第13話 不安な事


 俺は、いつものように星世が降りた駅の隣の駅、つまり俺が通う大北高校のある駅を降りると他の生徒と一緒に学校まで歩き始めた。


「暑い。まだ夏なんだよな。なんで夏休みは終わるんだ」


要らぬ独り言を言いながら歩いていると、後ろから背中を叩かれた。

「よっ、隼人。おはよう」

「なんだ穂香か。おはよ」

「何だ穂香かはないでしょう」

「一ヶ月も、邪魔しないで見守っていた友達に対して言う言葉」


俺は、少し考えを巡らすと

「ああ、そう言う事か。穂香様ありがとうございます。お鞄をお持ちしましょう」

「うむ、苦しゅうない」

そう言って穂香が自分の鞄を俺に渡して来た。鞄と言っても手で持つことも背中で背負うことも出来る。

 俺は自分の鞄の肩ひもの片側を肩にかけて穂香の鞄を手に持ってやった。


「穂香は、夏休みどうしてたんだ」

「まあ、隼人がいない夏休みだったよ」

「わりい」

「悪いと思うなら、如月さんだけでなく私ともデートしなさい」

「それは、ちょっと」

「そうね。しかないわね。まあ、夏休みはそれなりに楽しいんだわ。家族で海にも山にも出かけたし、本もいっぱい読めたから。隼人がいないおかげで宿題も進んだわよ」

「………。そんなに弄るなよ。でも穂香、高校に入ってから強くなったよな」

「えっ、どういう意味」

「いま、言った通り。でも俺は嬉しいけど」

「え、えっ、隼人ちゃんと言って」

「言わない」

「言いなさいよ」

背中をポカポカ叩いてくる。


そのうち校門が見えて来た。

「穂香、ほら鞄」

「だめ、教室まで持って行って」

「えーっ、勘弁してよ」

「ふん、分かったわ。その代わり今日の午後は」

「うーん、分からないから約束できない」

「そうか。やっぱり如月さんか」

「………」


午前中、宿題の提出と教科によっては内容確認をやって終わった。

ポケットに入っているスマホが震えた。授業中使用しなければ学校に持って来ても良いと少し緩い校則だが、生徒保護を優先した結果だと聞いている。


星世からだ。

『隼人、今日何時に終わる。私もう終わった』


俺は直ぐに会う事の約束をしてスマホをしまうと

「穂香、やっぱごめん」

「まあ、いいわ。駅まで行こか」

「ああ、いいよ」



いつものファミレスの入り口に来ると星世が真面目な面持ちで待っていた。

「星世。お待たせ」

「隼人。入ろ」

どうしたんだろう。星世何かあったのかな。


俺達はピザとスパゲティそれにドリンクバーを注文した。

「ドリンクバー行って来る」


もう星世の好みは知っている。二人分のドリンクを持ってテーブルに戻ると星世が下を向いている。


「星世どうした」

腕を押さえている。


「腕がどうかしたのか」


ゆっくりとテーブルの上に腕を乗せると手首から少し上の方に強く握られた跡が付いていた。

「どうしたんだ。これ。誰かにやられたのか」


星世は横に首を振って

「違う。学校でしつこい男が居て。私に声を掛けて来るの。無視していたけど、今日廊下でいきなり声を掛けられて」

「声を掛けられた」

「話が有るって。少し時間くれって。…私は隼人以外の男の人と話をする気は無いの。だから断ったら、いきなり腕を掴まれて。大きな声を出したら離してくれて。逃げて来た」

「………」


星世と俺は学校が違う。学校で星世の身にかかる災いから守ることが出来ない。どうすば。

「柏木さんは。いつも一緒に居れば、そいつも変な事出来ないだろう」


「美緒は無理。クラスも違うし。二学期から部活始めるみたいだし」


注文のピザとスパゲティが届いたので、いつものように半分ずつ取り皿に取りながら食べた。


「どうするかな。俺が毎日放課後迎えに行くか」

「無理よ。それに今日は放課後だったけど。明日からは声を掛けられる時間はいっぱいある」

「じゃあ、仲のいい友達を作っていつもその子と一緒にいれば。帰りも駅まで一緒とか」

「……それが良いかな」

「誰か心当たりある。そこまで仲良くなれる子」

「うーん。一人いると言えば、いるかな」


私は、前の席で毎日話しかけてくる女の子白石文香の事が頭に浮かんだ。



それから、俺達は、今日の事を色々話して、一緒に帰った。



翌日、私は美緒と下駄箱で別れると教室に向かった。幸い今日はあいつとは会っていない。

「おはよう如月さん」

「おはようございます」


私は鞄を机の横にかけながら

「ねえ、白石さん。今日のお昼一緒に食べれないかな」

「うん、いいよ」

如月さんから声を掛けてくるなんてどうしたんだろう。


午前中が終わった。二人共お弁当持ち。白石さんは向き直って、足を二本とも椅子から通路側に出すと

「食べようか」

「うん」


「如月さんのお弁当素敵。自分で作るの」

「うん、でもほとんどはお母さん。私はお弁当に詰めるだけ」

「そうなんだ」

「白石さんも美味しそうだね」

「ふふ、私も如月さんと同じ。中身はお母さん」

「「ふふふっ」」


一通り食べ終え、お弁当箱を片付けると

「白石さん。頼みがあるの」

「えっ、なに」

「実は………」


私は、白石さんに高田幸助の事を話した。そして学校にいる間は一緒に居て欲しいと言う事も。

「そうなんだ。高田さんってC組の人だよね。見た事ある。背が高いでしょ」

「うん」

「分かったわ。如月さんを私白石文香が守ってあげる」

「ありがとう」

如月さんの目がマンガチックにキラキラ輝いて見えた。


「あ、ちょっと如月さん。私お花摘み」

「はい、私も」

「あはは、そこまで一緒でなくても」

「でもこの前は、女子トイレの前で」

「えーっ、何しているんだろう。あの人」


それから休憩時間は、白石さんと二人で過ごした。高田は私に話してこなかった。



―――――


うーん、白石さんで良かったのかな。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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