第2話
リージは、その日の時間の最後に、幸せになりたいって思ってるってことは、今は幸せじゃないってことだよね?と尋ねてきた。
そう言われてみると、ハイルにはわからなくなってしまい、上手く答えられなかった。
もしかすると、先生や両親に、悟れば幸せになれると言われ続けてきたから、今は幸せではないと思い込んでしまったのかもしれない。
そう考えついた時、ハイルはまるで、地平に置かれた箱から外へ飛び出したような気分になった。でも、そんな気分は数秒も続かなかった。リージのような優しいお客さんばかりではないから、自分が幸せなわけがないと気づいてしまったから。
お客さんがずっとリージだけならいいかもしれないけれど。
「お疲れ」
更衣室から出ると、廊下を歩いてきたアオが声をかけてきた。
白いビキニに、ブルーのおかっぱ頭。白い厚底ブーツ。青く塗られた爪。ハイルはアオを見ると、いつもそのスタイルの美しさに惚れ惚れとしてしまう。
「お疲れさま。休憩?」
「そう。お風呂に入るの」
アオは、このお店の専属のアンドロイドだ。「お風呂」と言っている洗浄やメンテナンスの時間以外は、ずっと働いている。コミュニケーション能力も高いから、ハイルにもこうやって話しかけてくる。ほかのアンドロイドの中には、客ではないハイルには反応しない子も多いけれど、アオにとっては、みんなと分け隔てなく接することが当たり前らしい。
「無理しないで、ゆっくりしてね」
「ありがとう、ハイル」
「じゃあ、また明日」
手を振って別れる。あんなに美しいアオやほかのアンドロイドの子たちがいるのに、パッとしない容姿の自分をわざわざ指名してくれる客がいることにハイルは疑問を感じていたが、ありがたいことだ。
もっと頑張ろう。そして両親を喜ばせて、一緒に幸せになって、リージを納得させよう。
店から出ると、小雨が降る路上に、傘を差した少女がたたずんでいるのが目に飛び込んできた。白い傘にベージュのひらひらしたワンピース。金髪碧眼に白い肌。年は十歳くらいか。彼女も、アオたちの仲間だろうか。
なんだかすごく目が吸い寄せられてしまう。美しいアンドロイドは見慣れているつもりだけれど、その子には独特の雰囲気を感じた。アンドロイドには違いない。アンドロイドの外見や動きは、ほとんど人間と変わらないが、慣れると、説明できない感覚で人間と見分けられるようになる。でも、なんだろう。この生々しさ。
彼女も、こちらを見ている。すたすたと近づいてきた。黙ってハイルを見上げる。
「こんばんは」
戸惑いながら声をかけると、少女は、可愛らしいピンク色の唇を開いた。
「お姉ちゃん、飴ちょうだい」
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