第104話:付与魔法使いは暗殺者を襲う

 俺はそう言った後、感覚を研ぎ澄ませる。


 幸い、今回の暗殺者は近くにいることがわかっている。


 視覚情報による推測。

 呼吸による空気の振動。

 僅かな人の香り。


 これらを頼りに、『魔力探知』に頼らない技術で暗殺者を探す。


 普通の人に紛れたとしても、興奮により呼吸が荒かったり、汗をかいていたり、何か他の人間とは異なる特徴があるはずだ。


 数秒が経ち――


「見つけた。そこだな?」


 俺は、路地裏に隠れていた暗殺者に向かって走り出す。


 暗殺者は失敗時にすぐに逃げた方がリスクが高いと思いって留まっていたようだが、今回ばかりは裏目に出たな。


「ど、どうして⁉」


 俺に見つかった暗殺者は、慌てた様子で逃走を図る。


 暗殺者はどうやら女性のようだった。


 年齢は俺たちより少し上くらい。


 なかなか素早い動きを見せる暗殺者だが、俺が慌てる必要はない。


 俺たちは一人ではないからだ。


「逃がしませんよ」


「観念するのね」


 セリアとユキナに挟まれた暗殺者は万事休す。


「くっ……そんな!」


 その場に立ち止まり、頭を抱える暗殺者。


 どうやら、観念したようだ。


「誰からの指示だ?」


「い、言えない!」


 そりゃあ、そうだろう。


 以前に遭遇した暗殺者は、秘密を暴露すると死ぬ魔法がかけられていた。


 この子も同じ状況なのだろう。


「そうか。じゃあ――」


 俺は、左手を暗殺者に向ける。


 そして、『火球』。


 俺の左手から放たれた火の球は暗殺者の胸に一直線に飛んで行き――


 ドオオオオオオオオンッ!


 と大きな音を立てた。


 衝撃により暗殺者の身体は吹き飛ばされ、近くの壁に激突する。


 その後、暗殺者はピクリとも動かなくなった。

「ア、アルス⁉」


「そこまでしなくても……ほぼ捕まえていたようなものだったし……」


 俺の突然の行動にセリアとユキナの二人は驚きを隠せないようだった。


「俺たちを殺そうとした相手に情けをかける必要があるか?」


 俺は、あえて冷徹な口調で言い放った。


「そ、それは……でも」


「アルスだって、依頼主の情報を聞き出そうとしてたじゃない⁉」


「それはそうだが、話せないんじゃこうするしかない」

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