第8話 それぞれの事情(如月さんの場合)


 もう五月も半ばになると大分暑くなってくる。来月から夏服になるが、今はまだ冬服。だいぶ暑い。元よりの駅の改札は、通勤、通学の人であふれている。

「隼人、おはよ」

「おはよう、星世」


 背中の中ほどまで伸びている髪の毛をポニーテールにしている。大きくクリッとした目に、スッ通った鼻、可愛い唇、細面だけど少し丸みのある可愛い顔が爽やかな笑顔を見せてくれている。


 首元にオレンジのリボンを付けて、白いブラウスの上から紺のジャケットを着ている。胸には校章そしてスリットの入った膝上丈の紺のスカートを履いた星世は、とても可愛い。足元はローファーだ。


「行こっか」

「ああ」


 二人で改札に入ると電車の来るホームで電車の乗降口の場所に並んだ。既に何人か並んでいる。


「星世、学校慣れた」

「大分ね。でもまだ、一ヶ月ちょっとだからね」

「そうか。クラブは入るの」

「分からない。入るなら美緒と同じクラブにしようと思っているのだけど、私お姉さんが生徒会役員だからそっちに引っ張られる可能性あるかな。この前も家で入らないかと言われたし」

「そうか。生徒会は大変そうだな」

「でしょう。隼人はどうなの。クラブ」

「あんまり興味ない」

「そう言えば隼人、また身長伸びたんじゃない」

「うーん。入学する時に計ったら一七八センチあった。中学三年一年間で六センチくらい伸びたかな」

「うわー。私一五八センチだよ。二十センチも違うんだ」


 話している内に電車がホームに入って来た。この駅だと降りる人はほとんどいない。乗る人ばかりだ。


 何とか二人して並んで吊革に摑まると丁度星世の頭が僕の首より少し上あたりになる。

星世から何かいい匂いがして来る。


「隼人、今日は早く帰れるけど、帰り待合出来る」

「いいよ」

「じゃあ私のとこの駅のホームで、三時半でどうかな」

「OK、そうしようか」


「じゃあ、また帰りに」

「うん」

 星世が通う長尾高校の元よりの駅で降りると小さく手を振った。

僕も小さく手を振ると星世がにこっとして改札に向かった。



「星世。おはよ。朝からべったりね」

「美緒、おはよ」

「すぐそばに居たけど声も掛けられなかったよ」

「そんなことないよ。声かけてくれてもいいのに」


「そう言えば立花君。中学時代は目立たない子だったけど、高校に入る辺りから大分変った感じがする」

「えっ、どういう風に」


「なんか、自信が付いたというか。簡単に言うとかっこよくなったって感じ。中学時代は、髪の毛もいい加減だったけど、今は短めでスキっとしているし、身長も高くて顔だって悪くない。あれはモテるよ」

「えーっ、それ困る。でも隼人は私だけだから」

「ご馳走様。聞くだけ野暮だったか」


 確かに隼人は、付き合い始めた頃は、身長も目立つ方じゃなかったし、髪の毛もバサバサだったけど、ちょっとした仕草や、態度は付き合った頃から変わらない。


 周りの子はそれが見えなかったんだと思う。あの子(鈴木穂香)を除いては。彼女は隼人と一緒の高校。でも大丈夫。私と隼人の仲だから。


「そう言えば美緒、クラブどうする」

「まだ決めていない。急ぐ必要ないし。内申点をクラブ活動で稼ぐ必要ないから」

「美緒なら問題ないだろうけど、何か入っておいた方がいいよ。まあ、運動系は止めた方がいいと思うけど」

「そうか、そうだよね。星世も決めてないんでしょ。今度話そうか」

「うん、そうしようか」


美緒とは、別のクラス。下駄箱の所で別れて自分の教室に行った。


「如月さん。おはよう」

「おはようございます」


 まだ、良く知らないけど席の近くになった女の子とは、挨拶をするぐらいにはなっている。

 入学したばかりだからか、学生服を着崩したり髪の毛を染めたりする人はまだいない。

 もっとも一年生一学期のクラス編成は入学試験順でAクラスからEクラスまで分けられている。二年になると成績によるが志望大学に応じてA、Bクラスが国立、C、Dクラスが私学上位校、Eクラスがその他だ。

 三年になったらそれぞれが理系、文系でさらに別れる。

私はAクラス。だからそんな人はいないんだろうけど。隼人はどうしているのかな。



隣に座る女の子が、顔を私の耳元に近付けて

「ねえ、如月さん。朝いつも一緒に電車でお話している男の子って大北高校の制服着ているわよね。恋人なの」

「まさか。中学が一緒で仲の良かった人です。気が合うので良く二人で話しているって感じです」


「そうか。如月さん可愛いからもう特定の人いるのかなと思って聞いたんだ」

「どうして」

「如月さん、男の子の間で結構話題になっていますよ」

「えっ、話題になっているって?」


「もちろん可愛いという意味で。そのうち告白されるかもでね」

「まだ、入学したばかりです。見かけだけで声を掛ける人はちょっと」

「さすが如月さん」


 朝のチャイムと共に担任の先生が入って来たので、そこで会話を止めにした。


放課後になり、クラブも決めていない私は直ぐに下駄箱に向かうと

「如月さん」


 私の事を知っているのは美緒とお姉さん位。誰だろうと声の方に振り返ると身長は隼人と同じ位で、胸のクラス編成がCになっている男の子がいた。

「………」


「すみません。いきなり声を掛けて」

「何か」

「少し、話できませんか」

「約束が有るので、お断りします」

「分かりました。では今度時間を作って頂けませんか」

「すみません。急ぎますので」


 私は下駄箱から自分の靴を出し、上履きをしまうと、急ぎ足で立ち去った。


「まったく、箸にも棒にもかけてくれないな」

「いいよ、まだ時間はある。必ずあの子を………」



―――――


如月星世さん。可愛いから気を付けないと。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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