【短編】勇者パーティーを追い出されたおっさんは一人旅に出る。

よねちょ

勇者パーティーを追い出されたおっさんは一人旅に出る。

 異世界より召喚された高校生の4人組、【勇者】細井 隼【万能の天才】、【重戦士】遠海 伊緒【不屈の城壁】、【聖女】池陽 カレン【博愛の女神】、【大魔道士】静鈴 香【神速の詠唱】それに巻き込まれたおっさん【雑用係】 深海 白兎【なんでもやります】、4人が魔王退治のために、地球から召喚された勇者パーティとプラス1である。




 そして、呼び出されてからだいぶ時間がたってからの話である。


「おっさん、ここから出ていけ!」

 

 いきなりそんなことを言い出したのは、パーティの火力の要である大魔道士の静鈴 香くんだった。


「ど、どうしていきなりそんなことを? 昨日のご飯まずかったかい?」

「んなわけあるか! ぐだぐだ言ってねーで早く出ていけよ! アイツラが来るだろうが!」


 アイツラって多分他のパーティメンバーのことか、ということは──


「香くん、君一人で決めたことなんだね」

「そうだよ、おっさんあんたは今からパーティを抜けて旅に出た事になった」

「なんで!? 僕達は仲良くやってきたじゃないか」

「…………」


 香くんはギリッと歯をきしませるほど強く噛み締めている。


「香くん──」

「うるせぇ! とっとといけ!!」


 香くんはとても興奮しているようで、もうこちらの言うことは聞かないみたいだ。


「わかったよ、出ていけばいいんだね」

「出ていくんじゃねぇ、あんたは旅に出るだけだ」

「君が最初に出ていけと言ったんじゃないか」

「言葉の綾だよ!」


 僕が手荷物を持って出ていこうとすると、香くんに止められた。


「待て、装備も荷物も全部おいていけ、それは俺たちパーティが用意したものだろ」

「え? 僕に裸で出ていけというのか?」

「こいつをやる」


 香くんがほおってきたのはボロ布とボロの道具袋だった。


「これは……」

「そいつを着てから出ていけよ」


 僕は言うとおりに着替える。

 着替え終わったところで香くんは外に声をかけた。


「おい、入ってこい」


 そう声をかけると僕に背格好が似ている人が入ってくる。


「その人は?」

「おっさんの代わりに決まっているだろ?」


 香くんは僕の手荷物からいくつかを抜き取り、それ以外を全部入ってきた人に渡した。


「こいつは全部お前のもんだ」

「ヘヘっいいんですか? こんな高そうなもの」

「ああ、しっかりとおっさんの代わりを勤めろよ」

「わかってまさぁ」


 僕がその光景を見ていると、香くんがギロリと睨んできた。


「何ぼーっとしてんだよ。早く行けよ。この街から南に出たところに馬車を用意してるからそれに乗っていけ、案内してくれるさ」


 南……魔の森のある方向か。

 僕はいきなりのことでわけもわからず、でも、言われたとおりに出ていった。



◇◇◇◇


「クソが、ようやく行きやがったな」


 おっさんが出ていきしばらくたった誰もいなくなった部屋でようやく一息つけた。

 おっさんも出ていった……これでアイツラは──


 軽い達成感で俺は自然と口角が上がるのを感じた。


その時上の階からドタドタとした音を立てながら聖女と呼ばれる池陽 カレンが降りてきて、おっさんの部屋であるこの扉をノックもなしに開け放った。


「白兎さーん、お腹すいたー。ご飯ちょうだい──って、香? 白兎さんは?」


 満面の笑みだったのが俺の顔を見て、顔から笑みが消える。


「おっさん? 知らねぇな、俺が来たときはもういなかったぜ?」

「なんで、あんたがその誰もいない部屋に居座ってるのよ?」

「別にいいだろ、お前だってノックもなしに入ってきてるんだしよ」

「うっ、は、白兎さんどこに言ったのかなー」


 カレンが下手なごまかし方をするが、はっとしたように部屋から出ていった。

 まさか、もうバレたか?とは思ったが来たときのようにバタバタと階段を登っていって、もうひとりの部屋、重戦士の遠海 伊緒の部屋をドンドンとノックしているみたいだった。


 しばらく、はっきりとは聞き取れはしないが、話す声が聞こえ二人で降りてきた。


「伊緒ちゃんが抜け駆けしたのかと思ったけど違ったか」

「私は抜け駆けなどしません。する必要もないでしょう? それで? おじさまはどこへ行かれたのです?」

「だからカレンにも言ったが俺は知らねぇって、女でも出来てそいつとよろしくやってんじゃねぇか?」


 俺がニヤリと笑って2人に告げるが


「はぁ? そんなこと白兎さんができるわけないじゃない。だって……」


 カレンが含むように何かを言おうとしたがそれ以上は何も言うつもりもなく黙っていた。


「ふん、ごまかしても無駄なんだから、どうせあんたがなにかしたんでしょ? だってあんたいつも白兎さんのことを──」

「うるせぇ! あんなおっさんのこと、この俺が気にするわけねぇだろうがよ!」


「カレンそのへんで良いですよ。もうおじさまの場所はわかりました」

 

 俺がカレンの方に気がいっている間に、伊緒が何かしていたらしく自分の道具袋に何かを仕舞っていた。


「それで伊緒ちゃん、白兎さんはどこにいるの?」

「北の門を抜けてその先の街へ続く街の街道にいるみたいです。先程の感じから、どうも徒歩みたいですが」

「はぁ? なんでそんなところに? 白兎さん今日はなにもないから部屋にずっといるって言ってたのに!?」


 カレンと伊緒が俺の方を疑うように睨んできたが、俺はニヤッと笑って言ってやった。


「だから俺は知らねぇよ? 今日はここで俺とゆっくりと過ごしておこうぜ?」


「あんた、覚えてなさいよ!」


 捨てぜりふを吐いて二人が出ていく姿を見ながら、俺はうまく引っかかったことに笑いがこみ上げてきそうになった。


◇◇◇◇


「香? 誰なんです。この方は?」


 ぼろぼろになったおっさんの装備をつけた身代わりが、俺の前に放り出された。

 容赦なくボコボコにされたみたいだったが、ひでぇいくらなんでもやりすぎだろ。おっさんの装備には傷一つないところがまたこえぇよ。


「し、知らねぇよ。おっさんの部屋から盗んだんじゃねぇか?」


 俺が白を切ろうとすると、伊緒がギロリと睨んできた今度は殺意も混じってやがる。


この方ゴミ屑が、あなたに全部もらったとおっしゃってました。その時にはおじさまも一緒にいらしゃったとも」


 くそ、この身代わり口が軽すぎだろ。何がもう少し金銭をいただければ死んでも口は割りませんだよ。出ていくの時に渋って揺すってきたのにこれかよ。


「いいや、知らねぇな。仲間よりこんな盗人の言うこと信じるのかよ」


 まだだ、まだ確実にバレたわけじゃねぇ。


「ええもちろん、カレンが魅了魔法テンプテーションを最大まで強めてかけましたから」

「魅了魔法だと? あれは気軽に使うなと言われてるだろうがよ!」


 魅了魔法は効果がやばくて、最大に強めれば精神に負荷がかる。


「えぇ、だから。気軽には使いませんでした。おじさまがいなくなったんです、重大なことでしょう? この方ゴミ屑がどうなっても良いことですし」


 あっさりと空恐ろしいことを、いつもの済ました表情で言い放った。


「その魅了魔法をかけたカレンはどうしたんだよ? どこへ行った?」

「南門に行かせたのでしょう? もちろんそちらに行っていますよ。魅了魔法を使えるあの子なら情報収集も簡単です」


 くっ、やっぱそこまでバレてるよな、だがな……


「伊緒ちゃんだめだ! 白兎さんどこに行ったのかわからない!」

「なぜです? あの方ゴミ屑は南門を出たところで馬車に乗ると言っていました。おじさまの格好も可哀想にボロ布をまとった姿だとも」

「馬車が10台も用意されてて、同じような格好の人がそれぞれに乗り込んで、全部別の方向に向かったんだって!」


 よし! 全部成功している、あのゴミがどうせ金を渡しても全部しゃべることもわかっていたが、少しでも時間稼ぎになればいいと渡していた。

 馬車が出るまで、大分余裕ができていた。これでおっさんの居場所を知るのは俺だけということになる。


「香、あなた図ったわね」

「今更気づいても、もう遅い!! おっさんの居場所はもう誰にもわからねぇぞ、俺だってどれに乗り込んだかは知らねぇよ」


 もちろん嘘だったが、頭に血が上ったこいつらには見抜けなかったようだ。


「カレン、魅了魔法を使いましょう。何かはわかるでしょう。この際、廃人になっても構わないです」

「……わかったわ」

「はっ!! 俺の精神防御を抜けるわけねぇだろ」


 そして一発、爆発魔法を打ってここから逃げ出す。


 カレンも伊緒も、そして俺も戦闘態勢をとってその空気は一触即発のものなる。

 足元で殺気に当てられた約立たずが泡を吹いているが別にいい。




 全員が動こうとした時、の扉が勢いよく開けられた。


「いえーい、みんな元気してたかー。勇者隼様だよー。おっちゃーん飯作ってくれよー。城の飯は豪華なんだけどさーいつも言ってるけどさー、やっぱおっちゃんの飯が良いんだよなぁ! なんかこうママ味を感じる?っていうかさー」


 いきなり現れて、その何も考えていないようで、実際何も考えていない抜けた声の持ち主は、勇者であり今は城に住んでいる細井 隼だった。


「お? なになに? また喧嘩? やめてくれよお前達が争ったらおっちゃんの家がまた吹き飛ぶだろう? 建て替えるのも大変なんだぞ?」


「バカブサ! 聞いてよ! 香がひどいんだ。せっかく私達が白兎さんのために頑張ってきたのに、全部台無しにしたんだ!」

「はっ! お前らが今日のために色々計画していたのはわかってたんだぜ、どうせ一人じゃ出来ないからって二人で計画していたのはわかってたんだ。よくも俺を除け者にしやがったな」

「だってあんた卑怯じゃない、一人だけいつも白兎さんの部屋に入り浸ってさ、なにが父親が早く死んだせいで不良になったけど、実は父親が欲しかったんだ──よ。」

「そうです。あなた雌豚がおじさまと二人で旅に出ようと抜け駆けしようとしていたものもちろん知ってますよ」

「なっ、なぜそれを!」

「ちょっと待てって、アホ3姉妹。この勇者隼様に、全部話してご覧なさい。全部解決した気になってやるぞ」


 隼が呆れたような顔をして俺たちを見てくる。

 このアホにこんな顔をされるなんて心外だ。


「誰が姉妹ですか、気の抜けた顔アホ面を見せないでください」

「そうよ、アホはあんただけよ」

「そうだ、このアホ」

「うーん、相変わらず辛辣!」


◇◇◇◇


 この勇者隼様がカリスマ力を持って喋らせたアホな女3人組の言うことをまとめると。


 まずは香が言うにはおっさん様子がちょっとだけおかしかったと、近所の人に聞いてもいつもどおりだと言うけど、自分にはわかったということだ。


 今回、強引に脅すようにして出て行かせたのはそうでもしないと家から出ようとしなかったからだと、後は何か企んでる二人にばれないよう色々手を打っていたということだ。


 で、カレンと伊緒だが、このままではおそらく香におっちゃんを奪われる。自分たちの幸せな生活のために仕方なく手を組んだということらしい。

 

 計画はこうだ。カレンが得意魔法である魅了魔法を毎日かけて、おっちゃんの目をこちらに向けさせる──と、話したところで香から、物言いが入った。


「俺がおっさんのことは毎日ちゃんとステータスを見ていたんだ。そんなことはさせていねぇ」

「バカね、そんなバレるマネするわけないじゃない? 魅了魔法を極めて弱く一瞬だけ掛けるのよ。 ほとんど効果はない? そうねたしかにないわよ、でもねそれを毎日かけるの、そうしたら少しだけ私の方を気にしてくれるの。それの積み重ねよ。家から出ていかなかったのもこれの応用、私といて欲しいと願うの。一気に強い力で掛けるなんて不自然でしょ? そんなものすぐにバレるし抵抗されたら反作用が出ちゃうわよ。それは三流のやることよ。あくまでも自然にちょっとだけ意識を向けさせるの。それと私だけじゃないわよ伊緒ちゃんも挑発魔法を同じようにしてかけていたら、効果は二人分ね」

「良い使い方を学びました。敵を引き寄せるだけだと思った魔法にこんな使い方があるとは、さすがはカレン毒婦です」

「あとは伊緒ちゃんの城壁魔法でこの家を出入り禁止にして、催淫魔法を白兎さんにじゃなく空間にかければ、誰にもバレずに自然と既成事実を結べたというのに、香が邪魔を!!」


 

 そうしてまた三人娘の罵り合いが始まった。

 ぶっちゃけ、ここまで聞いただけで俺様は帰りたくなった。というか帰して。

 恐怖でおしっこが漏れそうで意識も遠くなってきた。

 薄れゆく意識の中。今日、城へ帰ったら俺様の愛しい姫に思いっきり甘えよう。それだけを思った。いや、あと、おっちゃんもっと遠くまで逃げろとも思った。


◇◇◇◇


「香くん、今日は変だったなぁ。出ていく時にこっそりとボロ布の中の手紙を読んでくれと言ってきたけど。なんだろうな」


『拝啓 深海 白兎様


 この度は強引な手段を持って、旅行へと向かわせたことを深くお詫びいたします。

 今回このような手段を取ったのは、私が恐ろしい計画を知ったためです。白兎様の身が危険が迫っているということをです。

 私の魔法で王都にいると危ないとわかっていましたが、白兎様は悪魔の恐ろしい術中に陥り、少し行動が制限されていたようでしたので、強固な命令に近い強制力を言葉に乗せて、無理矢理行動させたことを心より謝罪します。


 南門を出たところに馬車を10台用意しております。その左から三番目の馬車にお乗りください。同じ格好をした者が別の馬車に乗り込みますが、悪魔の目を誤魔化すためです。戸惑うとは思いますが、どうぞお気になさらないようお願いします。


 馬車の目的地はは心身の異常回復を持つ素敵な温泉宿と日本のような海鮮料理が自慢という観光名所です。そこならば安全ですので私も後ほど参りますが、それまでお楽しみください。 敬具


 追伸 その道具袋は魔法の袋になっております。その中に着替えや旅銀などを入れておりますので、馬車が王都より離れてからご使用ください。

 

 あなたの娘 静鈴 香より』


 なるほど、ぶっきらぼうな喋りだけどいつも優しい香くんが変だったのはそういうわけだったのか。

 それにしても香くんは相変わらず手紙になると別人のようになるなぁ。言葉ではどうしても言えないから手紙は素直に書きたいと伝えられてたけど、やっぱり父親が恋しいんだろうな。


 それと、カレンくんと伊緒くんも後から来るんだろうか?

 まあ、魔王退治の報酬に王都に建ててもらったデカすぎる僕の家にも、一緒に住まわせてほしいと頼むくらい三人共仲良しだからなぁ、彼女たちも一緒だろう。

 でも、カレンくんも伊緒くんも最近色っぽいというか、女の子なんだなぁと思うようになってきたから、おじさんたじたじだったよ。


 迫られてたらやばかったかも──なーんてな、あんな純粋な子たちがそんな事するわけない。

 


 と、僕はおっさんの欲望がダダ漏れになってるなと思いつつ、馬車に揺られ、まるで遠くから聞こえる地響きのような馬車の音に身を委ねながら温泉と料理に思いを馳せるのだった。

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