれるが——


「人間にそう言わされているのだな! くっ、卑怯な奴め! 待っていろ! 今助けてやる!」


 無精髭のエルフは、俺たちに剣を向けた。


 と、その時。


「慌てるでない。アルスたちは客人であり、ニーナ、マリア、それにリザリーの恩人じゃ。長老であるこのワシが招き入れた」


「きゃ、客人ですか⁉︎」


「そうじゃ。アルスはカインの息子でな」


「ああっ! この前のカインの!」


「じゃから、怪しい者ではない。丁重にもてなすように皆にも伝えるのじゃ」


「失礼しました! 皆にも伝えておきます!」


「うむ」


 その後、剣を収めた無精髭のエルフが俺たちの前へ。


「アルス殿、疑ってかかって悪かった。ここ最近物騒なもので少しピリピリしてたんだ。ゆるりと楽しんでいってくれ」


「あ、ああ……。分かってくれたらそれでいいんだ。ありがとう」


 ソフィアの説明のおかげで、すぐに解決する事ができた。


 逆に、この場にソフィアがいなければ誤解を解くのは大変だったかもしれない。ついてきてくれていて本当に良かった。この里でのソフィアの信頼が高いことを再認識させられる。


「やはり、ワシがついてきて正解だったようじゃの」


「ソフィアおばあちゃんはもしかして、これを見越して……?」


 マリアが尋ねると、ソフィアは照れ隠しなのか長い耳を触りながら頷いた。


「まあ、半分はそうじゃの」


「さすがはソフィアおばあちゃんです!」


 なるほどな。今日一日で里を一緒にまわってくれれば俺たちは嫌な思いをせずに済むし、住民たちも余計な混乱をせずに済む。


 さり気なくもありがたい配慮……長老ソフィアが慕われる理由が分かってきた気がする。


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