第6話 秋の陽に


如月さんが隼人にアプローチして五か月。

もう十月の声を聞く頃になりました。


―――――


隼人に如月さんと買い物に一緒に行っていいよと許して以来、二人の距離は急速に近づいた感じだ。


 学校でこそ、二人共そんな素振りは見せないけど、隼人の話のちょっとした表現の中に彼女の姿が見え隠れする。


 数学クラブで一緒でも前の様な距離感が隼人と私に無くなった。少し遠のいた感じだ。

土曜も日曜もいつも家にいない。誘っても用事があるという。


 明らかに如月さんと隼人は付き合っている。でも、私にはどうすることも出来ない。はっきりと隼人に伝えるだけの心の確証が自分にない。

 それにもし言って断られたら、そう思うととても告白なんて出来るものではなかった。


はーあっ。


仕方ないか。来年春には高校生。二人共どこに行くのかな。でも隼人と如月さんの成績の差では同じ高校に行くとは思えない。そうだ。まだチャンスはある。


 如月さんだって高校に行けば新しい人が見つかるかもしれない。隼人も同じだけど私は隼人と同じ高校に行ける。今は、様子見して、高校生になってから考えればいいんだ。


 高校生になれば、隼人と居る時間は私の方が長くなる。その間に私に振向かせればいいんだ。

 

 私は、この時そう思っていた。




 俺と星世は、お互いの家から近い高台の公園にいた。公園の高い部分はベンチがいくつかあって周りの景色が良く見える。

 今日は天気がいい。もうすぐ太陽が赤く染まり始める時間だ。


「星世、高校は長尾高校受けるの」

「うん、両親の事を考えると、この辺ではあそこ受けるしかない」

「将来は医者になるの」

「多分、お姉さんが継げばいいんだけど。お父さんが、二人共大学は国立系の医大に行きなさいと言っている」

「そうか、俺なんか大北高校が手いっぱいかな」

「隼人、今からでも遅くないよ。私と一緒に長尾高校に行こう」

「星世、受かる事は出来るけど授業についていけないと思う」

「それは私が教えるから」

「そういう訳には行かないよ」

「でも……」


「高校は同じ方向だから帰りは一緒に帰れるし」

「隼人、それは難しい。お姉さんの週のカリキュラム見たけど結構大変。一緒に帰るのは、偶にしかできない」

「そうか」

「でも少しでも一緒に居たい」

彼女の目が真直ぐに俺の目を見ている。


俺も星世の目じっと見た。

横からの風で、陽の光りに輝く柔らかそうな髪の毛が少しだけ彼女の顔にかかる。左手でそれを優しく持って耳の後ろに持って行くと彼女はゆっくりと目を閉じた。


秋の陽は短い。まだ四時だというのに彼女の可愛い顔を優しく照らしていた。

そっと、自分の顔を近づける。柔らかい感触が唇に触れた。彼女の背中を優しく抱くと彼女も俺の背中に手を回して来た。


 唇が震えている。一度離してもう一度触れると彼女が強く唇を当てて来た。

どの位経ったのか分からない。十秒、一分、考えられない位の長くて短い時間の後、二人が同時に唇を離した。


「隼人が初めて」

顔を夕日と同じ位真っ赤にしながら目は逸らさずに言う星世に

「俺も星世が初めて」


じっと目を合わせるとまたゆっくりと唇を合わせた。


星世を家まで送る途中

「隼人、誰かに見られてたらどうする」

「どうするって」

「へへへ。キスしたけど。まだ付き合っていないよね」

「ああそうだな」


星世が足を止めていきなり俺の前に立った。

「そうだなじゃないでしょ。もっと言う事他に無いの」

「うーん。じゃあ、俺達付き合おうか」

「もう、もう少しうまく言えないの。私への告白でしょ。せっかく私が好きになった人だよ」

「じゃあ、なんて言えば」

「自分で考えて。それまで返事保留」

「えーっ、保留って」


いつの間にか、星世の家の前まで来てしまった。

「じゃあまた明日。ちゃんと考えておいてよ」


星世が家に入るのを見届けてから、足を家に向けた。


返事保留って言ってたけど、私が好きになった人だよって言ってたよね。告白と違うのそれ。

うーん、やっぱり違うのかな。


「ただいま」

「お帰り」


玄関を上がって自分の部屋に行こうとした時、姉ちゃんとすれ違った。目がお月様(下弦の月)みたいになっている。

「あのさ、隼人。夕食前に鏡見といた方がいいよ」

笑いを堪えながらキッチンの方へ消えた。


俺は、制服を脱いで、部屋着に着替えて洗面所に行って鏡を見ると

「あーっ」


俺の唇にうっすらと赤い色が付いていた。

「うーっ、暗くて分からなかったんだ。不覚。姉ちゃんに弄られそう」

腹は減っているが姉ちゃんと顔会わせたくない。はーぁ。



俺は次の日の放課後、あの時の公園で改めて星世に告白した。もちろん彼女は一発OKで思い切りキスされたけど、今度は口紅が付いていないか、確認して貰う事は怠らなかった。




「隼人、やっぱり大北高校受けるの」

「うん、俺の学力じゃ、試験受かっても入学してから大変そうだし」

「そうか。高校生になっても隼人と一緒に学校生活送れると思ったんだけどな」

「ごめん。俺が馬鹿だから」

「隼人が馬鹿な訳ないよ。私が好きになった人だよ。優しくて、私が困ったときはいつも側に居てくれて、楽しい時は一緒に笑ってくれる人、私を支えてくれる人だよ。だからずっと隼人の側に居たいよ」

「俺もだよ」


星世は、俺の顔をじっと見ながら


「ねえ、今度の土曜日、家族の帰り遅いんだ。うちに来ない」

「うん、いいよ」


いつもの事だと思って軽く返事をしたけど、星世が下を向いて顔を赤くしている。

どうしたんだろう。



―――――


ぐっと進んだ、隼人と星世の関係。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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