第5話:付与魔法使いは剣を取る
◇
的当て試験を終えた後は約一時間ほど時間が空き、昼になってから実技試験が行われることになった。
場所は、さっきの的当て試験と同じギルドの裏庭。
Cランク冒険者と決闘形式で一対一の試合を行い、試験官であるCランク冒険者が合格と認めた者だけが最終試験に進める。
冒険者にはE〜Sまで各ランクがあり、新米冒険者は全員が初めにEランク冒険者になる。
ギルドからの依頼をこなし、実績を積み重ねることでDランク、Cランクと段階的に上がっていくという仕組みだ。
Cランク冒険者になって始めて一人前の冒険者として見られることになる。
そんな相手に認めてもらわなくちゃいけない。
「俺の他に三人も受けるんだな」
「はい、すべての試験を一日で終えようとする方は珍しいです」
「そういうもんなのか」
俺の他の三人は、緊張した面持ちで時間が来るのを待っていた。
俺は18歳だが、皆んな俺より一回りほど若い。
ふっ……なかなか懐かしい光景だな。
俺も勇者パーティの試験を受けたときはこんな風になっていた気がする。
やることもないのでそんなことを思っていると——
「待たせたな。今日は俺が相手をさせてもらう」
試験官が来たようだった。
40歳近い見た目だが、筋骨隆々の頼もしい体格。
剣を持ってきている……ということは、おそらく剣士だろう。
「既にこの試験のルールは聞いてきてるはずだが、念の為おさらいするぞ」
ふむ、アバウトそうな見た目によらずなかなか丁寧な試験官だな。
「俺とお前たちで一対一の決闘を行う。剣でも魔法でも、得意なスタイルを選べ。一方が戦闘不能になるか、降参するまで続くぞ。試合の内容で合否を決める。お前たちは俺に勝つつもりで挑んでこい。何か質問があるやつはいるか?」
質問、か……。
俺はスッと右手を上げた。
「よし、なんでも言ってみろ」
「決闘の内容で合否を決めるってことだが……どういうポイントで評価してるんだ?」
「いい質問だ。これは実際の依頼と同等の試験……最終試験を受けるのに相応しい能力があるかどうかを見ている。基本的な戦闘力やピンチの際の切り抜け方、状況判断能力を総合的に見ている」
ややふわっとした評価なんだな。
俺がほしい回答とは違ったが、まあいいだろう。
「つまり、あんたに勝てば合格ってことなのか?」
「……ふっ、できるものならやってみるが良い。俺は腐ってもCランク冒険者だ。俺に勝てれば誰も合格で文句はないだろう。だが——今までそういうことを言ったやつで俺に勝てたやつはいないがな」
よし、言質は取れた。
いくらサポート職とはいえ、俺は元勇者パーティの一員。
Cランク冒険者との決闘が苦戦することはあっても、負けることはないだろう。
ふわっとした基準だと、不合格になってしまう可能性がある。
勝てば必ず合格……これは安心感が違う。
「よーし、じゃあ今並んでる順番で一番俺に近いやつからかかってこい」
「は、はい……!」
どうやら、俺は二番目のようだ。
一番目を避けられたのは幸運だった。
先の決闘を見て、対策を立てるとしよう。
「い、いきます!」
一人目の冒険者志望者は、魔法師のようだ。
中級魔法『ファイアストーム』——燃える竜巻を発生させる魔法を使うようだ。
この歳でこの魔法を使えるとは、勝利有望だな。
しかし……。
「なるほど、よく練習しているな!」
キンキンキンッ!
試験官は剣を振り、竜巻を断ち切ってしまったのだった。
「……なっ!」
まさか、全く通用しないとは思っていなかったのだろう。
同世代に比べればかなり優秀な部類。
それゆえに自分を客観視できていなかった。
その奢りにより——
「こ、降参です……」
首に刃を突きつけられた冒険者志望者は敗北を認めた。
攻撃が通用しない可能性が頭の片隅にでもあれば、もう少しマシな立ち回りができただろう。
「攻撃自体は強力だったが、先制攻撃に失敗してからの対応力にやや問題あり……だな。悪いが、これでは合格とは言えん。次の試験はまた実技試験で良いが、しっかり立ち回りを鍛えるように。期待している」
「は、はい! ありがとうございました……」
肩を落としてギルドの裏庭から出ていく冒険者志望者。
次は、俺の番だ。
「ん、次は付与魔法師か。珍しいな」
実は、付与魔法師は一般の冒険者でも珍しい。
ジョブは神から与えられるものなのだが、その割合には偏りがあり、魔法師や剣士は多い反面、付与魔法師や回復術師などは少ない傾向がある。
しかし『ユニークジョブ』と呼ばれる強力な能力を持つ特別職に比べればありふれた存在でしかないのだが。
「ん、付与魔法師は魔法でいいんだっけか?」
「俺の場合は魔法も剣も使えるが……剣は持ち合わせがなくてな。魔法で受けようと思っている」
「ん、剣は私物の持ち込みは禁止だぞ。試験ではギルドから貸し出す決まりになっているが、借りるか?」
「え、借りられるのか」
「ああ。魔法に比べて剣は個体によってそれだけで戦闘力が大きく変わるからな。試験に使うにはフェアじゃないだろう。俺が使ってるのもギルドのものだ」
そう言いながら、試験官は剣の柄に刻まれた模様を見せてくる。
確かに、ギルドの模様が刻まれていた。
「なるほど……。それなら今回の試験は剣を借りたい」
「よし、わかった。準備しよう」
試験官がそう言うと、ギルド職員が剣を俺に届けてくれた。
「しかし両方使えるってのは初めて見たな。まるで魔法剣士じゃねえか。まあ、どっちも中途半端だとどうしようもないんだがな……。よし、いつでもかかってこい」
どうやら、さっきと同様で先制攻撃を譲ってくれるようだ。
このチャンスを活かして一気に攻め込むのも作戦としては有効だが、それだと不意打ちをで勝ってしまうようで気分が悪い。
初撃は様子見も兼ねて、ある程度の実力を示すとしよう。
まずは自分に四つの
そして剣にも同様の強化魔法を付与する。
「なっ……剣にも強化魔法を付与できるのか!?」
「ああ、ちょっとした工夫でな」
付与魔法の本質は性質付与。
その対象はなぜか生物だけに限られるという固定観念がある付与魔法師が多いが、それは違う。
魔法理論を深く学び、魔法の性質を理解すれば生物だけに限られないことに気づくのはそう難しくない。
何せ、ごく普通の人間である俺にできたのだからな。
強化魔法が完了したことを確認し、俺は地を蹴った。
同時に、今度は試験官と試験官の剣に対して四つの
「速い……っ! くっ、しかもなぜか身体と剣がいつもより重く……ど、どういうことだ!?」
混乱している中、俺は剣を横なぎに一閃。
頭上を掠め、パラパラ……っと試験官の髪が落ちた。
と思ったら、試験官の髪はどうやらヅラだったようだ。
ヅラが丸ごと落ちてしまった。
まだ若いのに、大変だな……。
というか、他の冒険者志望者やギルド職員もいる中で隠していたであろうデリケートなことをバラしてしまったのは申し訳ない。
「………………悪かった」
「き、気にするな……」
しかし、同情はするがこの決闘に対して手加減はしない。
俺は足に『踏み込み強化』を付与し、音速を超えて接近する。
「き、消えただと!?」
「ここにいるぞ」
試験官が気づいた頃には、俺は剣の切っ先を寸止めしたのだった。
「……こりゃ参った。降参だ」
ふう、どうやら無事に勝てたようだ。
負けることはないと思っていたが、俺は目先の金に困っているという問題がある。
俺はほっと安堵した。
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