第33話 重巡vs重巡

 「ミネアポリス」と「アストリア」、それに「クインシー」に「ヴィンセンズ」の四隻の「ニュー・オリンズ」級重巡洋艦を率いる巡洋艦戦隊司令官は戦う前にすでに勝利を確信していた。

 眼前の四隻の「最上」型巡洋艦は主砲が実のところ六インチ三連装砲塔五基から八インチ連装砲塔四基に改装されたことはすでに情報として得ている。

 「最上」型は主砲塔を五基から四基に減らす一方で、逆に高角砲を増備しているが、これは米軍の「ブルックリン」級軽巡と現在建造が進められている後継軽巡の関係と同じだ。

 六インチ砲一五門の「ブルックリン」級軽巡に対し、後継軽巡のそれは六インチ砲一二門と主砲は二割減の一方で高角砲は八門から一二門へと増強されている。

 あるいは、日に日に航空機の脅威が高まる中、高角砲や機銃といった対空火器を増強するというのは米日を問わないトレンドなのかもしれない。


 だが、その代償として眼前の「最上」型巡洋艦は明らかに対艦攻撃力が落ちている。

 巡洋艦戦隊司令官としては、三二門の八インチ砲よりも発射速度の高い六〇門の六インチ砲と戦うほうがどちらかと言えば嫌だった。

 いずれにせよ、現状ではこちらが八インチ砲三六門に対して日本側のそれは三二門だから、単純な門数だけで言えば一割以上優勢だ。

 さらに火器管制装置の性能や将兵の練度、それに防御力を加味すればその差は広がることはあっても縮まることはない。


 「目標、『ミネアポリス』一番艦、『アストリア』二番艦、『クインシー』三番艦、『ヴィンセンズ』四番艦」


 巡洋艦戦隊司令官は麾下の四隻の重巡洋艦に対し、それぞれの艦の対応艦にタイマン勝負を命じる。

 その声音には、気合とともに絶対的な自信がみなぎっていた。

 発砲は日本側の方がわずかに早かった。

 砲戦開始距離を日本側は二〇〇〇〇メートル、米側は二〇〇〇〇ヤードとしていたためだ。


 巡洋艦戦隊司令官にとって残念だったのは、空母同士の戦いに敗れたために観測機が使えなかったことだ。

 それでも巡洋艦戦隊司令官はそのことについては決定的なハンデとは考えていなかった。

 優秀な射撃管制装置と十分に訓練を施した腕利きの将兵らの技量でそこは十分に埋め合わせることが出来る。

 実際、日本側よりも遅れて砲撃を開始したのにもかかわらず、夾叉を得るのはほとんど同時だった。

 観測機が使えない中においては十分に満足できる成績だ。

 そして、それを成し遂げた「ミネアポリス」の艦長と砲術長に巡洋艦戦隊司令官は最大級の賛辞を贈る。


 だが、そこからがおかしかった。

 斉射に移行してからは、互いにほぼ同じ数の命中弾を得ているはずだった。

 しかし、ダメージの蓄積は明らかに「ミネアポリス」の方が大きい。


 「まさか、連中はSHSを使っているのか」


 巡洋艦戦隊司令官は胸中で自問自答する。

 現在建造が進んでいる新型重巡の主砲はSHSが運用出来る機能が付加されると巡洋艦戦隊司令官は聞き及んでいる。

 その砲弾重量は八インチ砲弾としては破格の一五〇キロにも達するという。

 SHSはすでに実戦運用され、「ノースカロライナ」と「ワシントン」の二隻の新鋭戦艦には新型重巡に先んじてすでにそれが配備されている。

 その砲弾は、同じ一六インチ口径でも旧式戦艦の一〇〇〇キロに対して一二〇〇キロ以上にも達するとのことだ。

 そして、自分たちに出来ることは敵にも出来ると考えるのが至当だ。


 巡洋艦戦隊司令官の予想は悪くはなかったが、必ずしも正確ではなかった。

 「最上」型をはじめ「妙高」型や「高雄」型はそれぞれ九インチ、帝国海軍で言うところの二三センチ砲に換装されており、その砲弾重量は一七〇キロを超える。

 一般的な重巡が搭載する八インチ砲弾の四割増し、軽巡が装備する六インチ砲弾との比較では三倍近く重い。

 その二三センチ砲弾が重巡としては重防御を誇る「ミネアポリス」の装甲を軽々と食い破り、重要区画内部に飛び込んだそれは他の巡洋艦のそれとは一線を画す破壊力を解放する。

 急速にダメージを重ねる「ミネアポリス」の異変にいち早く気づいた巡洋艦戦隊司令官が距離をとるように命じた刹那、第二砲塔直下の弾火薬庫に二三センチ砲弾が突き刺さる。

 二〇センチ砲弾であればあるいは耐えられたかもしれない装甲も二三センチ砲弾の侵入を阻むことは出来なかった。


 「ミネアポリス」は第二砲付近から盛大な火柱を噴き上げ行き脚を止める。

 その数瞬後にはその第二砲塔付近を中心に爆煙が立ち上るとともに船体が真っ二つに折れる。

 あっという間の沈没、それゆえに巡洋艦戦隊司令官をはじめ同艦の生存者はほとんどいなかった。

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