第94話:付与魔法使いは安堵される
「え? ガリウス⁉」
ガリウス・シェフィールド。
謁見の間にて、国王の指示により俺と戦った剣の勇者だ。
「ガリウスは、たびたび『レッド・デビルズ』と繋がりがあることが目撃されている。確たる証拠はないが、状況的にはガリウスが怪しい」
「そうなのか……あいつが?」
完全にノーマークだった。
そもそも、俺とガリウスが初めて顔を合わせたのが謁見の間。
暗殺者が襲ってきたのは、王都への移動中だから、事実ならガリウスは会ったこともない相手を殺そうとしたということになる。
「いや……でも、それなら辻褄が合うな」
謁見の間にて、ガリウスと決闘を終えた後。
ガリウスはなぜか俺が弱いことに違和感を抱いていたようだった。
あの時は俺の演技が不十分だったせいだと思っていたが、違うとしたら?
仮に、あの時点で俺の暗殺に失敗したことを知っていたのだとすれば……。
俺の実力があんなものではないと、事実ベースで知っていたとすれば……。
あの反応にも納得がいく。
でも、俺を狙う理由の部分がわからない。
ガリウスは正式に国王から勇者として選ばれた。
あの時点では、俺が新勇者に加入する話になっていたはず。
状況的には、これから仲間になる俺をあえて殺そうとした……ということになる。
パーティの弱体化は、ガリウスにとってもメリットはないはずだ。
「……ガリウスが黒幕だとしたら、どうして俺を殺そうとしたんだ?」
「それがわからないんだ。気分屋なのか、サイコパスなのか。そんなところだろうと言われているが、どうも納得いかない」
「そうだよな」
「性格的なところで言えば……ガリウスはめちゃくちゃプライドが高いらしい。それで言うと、俺としては、アルスにパーティを乗っ取られるとでも思ったってのを推しておきたい」
プライド……あっ、そういうことか!
「クリス、多分それだ」
「は?」
「実は、長くなるから話せてなかったんだが――」
俺は、王都に来ることになった経緯と、謁見の間での出来事を話した。
「なるほど、アルスがパーティリーダーになる予定になっていたのか……これで繋がったな」
国王は、俺を新勇者のパーティリーダーに指名した。
ガリウスは国王の決断を気に入らず、俺を消すことでその座を我が物にしようとした――と考えれば、辻褄が合う。
「王都の中ということも関係してるかもしれないけど、俺が勇者を辞退してから『レッド・デビルズ』には襲われてない。そういうことなんだと思う」
ガリウス立場としては、俺の生き死には関係ない。
己の地位が確立される『結果』を重要視している。
俺が勇者と何の関係もなくなった今では、ガリウスは俺に対する興味を失ってしまった――というのが俺の推理である。
「つまり、既に危機は去っていたのか。……杞憂で良かった」
もう俺が命を狙われることがないとわかると、クリスはほっと息を吐いた。
かなり心配してくれていたようだ。
「クリス、改めて色々とありがとな」
「礼には及ばんよ。それより、エルフの件を急いだほうがいいんじゃないか?」
「……そうだな。今からギルドに行ってくる」
俺はクリスと別れ、セリアたちを連れて冒険者ギルドに向かった。
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