第3話 偶然の出来事
中間テストが終わり、結果が戻って来た水曜日放課後。
「隼人、テスト結果見せて」
「これだ」
結構自慢げ各科目の試験結果を穂香に見せると
「凄いじゃない。全科目平均点以上。やったわね」
「ああ、穂香のおかげだ。そう言えば、何か一つ願い事を聞いてやるという約束していたな」
「あっ、それまだいい」
「まだいいの」
「うん、後で頼むから」
「……」
「それより今度の土曜日、買い物付き合って」
「いいよ」
「えっ」
まさか、隼人が私と一緒に出掛ける事に抵抗なかったなんて。失敗した。
「あっ、今の取り消し、実は……」
「だめ、一度言っただろう」
その後は、用事があるという穂香は先に帰って、俺は、図書館に行った。数学クラブは学校の指定クラブ活動時間に参加するだけだ。普段活動はない。だからといって早く帰っても仕方ない。ここの方が何となく居心地がいい。
いつも座る場所は、図書室の奥の方。寝ていても誰も文句は言わない場所。でも今日は、最近買ったラノベを読むことにしていた。
「立花君」
声の主の方に顔を向けると、えっ如月。
「あっ、はい」
「ふふっ、そんなに緊張しなくても。クラスメイトだから」
「……」
「立花君。放課後は、いつも図書館に来るの」
「ああ、大体」
「そうなんだ」
「如月さん。何か用事」
「ううん、同じクラスなのに全然話した事無いから。ちょっと声を掛けたの。邪魔だった」
俺は、読みかけの本にしおりを入れて閉じると
「い、いや。ぜんぜん。そんなことない。むっ、むしろ嬉しいです」
「あははっ、立花君って面白い人」
「……」
それから二十分位話した後、如月は、椅子から立ち上がると
「立花君。今度の土曜日空いている。いきなりでごめんだけど」
「土曜日、あっ、ごめんなさい。ちょっと用事が」
こんな時に限って穂香と……。
如月は残念そうな顔をして
「残念だな。じゃあ、またね。今日は楽しかった。また話してくれるかな」
「はい。もちろんです」
如月の立ち去る後姿を見ながら、俺の脳はクエスチョンマークの倉庫になっていた。
如月が俺に声を掛けて来た。なんで。意味分からない。そりゃ嬉しいけど。
それにまた話してくれるかなって。もしかして如月俺の事を……。ムリムリ。下衆の望みは止めましょう。
土曜日、いつもなら十時までは寝ている俺がなんと八時半に起きた。穂香の買い物に付き合う為だ。
顔を洗って一階に降りると
「あら、隼人早いじゃない。どうしたの。朝食はテーブルに載っているわよ」
「うん、今日は用事があって」
椅子に座りながら箸に手を伸ばそうとした時、
「へー、穂香ちゃんとデート」
「えっ、なんで知っているの」
「あははっ、冗談で言ったのに。本当だったんだ」
「いや、デートじゃない。買い物付き合うだけだ」
「そういうのをデートと言うのよ」
「……」
デートなんて縁の無かった俺は、知合いの子の買い物に付き合う程度しか考えていなかった。まいったな。まあ、相手は穂香だし。
家から待合せの駅前まで十分。早めに行く事にした俺は、三十分前に家を出た。
駅の改札の前で待ち合せしていたが、まだ来ていなかった。さすがに二十分前は早かったかと思って、来た道の方を振返ると
「おわっ」
「あはは、びっくりしちゃった。ごめんね」
腰まである綺麗な髪の毛を耳が出る様に右手で軽く後ろに流すとふわっしていい匂いが漂った。
「信号待ちしていたら隼人が駅方向に行くのが見えたの。だから後ろをずっと歩いていたの」
「声かけてくれれば良かったのに」
「でも待ち合わせは、駅の改札口の前でしょ」
「そうだけど…」
「さっ、行こうか」
穂香は足早に改札を通ってしまった。俺も追いかける様に改札を通って穂香の後を追う。
あれは、立花君と鈴木さん。そっか。今日立花君が私と一緒に出来ないのは、鈴木さんと一緒だからか。でも二人でどこ行くんだろ。
本当は、今日立花君を誘って色々話をしながら買い物に付き合って貰おうかと思っていた。でも立花君は用事が有ると言って断ったが、鈴木さんが先約だったとは。
あの二人仲いいよね。付き合っているのかな。うーん。聞いてみようかな。
今の内なら軽症で済むから。
「穂香、さっきから見てばかりだけど何買うの」
僕達は元よりの駅から四つ目の駅の側に有るショッピングモールに来ていた。駅の両側で有名なデパートが展開している。
「いいの。買い物は見ながら、あっこれって感じでピンときたら買うんだから」
「買うもの決まっているの」
「……別に」
「えっ、それってウィンドーショッピングってやつ」
「そうよ。隼人。悪い」
「い、いや」
そう言う事か。何か買うものが決まっているのかと思っていたのだけど。まあいいや。中間テスト世話になったし。
ところで穂香中間テストで俺が平均点以上取ったらお礼して貰うと言って先延ばししているけどなんだろな。
「隼人。隼人ってば」
「えっ」
「えっじゃない。ここ入る。付き合って」
「えっ、僕も。いや、僕は外で待っているよ」
「だめ」
そう言って穂香は僕の袖を引いて店に中に入ろうとした。
ここどう見ても僕が一緒では……。そう、何を隠そう、女性ランジェリーのお店。周りの人達からの視線が槍となって顔に突き刺さる。痛いんだけど。
穂香が何やら物色している。色々な色があり、レースだったりなん絹だったりで、僕は目のやり場に困りながら穂香の側に居ると
「隼人、これどう」
うっ、穂香が手に持っているのは、淡いオレンジ系とイエロー系の2つのブラとショーツ。
僕は何処見ればいいんだ。仕方なく下を見ながら右手で指さす。物は見ていない。
「えっ、隼人、これって黒だよ。これ着て欲しいの」
恐る恐る僕が指差した方を見ると穂香の持っているものではなく、ハンガーにかかった黒の上下だった。
「あっ、違う、違う。こっち」
「そうだよね、淡いオレンジ系素敵だよね。じゃあ、これ買って来るね」
「えっ、穂香一人にしないで」
僕のお願いも空しく、穂香は僕を置いてレジに行ってしまった。女性ランジェリのお店の奥の方で一人残された僕への周りの目線は、
えっ、なに。その暖かい眼差し。俺どうしたの。やばい、何か勘違いされている。
顔を赤くしながら下を向いていると
「隼人、出よ……。どうしたの」
「いや、早く出よう」
僕は、そそくさとそのお店を出た。
ふーっ、中学三年生男子がですよ。女の子と一緒に女性ランジェリショップに入るなんて。精神的な拷問でしかない。
「ふふっ、隼人にはちょっときつかったかな」
「えっ、穂香、それ分かって僕一緒に入らされたの」
「まあまあ、あっ、そろそろお昼だね。フードコート行こう」
穂香は、僕の手を急に繋ぐと強引に歩き出した。
「穂香、ちょっと、待って、待って」
「穂香、席を取っておいて。僕が買いに行くから。何食べる」
「いいよ。別々に買いに行こう。隼人先に買いに行って」
「分かった。そうする」
僕が、フードコートのカウンタで並んでいると
「立花君」
声の方を振り向くと二人の女の子が立っていた。
「如月さん」
「偶然ね。私達もここで食べようと思って。一緒に食べない」
「えっ、あの」
僕は穂香の座っている方を向くと
「いいよ。鈴木さんが良ければ。ね、美緒」
「うん、私は構わないけど。でも立花君、鈴木さんとデートじゃないの」
僕は思い切り首を横に振って
「違います。買い物に付き合ってくれと言われただけで」
「そうなんだ。じゃあいいよね」
「星世、立花君のことになると積極的だね」
「美穂、余計な事言わない」
私は、隼人がカウンタへ昼食を買いに行く所を目で追いかけていた。
「えっ、如月さんと柏木さん」
彼女達は急に隼人に近付くと何やら話しかけている。
あっ、隼人がこっちを見た。
あっ、三人でこっちのテーブルに歩いて来ている。どうなっているの。
―――――
おやおや、意外な展開に。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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