第74話:付与魔法使いは参加する

「ああ。見世物小屋では、観客参加型のイベントがたまにあるんだ。優勝すれば商品の獣人奴隷をもらえることになってるらしい」


「酷い……! 命を何だと思ってるんですかね」


「まあ、酷いとは思うがここでもらわれる奴隷はまだマシだ」


 怒り心頭のセリアを宥めつつ、冷静に説明を続ける。


「基本的には、見世物小屋を離れれば理不尽に殺されることはまずない。奴隷は持ち主にとって資産だからな。商品を受け取った観客は、売って換金するか、労働力として使うか、性奴隷にするか、の大体三択だ。あの子の場合は、かなりビジュアルが良いから性奴隷にされるか、夜の店で働かされるか……まあそんなところだろう」


「十分酷いですよ⁉ 私、命だけあればいいわけじゃないと思います!」


「どうにか助けてあげられる方法はないのかしら……?」


 俺も酷いとは思うが、これは構造的な問題だ。


「あの子だけを救いたいなら、これから始まる観客同士の決闘で優勝すればいい。譲り受けて解放してあげれば後は自由だ。だけど、あの子を救っても同じ境遇の子はいくらでも他に……っておい!」


 前半部分を聞いたセリアは、イベントに参加しようとしていた。


「私、ちょっと優勝してきます! 多分、今の私なら余裕です!」


「まあ、そりゃあそうだろうが……」


「アルスはニーナちゃんを助けたくないのですか⁉」


「意地悪な質問だな!」


 俺だって、気の毒だとは思うし、どうにかしてやりたい。


 もう、これはエゴの問題だ。


「わかった。優勝してあの子を助けよう。でも、セリアが参加するのはダメだ」


「ど、どうしてですか⁉」


「それなら、私が参加するわ」


「ユキナもダメだ。これは俺のエゴだけど、二人を見世物にしたくない」


 ある意味、優勝者への景品はイベントを盛り上げてくれた報酬のようなものだ。


 決勝まで残れば、かなりの注目を浴びることになる。


 別に注目を浴びることは悪いことではないのだが、なんとなくセリアやユキナが誰かに取られてような気がして、俺としては気分が悪い。


「俺が出る」


「ええっ! アルスが⁉」


「確かに、それならセリアが出るより安心して見てられるかも」


「それどういう意味ですか⁉」


「えっと……ほら、アルスならやらかしとかなさそうだし?」


「私がやらかすみたいな言い方に聞こえますよ⁉」


「パパ、頑張って~!」


 ということで、なにやら仲良く内輪揉めしているセリアとユキナを置いて、俺は今日のイベントに参加するための手続きに向かった。

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