第98話:付与魔法使いは交渉する

 王都の冒険者ギルドにて。


「……というわけで、フィーラがギルドに戻ってきたらこの手紙を渡してくれ」


「はい、確かにお預かりしました」


 マリアの件でフィーラと交渉する必要がある。


 直接話がしたい旨を書いた手紙をギルド職員に預け、ギルドを出ようとした時だった。


「え?」


 扉を開けた先にいたのは、新勇者たち三人の姿だった。


 フィーラ、マグエル、セレス。


 パーティリーダーのガリウスの姿はないようだ。


 ギルド職員の話では、朝から冒険に出ているとの話だった。


 普通に冒険に出て戻ってきたにしてはまだ時間が早すぎる。


 忘れ物でもしたのか?


 ともかく、直接話ができるチャンスだ。


「フィーラ」


「?」


 俺に話しかけられることを想定していなかったらしい。


 フィーラは少し驚きつつ、俺の方を向いた。


「実は、さっきギルドにフィーラ宛の手紙を預けたんだ」


「私に?」


「ああ。あんたが買ったエルフの奴隷の件で直接話がしたい」


 疑問符を浮かべるフィーラ。


「ああ……えっと、実は俺たちはマリアっていうエルフの女の子を探してて、足取りを辿る中で悪いが勝手に調べさせてもらったんだ。フィーラが買ったって聞いたから話をさせてもらいたいんだが……思い当たることはないか?」


 クリスの情報は精度が高かったため、俺たちはフィーラが購入者だと確信している。


 だが、間違いの可能性もあるため、念のため尋ねた。


「ああ、そういうこと」


 どうやら、身に覚えがあるようだ。


「エルフを買ったかどうかは覚えてないけど、まとまて買ったうちの一人に混ざってるのかもしれないわね。それで、話って?」


「譲ってほしいんだ」


「なるほど。どうしようかしら」


 フィーラは少し考えるそ素振りをしてから、答えを出した。


「別にいいわよ。金額次第だけど」


「本当か⁉」


 こんな簡単に決着するとは思わなかった。


 いや、待て。


 まだ金額面の調整が終わっていない。


 奴隷の相場は一人当たり二十五万ジュエルほど。


「五十万ジュエルでどうだ?」


 俺は、相場の二倍の金額を提示。


 これでも奴隷の値段としては高いが、ギリギリ常識的な価格だ。


 まずはこの金額で様子を見ることにした。


 ふっかけてきたら、その時はまた考えよう。

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