第71話彼女に捧げた




俺はニューヨーク市の地下鉄の駅で、ある男の後を尾行していた。

この男は第1容疑者として、捜査線上でも上がっていた人物だった。

この男の運転する車両だけに、事件が起きていたからだ。

しかし運転している人間が襲える筈がないと、早い段階で容疑者から外されていた。

しかし、犯人の関係者としてマークはされていた。


それが最近の事件では、この男が乗っていない車両で事件が起きていた。

その為に、警察の尾行も付かなくなった。


警察もギルドも能力者相手だと、考えていない捜査であった。

そもそも支援スキルに特化した冒険者は、自分自身のスキルを秘密にしている。

ばれると地上で対処される恐れがあるからだ。



この日は、この男の休みの日であった。

あの男は通過する車両に集中して睨み付けていて、去った後も見続けていた。

それが4時間も続いている。この異常な行動を捜査班も気付くべきだった。

多分、なんらかの支援スキルで冒険者を探しているのだろう。


地下鉄の運転をしていては、稼ぎの良い冒険者には中々出会えないだろう。

冒険者は金回りが良いのだ。

地下鉄に乗るのは便利か稼ぎの悪い冒険者だけだ。

だから男は考えた。駅のプラットホームで探せば出会える確率が上がる。

それに、ここのプラットホームの防犯カメラは故障中であった。

奴が壊した可能性もある。


奴が犯人だと断定出来ても確証がない。捕まえても弁護士が付いて釈放になってしまう。

現場を押さえるしかない。


あの男、大きなコートを着込んで襟を立てて、何かを隠している。

俺は必死に奴の考えを読み取ろうと試みている。

何やらもやがかかり、『食いたい、食いたい』と考えている。

いよいよ犯人に間違いがない。



あ!遠くの車両に冒険者が乗っている。

ニュースにもなっているのに、俺だけは大丈夫だと乗ってきたのだろう。


男の体から何かが出ようとしている。空気の歪みが体から見えて顔になった。

あれを地下鉄に乗せてはいけない。俺の危険探知が警告する。

俺は駆け寄り男を殴り倒した。


倒れた男のそばに、男と同じ顔の靄で出来た50センチの顔が浮かんで、俺を凄い形相で睨む。

そして大きな口を開けて、俺に向かって食らうがすばやくかわした。


背中に担いでいた長いバッグから、どうにか雷撃野太刀を取り出した。

周りの客は、俺を見て逃げている。

俺を殺人鬼と勘違いしている。

かわしてから靄の顔に突き刺して、少しだけ気合を入れる。

放電して靄の顔が飛散して消えてゆく。しかしその放電で男まで流れて口から泡を出して倒れている。

その放電が止むと、男もぴたりと動かなくなり、手で確認すると息はしていない。



スマホでジバに連絡をする。


「俺です・・・はい・・・犯人は死にました・・・待ってます」


雷撃野太刀を【黒空間】に仕舞い込んだ。

Lv111から【黒空間】が地上でも使えるようになった。

そして、ステータスにはLv112と表示されている。

そして支援スキルに生霊と表示されていた。

冒険者を探す支援スキルは、俺が上位のスキルを持ってるから表示されていない。


生霊


気力を使って第2の人格を作り出し、本人の欲望を達成させようと行動する


あの靄は普通の人間で見えないだろう。

しかしあの男は、ある隠し場所に殺した人々の記念品を隠していた。




アメリカのジバのスタッフが20分後に到着。

日系スタッフに記念品の隠し場所を教えると、警察に連絡をしている。

そして数名のスタッフに案内されながら、ギルドにおもむいた。




普通の部屋に見えるが、隠しカメラと盗聴が仕掛けられた部屋だった。

ここで事情聴取をされる羽目になった。

前半は目撃者が居るので正直に話し、後半は戦いながら奴が自白したと嘘をついた。

仕留めたのは支援スキルだと偽った。

そのために鉄製の木刀に似せた鉄刀を見せて誤魔化した。

そして奴を怪しんだ理由を、事細かく推論立てて話した。

長い話が1時間も及んだ。


しばらくして男の隠し場所から、証拠の品々が見つかり、俺はようやく釈放になった。


そして男の追跡調査でも、気の弱い男と評判で影の薄い男だった。

唯一の恋人が、地下鉄の車両内で気の狂った男によって、引き起こされた乱射事件によって死亡。

恋人の帰りを待っていた男は、警察の連絡でそれを知った。

それが引き金になったのだろうと、分析官が報告していた。

隠し場所は、彼女の墓だった。



俺は夜の空を、飛行機の座席に深く座り込んで、うとうととして眠り込んでいた。



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