第30話:付与魔法使いは殲滅する
「セリアも一匹じゃ物足りなかっただろ?」
「それはそうですけど……」
「なら、まとめて倒して今日の依頼はサクッと終わらるとしよう」
今回俺たちが受けたゴーレム依頼の討伐数は10体。
俺とセリアで1匹ずつ倒しているので、残り8匹だ。
とはいえ、さっきのように一匹ずつ小石を当ててこちらに注意を引くというのも面倒だな。
あれをやってみるか。
まず、俺の魔力を広域に薄く広げることで原野一帯のゴーレムの位置を把握する。
暗殺系ジョブが持つ『探知魔法』と似たようなものだが、付与魔法を使うまでもなくこれはテクニックで再現できる。
8体のゴーレムに狙いを定めたので、今度は付与魔法で『威嚇』を使った。
『威嚇』は対象を刺激し、怒りを増幅させる効果がある。
ノシノシと穏やかに歩いていたゴーレムたちがビクっと反応し、一斉に俺を目掛けて近づいてくる。
……と言っても、本当にゆっくりなのだが。
「ある程度まとまったところで攻撃すれば手間が少なくて済むだろ?」
「そ、そうですね。……頑張ります」
セリアは剣を握りしめ、近づいてくるゴーレムが固まった頃合いで駆け出した。
ゴーレムたちの背後に周り、やや離れた場所から剣を横なぎに振るう。
魔鳥討伐の際に俺が教えた技を使おうとしているのだろう。
剣に魔力を流し込み、圧縮。
増幅させるようなイメージを持ち、振ったタイミングで魔力を放出する——
ザアアア————ンッッッ!!
巨大な剣の形をした魔力弾が繰り出され、ゴーレムたちは一網打尽になった。
「こ、これでどうでしょうか!」
「うん、完璧だよ」
俺が教えたことを120%の完成度で自分のものにできている。
一昨日教えたばかりの技を、今日初めて使う剣で完璧に再現できれば何も言うことはない。
これからも何の問題もなくセリアは強くなっていくはずだ。
ガイルとの約束——セリアを俺以上の剣士に育て上げることも近いうちに果たせそうだ。
とはいえ——
「でも、まだ伸び代はあるからここで満足しないようにな。俺がこの前セリアに教えたのは基本技術。まだまだ吸収してもらう必要があるぞ」
「ま、まだあるのですか……!?」
「うん? むしろまだ教えてないことの方が多いと思うが……?」
「な、なるほど……精進します……!」
やや落ち込んでしまった様子のセリアだったが、やる気は十分なようだ。
ひとまず最初のうちは自信をつけさせることが先決だし、目的は達成したといえよう。
俺の想定よりもかなりセリアの飲み込みが良かったのは嬉しい誤算だった。
「じゃあ、このゴーレムを回収したら村に戻ろう」
俺はゴーレムの死骸を全てアイテムスロットに収納した。
「シルフィ、そろそろ帰るぞ」
「え〜、もう?」
「もうって、結構いただろう。こっちはゴーレムを十体も倒してたんだぞ?」
「アルス、まだ十分も経ってませんよ」
俺が駄々をこねるシルフィを嗜めていたところ、セリアが懐中時計を見ながらそんなことを伝えてくれた。
「え、まだ十分しか経ってないのか?」
「はい。さすがにもう少しゆっくりしても良いのかなと。シルフィちゃんがちょっと可哀想です」
「それもそうだな……」
そんな理由でもう少しだけここに留まり休憩をすることに。
やや草が開けた場所で腰を下ろし、日向ぼっこを楽しんでいた時だった。
「パパ、変なの落ちてた」
シルフィが謎の物体を両手に持ってこちらに飛んできた。
「ん、なんだそれは……って、これはギルドカードか?」
銀色の小さな金属プレート。
小さな体でそこら中を飛び回っていたシルフィだから見つけられたのかもしれない。
「私たちより一つ上のDランクの冒険者のようですね。名前はユキナ・リブレントと書いてあります。ジョブは……賢者? 初めて見ました」
「え、賢者だって……?」
セリアが読み上げたジョブが気になり、俺もジョブ欄を確かめた。
確かに、そこには賢者と刻まれている。
「賢者といえば、『剣聖』に並ぶユニークジョブの一つのはずだ」
昔古文書を読んだ際に、剣聖と同等の扱いがされていた記憶がある。
「私みたいに剣を使えるのですか?」
「いや、『賢者』は魔法のスペシャリストだ。訓練すればある程度は剣を扱えなくもないだろうが、それよりも魔法に関しての強さがいわゆる魔法師と比べると桁外れだと言われている」
そもそもユニークジョブとは、一国に一人いれば良いくらいに珍しい存在だ。
それがこんなに近い場所に二人もいるとはな……。
何の因果なんだか。
「どうしてそんな人のギルドカードがこんなところに落ちてたのでしょうか?」
「さあな。それは直接聞いてみないとなんとも。見たところそんなに古びてる感じでもないし、持ち主は探してるかもしれない。村に戻ったらギルドに届けよう」
「そうですね! それにしてもこの持ち主の女の子はラッキーですね。変な人に拾われていたら転売されてしまっていたかもしれませんし……」
「まあ、ある意味そうだな。お手柄だったぞ、シルフィ」
そう言って、俺はシルフィの頭を撫でてやる。
するとシルフィは嬉しそうに微笑んだのだった。
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