第73話:付与魔法使いは察する
「アルス、あ、あれは何なのですか……?」
「おぞましすぎるわ……。こんなことがあっていいの?」
「パパ……」
俺に説明を求める三人。
こうなるだろうということはわかっていたので、すでに回答は用意してある。
「ここは、キャストが全員獣人の見世物小屋なんだ」
俺はそのように前置きした後、詳細を説明する。
「セリアとユキナはさすがに常識として知っていると思うが、この国には……というか、大抵の国には、獣人を奴隷にしても良いという法律がある。そして、奴隷にした獣人の処分は持ち主が自由に決められる。命の扱いすらもな」
この世界での獣人奴隷の立場は、モノ同然。
男なら労働力として使われたり、見目麗しい女性獣人なら性奴隷にされるが、このくらいならまだマシな方だ。
この見世物小屋のように命を使い捨てにする持ち主も存在する。
奴隷にも値札がつくため、普通の主人ならこうした使い方はしない。
だが、厄介なことにこの店は奴隷虐待を行うことで金を得る仕組みが確立されてしまっている。
奴隷を粗末に扱っても、それ以上に収入を得られる構造になっているためこのような愚行に至っているというわけだ。
「多分、フロイス国王もこれを良くは思っていないはずだ。だけど……どの国でも、どの時代でも民衆のガス抜きには娯楽が必要だと言われている。残念だが、必要悪なんだろうな」
「そんな……酷すぎます」
俺としても、こんなやり方でガス抜きをするのは間違っていると思う。
だが、王国に認められた営業形態で適法に金を稼いでいる以上は、俺たちにはどうすることもできないのが現実だ。
「これで分かっただろ? ここはあんまり楽しい場所じゃない。行こう」
そう言って、三人を連れて店を出ようとしたその時。
「さぁさぁ今日の目玉! 景品はこちらです!」
店の外まで聞こえる大声量で、また店主の軽快な声が聞こえてきた。
直後、おおっ! という観衆のどよめきが聞こえた。
店の舞台の上には、檻の中に閉じ込められたエルフの少女の姿が見える。
「エルフ奴隷……こりゃ珍しいな」
エルフ族は、エルフの里で暮らす少数民族である。
この国では、エルフも獣人の一部とみなされている。
ただし、エルフは国によってやや取り扱いが異なり、獣人とみなさない国もある。
エルフの里が近いここメイル王国では、エルフは獣人の一部という扱いになっているものの、エルフの里を襲わない協定を結んでいるため、入手が難しく奴隷市場に出回ることは極めて少ない。
奴隷市場に出回るのは、エルフを奴隷にできる他国やメイル王国内で捕らえた場合のみ。
わざわざ危険を冒してにエルフの里に出たということは、よほどの事情があったはずだ。
檻の前には名前が書かれたプレートが置かれている。
この少女の名前は、ニーナというらしい。
ニーナは大人しい性格なのか、大勢の人を前にしてプルプルと震えていた。
「あの子……景品ってもしかしてですけど……」
「多分、そういうことなんじゃない?」
この流れで、さすがにセリアとユキナも察したようだ。
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