第100話:付与魔法使いは引き取りに行く

 嘘だ。


 そんなはずはない。


 フィーラは何か、嘘をついている。


 ガリウス程度の実力なら、『カタリナ洞窟』の魔物は一人で倒せるはずだ。


 それに、先に入ったのだとしても、あの程度の魔物を相手にして味方が追いつけないほどの速さで死ぬようなことはないだろう。


 どれだけの事故が起ころうと死ぬことはないと言い切れる。


「どうかした?」


「いや、なんでもない」


 だが、ここで問い詰めるべきではないな。


 ガリウスと俺には何の関係もない。


 それに、今はフィーラからマリアを譲ってもらわなければならない。


 フィーラたちが嘘をついているのだとしても、今それを明らかにして俺たちに得になることは何一つないのだ。


「そう。じゃあ、少し待っていなさい」


 ◇


 フィーラたちがガリウスの件を報告した後、俺たちはフィーラを引き取るため、王都のはずれにある三階建ての大きな建物の前まで来ていた。


 建物はあまり清掃が行き届いていないのか、薄汚れている。


 そして、なんとなくどんよりとした雰囲気を感じた。


「……ということだから、エルフの女を連れてきなさい」


 フィーラが使用人に指示を伝える。


「承知しました」


 使用人はマリアを連れてくるため、建物の中へ入っていった。


 フィーラが購入した百人以上の奴隷たちは、この建物の中で生活しているらしい。


 建物の窓を見ると、逃げ出せないよう塞がれているのが見える。


「こんなところに押し込まれてるんですね。奴隷の人たちって……」


 セリアが悲しそうに呟いた。


「仕方がない。そういうルールだからな」


「せめて、もう少し扱いが良くなればいいんだけどね」


「そうだな」


 そんな話をしていると、フィーラの使用人が出てきた。


 傍には、縄で縛られたエルフの少女の姿も見えた。


「マリア!」


 ニーナが叫ぶ。


 どうやら、彼女がマリアで間違いないようだ。


 ニーナの声に反応したマリアは、驚いたのと同時に少し笑顔がこぼれていた。


「これが約束の金だ」


 言いながら、俺はフィーラに包を渡した。


 包の中には、取り決めた五十万ジュエルが入っている。


「引き渡して」


「はい」


 正しい金額が入っていることを確認すると、フィーラはマリアを俺たちに引き渡すよう、使用人に指示を出した。

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