第12話:第一章 8 | 続かない隠し事 ④
遂に西門に入った。
やっと、やっと学園に到着する事ができた。
レンがあの場を引き受けてくれた直後、頭上を光弾が通過していった時は焦ったが、どうにかここまで。
「──理事長、マコトが回復するのにどれだけ掛かります!?」
「……
カイソ…? って何だ?
視線で問うと、ケイナは続ける。
「さっき言った学園に満ちてる不思議パワーの事さ。願能の根幹を支えているモノだ。願能の使いすぎによる脳の負荷も回復できる」
ああさっき言っていたやつか。
不思議パワーって何だよって思ってたけど、名称を聞いても何だよって感じがする。
20分。この状況下ではなかなかに長く感じる時間だ。
「入口にずっと居ても危険だね。とりあえず保健室でマコトさんを寝かそうか」
「
身体に力を入れ再びマコトを担ぎ直す。
すると学園に来る迄より、その重量が明らかに軽く感じる事に気付いた。
マコトを支える感覚で分かる。
ケイナが今までよりも遥かに力を込め、僕の分の負担を軽減してくれているのだ。
「言ったろう? 学園に入れさえすれば私はある程度の力を振るえるようになると。むしろもう最強まであるな。ふっ、ハニ君に格好いい姿を見せれそうで良かった。うっかり恋してくれて構わないよ?」
「
月明かりに写るケイナの姿は本当にボロボロだった。
特に怪我をしてる様子は無いが、ここまで地を這い、路地裏をこすれ、時に倒れ込みながら進んで来たのだ。
彼女の衣服が終業式の時と同じ純白のタキシードであるが故に、それがより強調されている。
「……でもその姿、生徒の為に頑張った証って感じで、今でも十分に格好いいですよ」
「
しねぇよ。言ってねぇよ。
そんな斬新な「え? 何だって?」の使い方聞いた事が無いぞ。
あれかな?「神は常識が少ない」のかな、割と本当に。
考え方というか、そういうものが僕達人間とはかけ離れているのかもしれない。
僕達は先程よりも速度を上げて、中等部の保健室に迎って歩き出した。
◇
◇
◇
中等部の保健室は西門から近く、ケイナが今までより早く運べるようになったおかげで危なげなく到着できた。
そのままマコトをベッドに寝かせ、短く息を付く。
「よし、じき目覚める筈だ。しばらくここで待機しようか」
「
自分で「戻る」と言いかけて、直後「でも、行って何を?」と自分に呆れる。
「止めたまえ。君が行って何ができると言うんだい? 足を引っ張って彼が戦いずらくなるだけだ。私も学園の外では無力だし、私が離れればマコトさんを回復させる事もできない。……彼が自力で学園に来るのを待つしかない」
ケイナも打つ手が無いのだろう。
本人が何回も自己申告していた事だ。学園の外では無力だと。
ただ、それは言いかえれば学園の中にさえ来てくれれば応戦できると言う意味でもある。
もしレンが勝てなかったとしても、どうにか逃げてここに来てくれれば。
「マコトさんが回復すればレン君を瞬間移動で迎えに行けるだろう。今、私達ができる事は、二人を待つ事だけだよ」
そうだ。
レンが来るのと、マコトが目覚めるのを待つしかできない。
けれど、それなら少し時間に余裕ができたということでもある。なら──
「──どうして僕が狙われてるのか、聞いても?」
「……
僕の言葉にケイナは少し躊躇したようだったが、直後「…しょうがないか」と口ごもり続ける。
「説明より先に、こちらから質問しよう。さっき公園で言ってたけど、ハニ君。君はあの時
「……
僕はそれに当たり障りなく返す。
でもこう聴かれた時点で、僕の中には既に「もしかして まさか」という当たりができていた。
「恐らくアレが君が狙われている理由だからだよ。ハニ君、
「
はっきりと言われてしまう。
突きつけられる、隠したい事柄を。
そして思い出してしまう。
昔、ひけらかして馬鹿を見た、愚かでみっともない日の思い出を。
「……ハニ君。いいかい? 私は──いや、レン君もマコトさんもそうだ。私達は君の味方だ。だからどうか、信じて話してくれ。……それに、私達もある程度の予想は付いてる」
ケイナの声音はとても暖かいものだった。
それが信じるに足るものだと感じて、僕は決心と共に話し出す。
「……
「……
「「
そんな僕の言葉を、遮る声が耳についた。
声の方を見やると、保健室の後ろ扉から、教室内に入室する人影がある。
その、月光に照らされる横顔を知っている。
いや、聞き覚えのある声を掛けられた時から、一人当たりはついていた。
「……なんでここにいるんだ清光、何してる、何でお前」
『
マコトに振られたバスケ部のエースで、良い奴で。
超が付く程のイケメンで、それに少し腹が立つけれど、良い奴。
何で、お前がここにいるんだ……?
「左手らしい。よろしく頼む。なるべく左手以外は傷つけないようにしてあげてくれ」
「
「──
ケイナが動揺する僕を庇おうと身を乗り出すが少し距離があった。
それよりも早く、清光の後ろから入って来たもう一人の男が動き出す。
その男も知っているぞ。
そいつは、さっきここに来る迄に見た、公園で僕らを待ち構えて居た男だ。
「無視すんなよ、聞いてるだろ! お前、何でそいつと仲良い風なんだよ、そいつはさっき公園で僕らを──」
「
清光はそう言うと僕の左手を見やる。
僕とケイナもそれに続いて確認して見る……と。
「……は? なんだよこれ。なんだよそれ、おい清光!!」
何だこれ、何だこれ、何だこれ、分からない。
でも、きっとこの左手がこれからどうなるかは分かる気がする。
「理事長も動かないでくれよ? 彼はいま必死に願能の範囲を狭めてくれてる。無理やり動けばソレの制御が狂う。
「
そう隣の男を見やりながら言って、ケイナの動きを牽制する。
まずい、まずいぞ。
さっきより左手の周りの歪みが強くなった気がする。
それに伴って、まるで左手だけがプールの中にあるかのような、謎の圧迫感を感じ始めた。
まさかこれ。このままだと、潰れ──
「───
瞬間、飛び起きた彼女が、僕に向かって突っ込んでくる。
清光達の位置からでは、ベッド内に眠る彼女の姿は見えなかったのだろう。
気付かなかったけど、いつの間にか起きたのか。
目を覚ましたマコトはケイナを引っ掛けながら僕の肩に手を置いた。
そして清光たちの方を横目で見やり、そのまま願能を行使する。
今日で二度経験した、あの無重力下のような謎の感覚が全身を包んだ。
◇
◇
◇
「──安足さん。なぜだ、なぜ君がここに居たんだ。君はここまで来れない筈だ、どうして……」
来次 彩土達が居なくなった部屋の中で、清光 明良は
「もしかして、
もう一度独り事を漏らす。
そして溜息を付くと、教室のドアを開け、逃亡者の追跡に乗り出した。
「……またか。また視た未来から変わったのか、でも。
───まだ、
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