ダイ▲4

 ピピピッ

「うーん.....」

 うるさい目覚ましをいつものようにバアンと鉄拳制裁の如く開いた手を叩きつけ、止める。つもりだった。

 シリコン製のボタンに触れる感覚と共に沈黙するだけだったはずの時計はガシャンと明らかに普通じゃない音を立てて沈黙し、異常だと思った“私”は重たい首をもたげてベッドの近くにある机の上を見る。

 そこには液晶にヒビを作り、歪んだ置時計があった。

「えっ」

 さらに驚いたのは視界に入る自分の腕だ。

 自分で言うのもアレだが細くてしなやかだったはずの腕は太く、そして筋骨隆々だった。

「どういうこっちゃ....」

 そう発する自分の声も酒やけの低い声より一回りも低く、野太い。

 なんだか嫌な予感とワクワク感を抱きながらベッドから出て自らの両足で立つ。

 いつもより部屋が小さく見え、そして天井が近い。おまけでやっぱり足も腕と同じくらい筋骨隆々。

 見たくないと思いながら洗面台へと向かい、鏡で対面した。

「はああああああ!?」

 男が立っていた。ピッチピチの女物のパジャマを着たムキムキの男がいた。

 DI〇様。これ完全にDI〇様だ。

 声を上げたがいつもなら飛んでくる神経質そうな隣人さんは出てこず、ちょっと安心しながらもこれは現実なのだと思うと───

「最ッ高にハイッ↑てヤツだあ!」

 ポーズを決めて言ってみたかったセリフを言ってみる。うわあ~目の前に本物がいるよ。着ている服は置いておいて。

 しかし楽しむだけではない。色々な問題がその後に直面したがなんとか解決していき(グー〇ル先生の力は凄まじい)、しばらくするとそれらを全部ひっくるめても凌駕する事態に直面した。

 生地が伸びきってしまったお気に入りのを仕舞い、男女兼用そうに見えるジャージに着替えて朝食を作っていると玄関の向こうから声が近づいてくる。

「おはようございま~す。今日も生きてますか?」

「誰だか知らないけど、今から朝食を食べるの。それに生きてるわよ」

 男の声でこれは完璧なオネエだが、向こうの女の人の声は「へえ~」と見当違いな感心の声と共に今度ははっきりと明瞭に声が聞こえた。

「それは重畳ちょうじょう。ところで、どちら様?」

「だーかーらー、そんなこと───」

 玄関の方を向くと扉から顔だけが出てきた状態の女の人が不思議そうな表情を浮かべていた。

 普通だったら怪奇現象に直面したと騒いだり失神したが、誠に不本意ながら“慣れて”しまった私は特に驚きもせずフライパンの上にあるできたてのオムレツを皿の上に置いて居間へと引っ込む。

「いやいや、答えてくださいよ」

 ずかずかと勝手に入ってきた女の人はまるで自分が家主かのように憤慨していたが気にせずケチャップを少し付けて食べていると何かに気付いたのか「あっ」と声を漏らした。

「もしかして?」

「正解」

「どうして男に? しかもムッキムキの身体でスタンドでも出せそうな極悪人面で」

「分かってて言ってるでしょ。それが分かったら苦労しないわよ」

 女の──今は男の私でも嫉妬するぐらいの容姿のガブリエルへ小言を言いながらふと、この現象は全国でも起きてるのではないかと嫌な希望を抱いてテレビを付けるといつもの男性アナウンサーのテロップと共に女性アナウンサーが座って緊張の面持ちで速報を伝える。

 まとめるとこうだ。

 今、全世界で性別が反転すると言う異常現象が発生している。このことで発狂する者、喜ぶ者など様々な反応を示しているが、現在国家機能などが一時的に麻痺している国などもあるが日本は謎の適応力でいつも通りとのこと。

「中東辺りは今頃阿鼻叫喚の地獄絵図でしょうねえ」

「なんで───ああ、そういうこと」

 ガブリエルは呑気そうに言い、それからこっちに向き直ってくる。

「それで、どうしますか?」

「何を?」

「そりゃあ、こんな状態なのに決行するんですか?」

「するよ。我を通すって決めたからね」

 普段なら軽口の一つでも叩くシーンなのに彼はふむふむ、とモノクルの縁を触りながら興味深そうに頷き、そしてニヤリとした。

「分かりました。これで方針も決まったのでそれじゃあ」

「え、ちょっ」

 一方的に告げてまた扉を通過して部屋に一人残された私はしばらく呆然としていたが、いろいろと試してみたいことが浮かんだのでそれらを試そうと思った。

 だが、それよりもまずしなくてはいけないことがあったと思い出した。

「シエスタ~」

 ここは日本だぞ、と言うツッコミがありそうな午睡の時間になったため、ベッドに横になる。

 目を閉じ、目が覚めたら何をしようかなとワクワクしていたが、一抹の違和感が浮かび上がった。

(あれ? 一回もアイツ私の名前呼んでいなくない?)



 ピピピッ

「うーん....」

 バチンと叩いて目覚ましを止め、フワフワとする意識の中で私は自分がDI〇様みたいになると言う夢を見ていたことを思い出し、はっとした。

「腕はっ!?」

 不安から衝動的に腕を見る。

 ぼやけてはいたが細くしなやかな見慣れた腕が映っており、両足たちにも触れて確認するが変わらず筋骨隆々なんて幻だと安堵して洗面台へと向かう。

「ふう....」

 冷水で完全覚醒した意識は鏡に映る姿を見て首を傾げた。

「いつジャージに着替えたんだろ」





 作品に直にあとがきする諏訪森です! レアだよ。

 つい最近投稿頻度劇落ちするって言ったくせになんだよ2日連続で投稿ってよ! と思っているでしょう。

 種明かしするとプロットだけの存在だった2人を一気に仕上げたのでこれで本当に無期限更新停止です。紛らわしかった事をこの場を借りて謝罪します。そして同時にこれからも何卒、『社畜天使』のみんなをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る