第2話 中間テスト
図書館の入り口ドアでの事件から、何も進展は無かった。
如月の机は、廊下側から二列目、前から三番目。俺の席は窓側一番後ろ。結構な距離が有る。普段ちょっと話せる距離では無かった。
だが、穂香は、俺の右斜め前、如月を見るとどうしても穂香を視線の中に入れることになる。
後ろから見ると瘦せ型で身長も一五六センチ位の彼女は目立つ子では無かった。
彼女が何気なしにこちらを見る時がある。誰を何を見るのか知らないが、方向的には僕の方だ。偶に視線が合うと彼女は直ぐに目を逸らす。
時間は英語の授業中。俺は外を見ながら、誰にも聞こえない様にため息を吐いた。…はずだった。
「おい、立花。俺の授業はため息が出るほどつまらないか」
「えっ」
気が付くと全員がおれの方を見ている。完全に目で笑っている。如月はというと楽しそうな顔をして俺を見ている。
誰も気が付かないはずでは無かったのかと反省するには時間が無かった。
「立花、次の問題を答えろ」
「えっ、次の問題?」
答えられずにいると
「もういい、後で職員室に来い。如月答えて見ろ」
「はい」
可愛い声をしてスラスラと答える彼女を見ながら、またため息が出そうになった。
職員室に呼ばれた俺は、
「立花。来週から中間テストだぞ。なに外見てため息ついていたんだ」
「はぁ」
「はぁじゃない。今年は受験生だ。今のままだと、何処の高校も危なくなるぞ」
「えっ」
「えっ、じゃない。夏から秋にかけて運動部の連中も勉強に本腰を入れて来る。一瞬にして抜かれるぞ」
「……」
英語の先生にしっかりと説教された俺が職員室のドアを出ようとすると
「あっ」
「おっ」
またまた、如月星世とぶつかりそうになった。
「すっ、すみません」
顔を赤くして下を向いている彼女に
「いや、俺の方こそ」
「この前もそうですね」
「あっ、ああ」
入り口のドアに立っている俺に
「あの、入りたいんですけど」
「あっ、ごめん」
さっと退くとふふっと笑って横を通り抜けた。
また、やらかしてしまった。でもあの笑顔。いやいや下衆な想像は止めよう。
図書室でまた、外を見ながらぼーっとしていると
「隼人。英語の授業中、あんな大きな声でため息ついたら誰だって気付くよ。どうせ彼女の事なんでしょ」
「えっ」
こいつなぜ俺の心を読める。
「ほら図星じゃない。来週から中間テストよ。勉強進んでいるの」
首を横に振ると
「今年は受験生よ。エンジン掛けないと高校浪人するわよ」
「えっ、高校浪人。なにそれ」
「はーっ、隼人呑気し過ぎ。高校に入れずに一年棒に振る事よ。まあ、今は私立も有るけどね」
不味い。絶対に不味い。
「穂香、勉強教えてくれ」
「何言っているの。でも教えてあげない事もない。但し条件が有る」
「条件?」
「総合で平均点以上取れたら、私の言う事一つ聞く事。教えがいあるわ」
「それって普通、俺のお願いを聞くってパターンじゃ」
「いやなら良いわ。一人で頑張りなさい」
「わっ、分かった。その条件飲む」
残された時間は、木曜から日曜まで。俺は穂香の力を借りる事にした。
「穂香、ここ分からない」
「それはね…。あんた数学クラブでしょ。当てはめる公式間違うのよ」
「でも」
「穂香これが分からない」
「それはね…。これって中学二年の時の英語の問題でしょ。もう」
授業が終わってから、図書室の退出まで木曜と金曜教えて貰った。土曜日は、俺の家で、日曜日は穂香の家で教えて貰う事になった。
金曜日に穂香との別れ際に
「穂香、明日は頼むな」
「うん、午後一時隼人の家ね」
穂香は午後一時少し前に俺の家にやって来た。
「お邪魔します」
「あらぁ、穂香ちゃんじゃない。一段と綺麗になったわね」
「ありがとうございます。隼人は」
「えっ、隼人確か部屋にいると思うけど。今日はなにか約束」
「えっ、聞いてないんですか。今日は隼人と私で勉強会です」
「ごめんなさい。あの子何も言わないから。部屋に行ってあげて」
私は二階に上がり、一応、ドアをノック。えっ、もう一度ノック…。
シーン…………。
仕方なく、ドアを開けると
ベッドの上で、毛布を開けパジャマ姿の隼人がまだ寝ている。
どういうつもり。今日は勉強会というから来たのに。
私は側に行って
ぷに、ぷに。
隼人の片方の頬を指で突くと
「うーん」
まだ起きない。
今度は、両方の頬を同時に
ぷに、ぷに。ぷに、ぷに。
「うーん」
といってこちらに寝返りを打ってきた。隼人の顔をよく見ると結構可愛い。普段はややきつめの顔をしているが、目を閉じると優しくなる。ついおでこに
ちゅっ、ちゅっ、ちゅーっ。
起きない。仕方なく
「隼人。起きろー」
「わぁー」
思い切り起きて来た隼人の顔がなんと私の胸を直撃。
むにゅーっ。
なにか、気持ちいいクッションが顔の前に……。ゆっくりと目を開けるとブルー一色。
あれっ。と顔を起こすと
「隼人のえっち」
顔を赤くして胸の前を手で閉じる穂香。
「えっ、なんで穂香が僕の部屋に」
「なに言ってるのよ。今日は勉強会でしょ」
「えっ、今何時」
「もう午後一時よ」
「……ごめん直ぐ着替える」
いきなり立つと、私の前で上半身裸に
「きゃーっ」
一階から怒涛の足音。
「どうしたの。凄い声がしたから」
お母さんが、僕の上半身裸と怯えている穂香を見て
「隼人。穂香ちゃんに何しようとしたの」
「いや、これは」
それから穂香も手伝ってお母さんの誤解を解き、勉強会を始めたのが午後二時を過ぎていた。
途中休憩を挟んで午後六時までしっかりと勉強した俺達に母親が
「穂香ちゃん。夕食食べて行って。直ぐに準備出来るから」
「ありがとうございます。でも家でも準備しているので。帰ります」
「そう。残念だわ。隼人家までしっかり送って行ってね」
「言われなくてもそうするから」
結局俺は穂香を自宅まで送って行き、自分の家に戻った時は午後七時を過ぎていた。
「隼人、穂香ちゃんとは仲いいの」
「ああ良いよ」
「付き合っているの」
「付き合っていない」
「ふーん。あんたはあの子どう思っているの」
「別に、親しい友人かな。何でも話せるし。クラブも同じだし。帰りも一緒だから」
「そうなの。穂香ちゃんみたいな子が、あんたの彼女になってくれるとお母さん嬉しいけどね」
「俺がどうのじゃなくて穂香が俺をどう思っているかだよ。どう見てもそんな感情無いと思うよ」
ふふっ、隼人の奴、私胸に思い切り顔を付けて来た。今度はいきなりじゃなくて、しっかり付けて来てくれると嬉しいけど。
まあ、隼人は、如月が好きなようだから。その芽は無いか。
明日は、隼人がここに来る。少し部屋片づけないと。
その日は嬉しくて何となく寝付けなかった。
―――――
隼人は、如月が好きなようですが、穂香は隼人が好きなようです。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます