第71話:付与魔法使いは散策する

 ◇


「このホットドッグって言う食べ物も美味しい~!」


 屋台で朝食を買い食いしつつ、商業地区を散策しているのだが、シルフィは景色よりも食を堪能しているようだ。


 羽をパタパタとさせて楽しそうにしている。


 王都の屋台は競争力が高く、どこも味に凌ぎを削っているため基本的にどこで何を買っても美味しいと評判だ。


 値段は手頃なままこのクオリティを出せるのは凄いと思う;


 それにしても、さっきから道行く屋台全てで一品ずつ食べているのだが、いったいどのくらい食べると満腹になるんだ? シルフィの胃袋はブラックホールなのか?


「シルフィちゃん凄いですね……」


「ねっ、ほんとに……」


 セリアとユキナから大食いとされる俺でももう満腹で食べられない。


 たくさん食べられるのは羨ましいと思いつつ、このペースだと財布の方が心配になってしまう。


 あっ、でもさっきたくさん報酬をもらったし別にいいか。


「あ、もう屋台終わり? 残念」


 屋台が集中している通りはここで終わり。


 ここから先もたまに屋台を見かけるが、ここから先は基本的に武器屋や装飾品屋、謎の物を扱う露天商など物品屋が集まるエリアとなっている。


 この辺りも変わらず人通りは多いため非常に賑やかだ。


「まあ、腹八分目くらいの方が良いって言うしな。今度は昼にまた来よう」


「わかった! そうする~!」


 シルフィはすぐに切り替え、今度は景色に釘付けになっていた。


 精霊の森の中で長年過ごしてきたシルフィにとっては、すべてが目新しく映るのだろう。


 俺も初めて王都に来たときは都会の景色に感動したのを覚えている。


 記憶を消してもう一度同じわくわくを経験できるのなら、ぜひともやってみたいくらいだ。


 そういう意味では、今のシルフィはちょっと羨ましい。


「アルス、このお店って何かしら?」


 少し路地裏に入ったところにある店を見ていたユキナが俺に尋ねてきた。


 シルフィから一旦目を話して、ユキナの方を見る。


 やや古い建物から溢れんばかりの人が集まっている。


「あっ……」


 思わず、声が出てしまった。


 そういえば、ユキナも王都を訪れるのは初めてだったな。


「どうしたのですか? あの店がどうかしましたか?」


「セリアも知らないのか?」


「私、裏路地の怪しいところには行ったことがないので……」


 なるほど。


 つまり、俺以外はこういったディープな場所について知らないというわけか。


「ここはあんまり楽しい場所じゃない。別の場所に行こう」


 そう言って、裏路地の店から離れるようやんわりと促したのだが――


「そうなの? う~ん、でもちょっとだけ見て行ってもいい? 気になっちゃって……」


「どういうお店なのですか?」


 二人ともどうしても気になるらしい。


 まあ、俺があまりこういう店は好きじゃないというだけで、何か違法な営業をしているというわけではない。


 百聞は一見に如かずにも言うし、この世界の裏……汚い部分も一目見ておいた方がいいか。


「わかった。でも、ちょっとだけな。チラッと見たら帰ろう」


 そう言って、裏路地の店に向かった。

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