第16話 目の前の事実
今年のクリスマスは寂しかった。一人で部屋にいた。クラスの子たちはみんなでクリスマス会とか考えていたみたいだけど、とても参加する気にはなれない。
高田が誘って来たが、目的は分かっている。体調を理由に断った。あんなことが無ければ、私がもう少し我慢出来ていれば。みんな私の気の緩み、我儘が招いた結果。
「隼人、鈴木さんと楽しくしているのかな」
独り言を言っても誰も応えてくれない。涙がにじんで来た。
年が明けて三学期が始まった。隼人とは朝の通学電車でも話す事は出来なかった。鈴木さんがいつも一緒だったから。
私は毎日二人の姿を見ながら学校に行った。鈴木さんと隼人が二人で吊革に摑まって楽しそうに話をしている。鈴木さんの位置は、本当は私のもの。でも今は無い。
隼人に話してみようか。今更だけど。少しは関係が良くなるかもしれない。でもどうやって連絡取るの。スマホはブロックされている。あれしかないか。
俺は穂香と別れてから自分の家に足を向けた。穂香とは駅で別れる。方向が違うからだ。この季節になると大分寒い。鞄の紐を肩にかけてコートに手を突っ込んで歩いていると、いないはずの女の子の姿が有った。
「星世」
俺には関係ない人だ。顔を見るだけで辛くなる。彼女を避けて通るように早足で避けようとした時
「隼人待って。話を聞いて」
体に残っている星世への思いがそうさせたのか。足を止めてしまった。星世の方に振向くと何も言わずに彼女を見つめた。
「隼人。話を聞いて。文化祭の時、あんなことになったのは、私がいけないの」
「それはそうだろうな」
「っ!聞いて。写真を撮られたの」
「写真」
俺は星世が気持ちの中で俺を裏切ったと思っていた。写真という言葉を聞いて心が揺れた。
少しだけ星世に近付くと
「話して」
彼女はコクンと頷いてから話し始めた。
「私が、隼人を文化祭に誘った後の日。我慢出来なくてビジネスホテルに行ったでしょ。あの時私たち二人が出てくる所を取られたの。あそこはビジネスホテルと言ってもこの辺ではラブホテルで有名。言い訳が出来なかった。
もし言う事を聞かなければ写真をネットに公開すると。私は構わないと言ったけど、隼人や隼人の家族の事を言われて」
「俺の家族の事」
「そう、隼人は学校に行けなくなる。家族には悪い噂が立つって」
「それで、俺の前でキスまでしたのか」
「違う。違うの。あれはあいつが強引に。私の意思じゃない」
「………」
「隼人。私はあいつと体を合せた事なんか一回もない。信じて」
「星世。何を望んでいるんだ」
「隼人ともう一度やり直したい」
「でも写真があるんだろ」
「先生や、両親に相談する。もちろん隼人にも」
「なら、なぜ脅された時俺に相談しなかった。あの時相談されていればこんな事にはならなかった。……俺はその写真がネットで上がろうが堂々と星世は俺のものだと皆に言った。それだけ俺は星世の事が好きだったんだ。何故だ」
「………っ!」
私は隼人の言葉がショックだった。自分一人で空回りしていた事を。隼人がどれだけ私の事を思っていてくれたかを今知った。
涙があふれ出て来て立つことが出来なかった。しゃがんだまま、大声で泣いた。
星世が、しゃがんで大きな声で泣いている。時折人が通る。怪訝な顔で俺達を見ていく。
もっと早く言ってくれれば。今は穂香へ気持ちが移っている。星世への思いが全て消えた訳じゃない。
でももう遅いんだ。
「星世。送るよ」
側に行って一緒にしゃがんで声を掛けた。
「うん」
俺の言葉で涙が止まったのか。星世のハンカチがびしょ濡れで使い物ならなそうだ。
「俺の使うか。綺麗じゃないけど」
「良いの」
「ああ」
「隼人の匂いがする。懐かしい」
星世は涙を拭くとそのままハンカチを鞄の中に入れた。
「洗って帰す」
「いいよ」
何も話さずに歩いていると
「隼人。私もう隼人の彼女に戻れないの」
「だめだ」
「じゃあ、友達じゃダメかな。鈴木さんでしょ。今の彼女。邪魔しないから。隼人が一人の時でいい。少しだけで良いから話させて」
「あの男は」
「なるべく避ける。もう先生や両親には相談できないけど。なんとかする」
「何とかできるのか」
「何とかする」
星世の家が見えて来た。
「もうここでいい。隼人嬉しかった。今日はありがとう」
「ああ、星世も無理すんなよ」
「うん」
さっきとは違って嬉しそうな顔で家の中に入って行った。
三学期末試験が近くなった。信じられない事に成績は何とか入学時を維持できている。星世のおかげだろうか。あれ以来星世の事が頭に浮かんでも嫌悪感が無くなった。
スマホで話をしたり、偶に帰り家まで送って行くことも出来る様になった。少しずつだが、心のしこりが取れて来ていた。
今日は土曜日。家で昼食を食べた後、問題集を買う為にショッピングモールのある駅に来ていた。ここにあるデパートには有名な本屋が入っていて、種類も豊富だ。
改札口を出てデパートに向かおうとした時、目の前から星世とあの男が歩いて来た。手を見ると指を絡ました恋人つなぎをしている。
「星世!」
「隼人!」
「よう、元カレさん。元カノが心配でストーカですか。残念だな。俺達は、もう二人で一汗かいて来たところさ。行こうぜ星世」
強引に星世の手を引こうとしたが星世が動かない。
「隼人。嘘よ。これは違うの」
「なに言っているんだ星世。さっきまで俺の腕の中に居たじゃないか。大きな声出してさ」
「星世。お前」
「隼人。違う。嘘だから」
もう最後の言葉は聞こえなかった。俺は思い切りデパートの方へ走り出した。後ろの方で何か言っているが聞こえない。
所詮口先だけだったのか。ほんの少し心の奥で、まだ星世は俺だけのものという思いが有った。でもそれは嘘だった。もう知るか。あんな女。
俺は一時解除していた星世の連絡先をロックだけでなく全て消した。
―――――
如月さん。あんた酷過ぎない。でも高田の言っている事って本当なのかな。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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