黄泉物語 〜新説 四谷怪談〜

木野原 佳代子

第1話

いわ (言わずと知れた主人公 19歳)

伊衛門之助いえもん (下級武士 23歳)

うめ (伊衛門之助の妻 16歳)


田宮たみや 又左衛門またざえもん (岩の父)

伊東いとう 喜兵衛きへえ (梅の父)


薬屋(何でも屋)


プロローグ


 花のお江戸は元禄文化げんろくぶんか

 お家の都合で浪人になってしまった伊右衛門は御歳二十三であった。後がない伊右衛門は何とか出世したいと思っていた。そこへ四谷町に居を構える先手組若年寄せんてぐみわかどしより 田宮又左衛門の娘お岩の婿養子むこようしにならないかという話が舞い込んでくる。この岩は、歳の頃は十九ですこうしとうが立っていた。というのも、見た目は美人なのだが性格が兎角とかくキツイとうわさで嫁の貰い手が無いというのだ。だが、出世しゅっせの為に背に腹は変えられぬと、またうわさうわさに過ぎぬと田宮家へ婿養子となり、与力よりきの仕事に就くことができた。だが岩は、うわさ通りの人物であった。早朝から叩き起こされ、庭の掃除やら洗濯の手伝いをさせられ、また少しでも帰りが遅いと癇癪かんしゃくを起こし暴れるのだ。浮気でもしてるのではないかと。言い訳をしようにも、話を聞いてはくれない。そんな生活が続き、伊右衛門は結婚生活というものに疲れていた。

 そんな時、与力よりきの上司の伊東喜兵衛の娘、梅に出会う。歳の頃は十六で初々しい梅に伊右衛門は惹かれていった。梅もまた大人な雰囲気の伊右衛門に惹かれていた。

 そんな梅の気持ちに気付いた伊右衛門は、一計いっけいを案じた。

 まず、江戸中を歩き回り、流しの薬屋を捕まえて、病気になる薬は無いかと聞いた。これを聞いた薬屋、はて不可思議ふかしぎな話だと思いながらも、薬屋の面子めんつにかけて、どんな薬もございますと用意した。



 廃寺にて

 (辺りをキョロキョロと疑う伊右衛門

  薬屋は薬箱から油紙に包まれた薬を取り出した)



「ですが、旦那。この薬、とても強力で少しでも確実に効きます。しかひどく苦しみますゆえ、それ程までに憎い相手にお使いくださいな」

 これを聞いた伊右衛門。いくら性格のキツい嫁とはいえ、結婚した仲ではある。確かに性格はキツいが美人でもあり、連れ立って歩くには申し分無しと思ってもいた。

「そんなに苦しむのか?」

「はい、ひどく」

「少量でもか?」

「はい、それはもう」

「だが、確実に病気になるのだな」

「量が多ければ、一瞬で死にます」

「本当に死ぬのか?」

「はい、確実に」

 それ程までに苦しむのは可哀想かわいそうと思い始めたのである。


 この男、たくらむ事は恐ろしいのに気が弱いのである。




 だが、ある夜、また帰りが遅くなってしまった伊右衛門を岩は泣きさけびながら責め立てた。きっと浮気をしているに違いない。とうの立った嫁より若い生娘きむすめの方が良いに決まっていると。梅に心を移していた伊右衛門だったが、まだ逢瀬おうせの関係にはなかった。妻帯者さいたいしゃなのも黙っていた。それなのに、こんなに言われては、本当に梅と結婚したくなってしまう。そもそも出世しゅっせのために結婚したのである。



 そしてある夜。岩は失踪しっそうした。



 それから一月後、伊右衛門は梅と祝言しゅうげんを挙げた。



 その夜。


 

 寝屋ねやにて。部屋は行燈あんどんの明るさしかなく、ほんのり明るい程度だった。


 真っ白な布団の上に恥ずかしそうに座っている梅に伊右衛門はそっと近づき、その肩に左手を置き、右手で梅のあごすくい上げた。

 が、次の瞬間。伊右衛門はこの世のものとは思えない程、恐怖に引きった叫び声を挙げた。


「ぎゃー。お、お、お、お前は・・・」

 

 突然、自分を見ておびえ出した伊右衛門に驚きつつもなだめようと、手を伸ばす梅。


「伊右衛門様?どうなさいました?」

 

 その手を振り払う伊右衛門。


「く、来るな。岩・・・」

「岩?私は梅でございます。伊右衛門様」

「ち、違、違うんだ。コレは、」

「伊右衛門様?」


 逃げる伊右衛門。それを追う梅。


 伊右衛門の目には梅の姿が岩に見えていた。それも、顔の半分が焼けただれ、目もくぼみから落ちかけ、さくらんぼの様であった唇も半分が崩れ落ち、見るも無惨むざんな姿になっていたのである。


『伊右衛門どの・・・。何故なぜ、お逃げになりますの?』

「ち、違う、違うんだ・・岩」

貴方あなたの愛しい妻はこの岩のはず・・・』

「く、く、来るな。この、化物っ」

『化物・・・酷いわ・・・こんなになってしまったのは貴方の所為せいなのに・・

 私の・・美しかった白肌も焼けただれて、漆黒しっこくの黒い瞳も・・ほら・・落ちそう・・・

 べにを引かなくても赤かった唇も・・・見て、崩れてしまって上手に言葉を話せないわ・・

 酷いのは貴方あなたなのに・・・何故なぜ・・冷たくするの?』

「わ、悪かった。俺が悪かった。だから、岩。たのむから、じょ、成仏じょうぶつしてくれ」

成仏じょうぶつって?・・私・・生きているわ・・』

「違う、違う。お、お、お前は死んだんだ。岩」

『・・・何故なぜ?・・』

「お、お前がの、飲んだお茶には毒がはいって、入っていたんだ」

『・・・本当に?・・』

「お、おれが入れたんだから、ま、間違いないっ」


 うずくまり、うめき出す岩。その声は、毒によりかすれていて、とても十九の娘の出すものではなかった。


『・・伊右衛門どの・・岩は・・貴方を・・愛しておりましたのに・・』


「お、俺だって、あいっ愛していたさ。だが、お前は・・」


 うらめしそうに伊右衛門をにらむ岩。そして、手を伸ばし近づく。


「く、来るな。来るな」

『・・酷いわ・・伊右衛門どの・・一緒に行きましょう・・』

「いやだいやだいやだいやだいやだ」


 伊右衛門は部屋中を暴れながら逃げ回る。と、手に固いものが触れた。自身の刀であった。意を決した様に硬く握りしめる。


『・・伊右衛門どの・・伊右衛門どの・・一緒に・・』


 背後に迫って来た岩を振り向き様、抜き打ちで袈裟斬けさぎりにした。


「きゃあああああ」


 だがしかし、悲鳴ひめいは梅のものであった。梅の信じられないという様な悲しげな、眼差しを受け止める伊右衛門。刀を投げ出し、梅に近寄る。


「う、梅。すまない。ああ、梅。すまない。本当に」

「・・伊右衛門様、・・本当にお岩さんを殺したのですか?」

「・・・ああ、ほんとうだ」

「酷い人・・・。でも、それほどまでに私と一緒になりたかったのですね・・。嬉しい・・」

 梅はこと切れた。


 呆然ぼうぜんとする伊右衛門の目に飛び込んできたのは、梅を切り捨てた刀であった。


「俺はこの手で、岩も梅も殺してしまった・・・」


次の瞬間、伊右衛門は自身の首を自害じがいした。





 さて、この世には地獄思想じごくしそうというものがある。

 それは、仏教の世界観で、地獄じごくはその最下層さいかそうの世界とされている。

 人は死ぬと七日ごとに、十王じゅうおうの七回のさばきを受け、最終的に最も罪の重いものは地獄じごくへ落とされるのである。

  


 五七日目いつなのかめ三十五日目さんじゅうごにちめ

 伊右衛門、岩、梅の三人は、閻魔えんま大王の前に立っていた。

「さあて、お主らか。他の十王じゅうおうさばきを手こずらせておるのは」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「伊右衛門。そなたの罪は殺生せっしょう、盗み、飲酒(酒を使って悪事を働く、毒を盛る等)、妄語もうご(嘘)じゃ。よって大叫喚地獄だいきょうかんじごく行きじゃ。

 岩。そなたの罪は、殺生幇助せっしょうほうじょのみ。よって等活地獄とうかつじごく行きじゃ。

 梅。そなたに罪はない。よって極楽ごくらく行きじゃ。

 じゃが、それでは不満だというのだな」


 (伊右衛門が一歩前に出る)

「どうか、閻魔えんま様、聞いてください。わたしは己の欲のせいで、二人を殺してしまいました。わたしは地獄じごく行きで構いません。どうか二人を極楽ごくらくへ送ってくだされ」


 (次に岩が一歩前に出る)

「いいえ、閻魔えんま様、聞いて下さい。私の疑心ぎしんのせいで、伊右衛門どのは私を殺しました。そして、私の欲のせいで伊右衛門どのはお梅ちゃんを殺しました。私は伊右衛門どのと一緒に地獄じごくへ行きますから、どうかお梅ちゃんは極楽ごくらくへ送って下さいませ」


 (そして、梅が一歩前に出る)

「いいえ、いいえ、閻魔えんま様。それではあんまりです。私だって伊右衛門様が好きです。私はお岩さんの嫉妬しっとのせいで殺されました。それなのに、二人が一緒で私が一人なんてあんまりです。私が伊右衛門様と一緒に疑獄じごきへ行きます。私の極楽ごくらく行きの分をお岩さんにあげて下さいな。お岩さん、伊右衛門様に愛されなくて可哀想かわいそうだもの」


 (さらに岩が一歩前に出る)

「いいえ、閻魔えんま様。私は伊右衛門どのに愛されていました。疑ったのは私の方。それで小娘に一時のいやしを求めただけですわ。それを本気にしてしまうのが小娘のさが。それこそ可哀想かわいそうですもの。どうぞ、お梅ちゃんを極楽ごくらくへ送って下さいな」

「いいえ、いいえ、閻魔えんま様。どうぞ、お岩さんを極楽ごくらくへ送って下さいませ」

「いいえ」

「いいえ」


 (二人がズズズいと前に出てくる)


「えーい、二人とも落ち着け。おぬしたちの言い分は分かったわい」


 岩と梅を交互に見比べる閻魔えんま。そして、伊右衛門に向かう。


「さて、伊右衛門。二人はこうもうしておるが、お主はどうしたい」


 かまびすしい女子おなご二人に気圧けおてされか、少し情けない表情の伊右衛門。

 伊右衛門は二人を交互に見やってから、閻魔えんまに向かい口を開いた。

「わたしは、二人とも可愛い嫁だと思っております。だが、わたし自身の優柔不断ゆうじゅんふだんさや出世の欲に負けて、二人を殺してしまいました。どうぞ、閻魔えんま様、二人を極楽ごくらくへ送ってくだされ」

「ふむ。では伊右衛門。どちらか一人を選べと言われたらそなたはどちらを選ぶ。そなたが選んだ方を極楽ごくらくへ送り、もう片方かたほうはお主と一緒に地獄じごくへ行く。じゃが、どちらも選べなんだ時は、二人は地獄じごくへ行き、お主は極楽ごくらくへ行く。さあ、伊右衛門。どうする」


 この閻魔えんまの問いに伊右衛門は、何とも言いがた珍妙ちんみょうな顔をした。


 むむむ。二人とも可愛い嫁じゃが、岩を選べば梅が悲しむ。梅を選べば岩がく。

 そして、二人を選ばなんだら、わたしが極楽ごくらくへ行ける・・・

 あ、いやいや極楽ごくらくへ行かなくてはならない、と。

 むむむ。閻魔えんま様も難儀なんぎな問題を出すことよ。

 むむむ。むむむ。むむむ。


「さあ、どうする。伊右衛門よ」


 むむむ。


「さあ、さあ」


 むむむ。





 阿乃世黄泉町一丁目あのよよみまちいっちょうめ 伊右衛門の家


 (伊右衛門を真ん中にぴったりとくっついている岩と梅)


岩「ちょっと、何で貴女あなたがここにいるのよ。伊右衛門どのは私がこの世に、いえ、ここはあの世だけれど、・・ややこしいわね。兎に角、私がこっちの世に連れて来たの。離れてよ」


梅「私、その伊右衛門様に殺されたの。私に乗り移って殺させたの、貴女あなたよ。忘れた?」


 (しばにらみ合う二人)


岩「ところで、今日のお洗濯済んだのかしら?」


梅「何で、私がするのよ。言っときますけど、私と伊右衛門様は祝言しゅうげんを挙げた正式な夫婦よ。伊右衛門様から聞いたわよ。婿入むこいりしたと言っても祝言しゅうげんを挙げていないって。それって内縁ないえんの妻って事でしょ。つまり・・・めかけよね。貴女がやって」


岩「本当の夫婦になっていないくせに(初夜しょやもまだのくせに)。名前だけ夫婦」


 (再びにらみ合い)


 (居たたまれなくなった伊右衛門は首をすくめる)


伊右衛門「まあ、まあ、二人とも。仲良くやろうではないか。せっかくえんあってみんなで一緒にいるのだし・・・」


 (岩と梅はキッと伊右衛門をにらむ)


岩「この人とえんなんか作りたくなかったわよ」

梅「伊右衛門様のせいです」


伊右衛門「まあ、なんだ、ほれ。あははははは。そうだ、二人で仲良く洗濯するのはどうだ?」


岩「その間に出かけて行って、また女を引っ掛けて来るのじゃないでしょうね」

梅「そうです。ハタキで障子しょうじほこりを落して下さいな」


伊右衛門「・・はい」


 (素直にハタキを手に掃除を始める伊右衛門)

 (タライに水をみ洗濯板で着物をゴシゴシと洗い始める岩と梅)


岩「ちょっと、伊右衛門さん。この口紅なあに?お梅ちゃんなの?」

梅「いいえ、お岩さん。これ、私のべにの色じゃないもの」


 (二人、ジロリと伊右衛門をにらむ)


岩、梅「伊右衛門助様。どーゆーこと」

    (地をうような声音こわねで)

   

伊右衛門「いや、ほら。黄泉町二丁目に『スナック うつしよもどき』という店があってな。そこの女の子が鼻緒はなおが切れて、転びそうになったところを助けたんだ。その時についたんだよ、きっと」


岩、梅「スナック?うつしよもどき?」


伊右衛門「あ、いや・・・」


岩、梅「また、浮気したのー?」


伊右衛門「いやいや、あ、いや、ははは」

 (言いながら後退あとずさり、家から逃げ出す伊右衛門)


岩、梅「伊右衛門様ーーーーー」



 黄泉町二丁目まで来たが、本日は『うつしよもどき』は休みであった。

 手持ても無沙汰ぶさたになった伊右衛門は仕方無しとブラブラ散歩をする事にした。

 四辻よつつじまで来た時である。

 角で女がしゃがんでいた。


 (女に近づく伊右衛門)

伊右衛門「もし、どうされた?」


女「鼻緒はなおが切れてしまい動けませぬ」

 (顔を挙げる女。としころ二十にじゅういつつくらいか。しっとりとした美人であった。)

伊右衛門「ほう。それは大変だ。さぞ、困ったであろう」


 (伊右衛門は自身の着物のすそから手拭てぬぐいを取り出し破く。細いひもになったそれを綺麗きれいって下駄げたに通す)


伊右衛門「ほうら。出来た。さあ、いて」


女「あっ」

 (よろける女)


伊右衛門「おお、危ない。さあ、わたしにつかまって」


女「ありがとうございます。お優しい方」

 (女は伊右衛門にはかな微笑ほほえんだ)


伊右衛門「気をつけて帰るんだよ」

 (女は会釈えしゃくをし、つじの向こうへ歩いて行った)



伊右衛門「ただいま。今帰ったよ」

岩、梅「一体、何処どこに行って・・」

伊右衛門「二人に土産だよ」

 (手に抱えた花を二人に渡す伊右衛門)

伊右衛門「散歩の途中で見つけてな。綺麗きれいだから二人にと思ったんだ」


岩「あら、まあ。とっても綺麗きれいね。伊右衛門どの、ありがとう」

梅「とっても綺麗きれい。ありがとう、伊右衛門様。さっそく花瓶かびんしますね」


 (二人は御勝手おかってに向かう)

岩「貴女、何本?」

梅「五本」

岩「私、六本」

梅「私の花の方が大きいわ」



 トントン。玄関の戸をたたく音が聞こえた。


「もし・・・」

 何ともはかなげな声が聞こえて来る。


梅「どなたですか?」

 (カラカラと戸を開けた)


女「もし・・・こちらは伊右衛門様のお宅ですか?」


 (目つきと雰囲気ふんいきが変わる二人)


岩「貴女はどちら様?」


女「紫乃しのと申します」


岩「何か御用かしら、お紫乃さん」


紫乃「わたくし、先程、そこの角で伊右衛門様にお助け頂きました」


岩、梅「伊右衛門様?」


伊右衛門「あ、いや、ほら。そこの四辻よつつじの角でな。この人が困っておったのだ。話を聞けば下駄げた鼻緒はなおが切れたとか。それで・・・」


岩「伊右衛門さん、どーゆーことですか?貴方は女と見ればーーー。そりゃあ、困ってる方を助けるのは良いことですが、どうしていつも女ばっかりーーー」

(伊右衛門を追いかける岩)


梅「それで、伊右衛門様になんの御用かしら。私、妻の梅と申します」


紫乃「お礼をと思いまして。わたくしの所にお供えでお饅頭まんじゅうがありましたの。良かったら皆さんで・・・」


梅「ありがとう。お饅頭まんじゅうは頂くわ。貴女はどうぞお帰りに・・・」


伊右衛門「まあまあ、梅。折角せっかく来てくれたんだ。皆んなで仲良く頂こうじゃないか。紫乃さん、あなたも一緒にどうぞ」


紫乃「ありがとうございます。伊右衛門様。ですが、わたくしのように何処どこぞの馬の骨とも知れない女、家に上げるのは奥様方がお嫌ではありませんか?」

しなをつくる紫乃)


伊右衛門「そんな事はない。岩も梅もよく出来た女だ。訪ねて来た客人を無下むげに追い出したりはしない」


 (岩と梅はこっそりと後ろを向いた)

岩「よく出来た女と言われたらいた方無かたないわね」

梅「そうね。あの女のしなには頭に来るけど」


岩、梅「どうぞ、おあがりになって」


居間にて

卓をはさんで岩と梅、反対側に女、間に伊右衛門が座っている。


梅「お食べにならないの?」


紫乃「わたくしが持って来たんですもの。皆さんからどうぞ」


梅「そう。じゃあ、頂くわ。お岩さん、お茶をれてくださらない?」 


 (岩は梅をにらみながらも渋々しぶしぶ席を立つ。ここで喧嘩けんかするさまを紫乃には見せたくない)


梅「あ、やっぱり良いわ。私がれてくるわ。毒を入れられたら大変だもの」


岩「私は毒を盛られた方よ。伊右衛門どのにね」


伊右衛門「ははは・・・。まあ、何だ・・・」


 (伊右衛門、居たたまれなくなり饅頭まんじゅうに手を伸ばす)


 (岩はお茶の準備に御勝手おかってに向かう)

岩「まったく。伊右衛門さんにも困ったものだわ。女と見ればすぐに声をかける。お優しいのは良い事だけど、それにしてもあの女、一体何者なのよ。大体、四辻よつつじの角って、何だってそんな所に・・・え?四辻よつつじの角?」


 (ハッと気づき、急いで居間いまに戻る岩)


岩「伊右衛門どの、お梅ちゃん、お饅頭まんじゅうを食べては駄目!」


伊右衛門「ごっくん」

 (咀嚼そしゃくし終え飲み込む)

梅「ふえ?」

 (梅の口にちょうど入った所だった)

岩「出して」

 (岩、梅の口から急いで饅頭まんじゅうを取り出す)

梅「一体何ですか?ただでさえ怖いのに、もっと怖い顔して」


 (この小娘。と思いながらも岩は紫乃に向かう)


岩「お紫乃さん。貴女、何故なぜ四辻よつつじなんかにいたの?あそこは角なんかじゃ無いわ。あの世とこの世、冥界めいかい地獄じごくの分かれ道。十字路じゅうじろよ」


紫乃「・・・・」


岩「お紫乃さん。貴女、お住まいはどちら?」


紫乃「ふふふふふふ。だって、わたくし、さみしかったんだもの。伊右衛門様はお優しいわ。わたくしにちょーだーい」

 (急におどろおどろしい雰囲気ふんいきを出す紫乃)


梅「あ、あげないわよ。わたしの旦那様・・」


紫乃「もう遅い。わたくしの饅頭まんじゅうを食べたーーーーーー」


 (紫乃の叫び声と共に、強風が家をおそった)


岩、梅「きゃーーーー」(目をつむる)


 (しばらくして、ふと風が止むと、紫乃と伊右衛門の姿が消えていた)


梅「お岩さん、二人は何処どこへ行ったのかしら。どうしましょう」

岩「お梅ちゃん、行くわよ」

梅「え?何処に?」

岩「閻魔えんま様の所よ」



 かくして二人は冥界めいかいへ向かった。


冥界町一丁目冥府庁通一番地めいかいまちいっちょうめめいふちょうどおりいちばんち 冥府めいふ


 受付に小鬼こおにが座っている。

 岩と梅は番号札を取り、椅子いすに座って待つ。


 ピンポーン


小鬼「お岩さん、お梅さん、どうぞ」


岩「まったく。四時間も待ったわ」

梅「ええ、とっても疲れました。体が固まって死人のようよ」

岩「もうとっくに死人よ」

梅「そうだったわ」



 (閻魔大王えんまだいおう御前みまえに立つ二人)


閻魔「おや、見たことのある二人だな。何用だ?やはり伊右衛門を地獄じごく送りにでもしたくなったのか?」


岩「いいえ、違います。(少しはその気も無くは無いけど)伊右衛門どのが連れ去られました」


閻魔「ほお。何処どこへだ?」


岩「わかりません。先程、お紫乃さんという方が家にみえられて、彼女の持って来たお饅頭まんじゅうを伊右衛門どのは食べてしまったんです。それで、その方に連れて行かれました」


閻魔「ほほう。それはそれは。行き先は地獄じごく辺りかな」


岩「ええ。恐らく」


閻魔「それでどうしたい?」


岩「連れ戻して下さい」


閻魔「ふむ。なあ、岩、梅。こうは思わぬか。恐らく伊右衛門は地獄じごくへ行く運命なのだ。そなたたち二人のはからいで、黄泉よみ止まりにしておるが、本来は地獄じごくへ行く身なのだ。どうだ。この辺で見切りを付けぬか。さすれば、お主たちは今からでも極楽ごくらくへ送れるぞ」


岩「嫌です」

梅「私も嫌です」


閻魔「そうか。困ったのお。今は冥府めいふも忙しくてな。探しに行ける役人(鬼)はおらなんだ・・」

 (これ見よがしにペラペラと帳面ちょうめんめくって見せる閻魔えんま


岩「私たちが行きます」


閻魔「だが、二人は地獄じごくへ行く身ではないからの。無事ぶじに戻って来れるとは限らんぞ」


岩「私は半分は地獄じごく行きの身ですわ」


閻魔「じゃが、梅は違う」


岩「私が守ります」

 

 (梅、驚いたように岩を見る)


閻魔「だとしても無事ぶじに戻って来れる保証ほしょうはないぞ。それでも行くか?」


(岩と梅は顔を見合わせると、力強くうなずいた)


岩、梅「はい」


 (閲覧室えつらんしつにて、死亡者帳しぼうしゃちょうを見ている二人)


岩「これね。四辻よつつじにいたって事は彷徨さまよっているのね」


梅「彷徨さまようって?」


岩「人は亡くなると七日なのかごとに裁きを受けるのは知っているわよね。閻魔えんま様の裁きが五七日いつなのか三十五日さんじゅうごにち)に終わってから、其々それぞれ天道てんどう人道じんどう修羅道しゅらどう畜生道ちくしょうどう餓鬼道がきどう地獄道じごくどうへ行く前に少し時間をもらえるのよ。それまでに異議いぎとなえたり、身支度みじたくを整えたり、あんまり暴れる人は牢屋ろうやに入れられるだろうけど。そして七七日目なななのかめ四十九日目しじゅうくにちめ)に其々それぞれの道へ行くのだけれど」


梅「お紫乃さんも地獄道じごくどうなのね」


 (と、そこへかぼそい声が聞こえて来た)


小鬼「あの・・・もし・・」


 (振り向く二人)


梅「何か?」

岩「誰かしら」


小鬼「あの、僕・・、牢屋番ろうやばんをしている者です。さっき・・閻魔えんま様の所でのお話を聞きまして・・。その、僕が地獄じごくへ連れて行く予定だった女の人が一人、居なくなってて・・」


岩「それで?」(目つきするどく)


小鬼「多分、その人かなーって」


岩「多分って何?きっとそうでしょうよ。その人の名前は?」


小鬼「・・紫乃・・・」


岩「あなたねー。何を番してたのよ」


小鬼「はい・・・。ごめんなさい。僕、おこられるのこわくて黙ってたんですけど、その人・・地獄じごくへ行ったんですね。良かった・・」

(ホッと胸をで降ろす小鬼)


岩「ちょっと待ちなさい。だから良いってもんじゃないでしょー。私たちの夫が連れ去られたのよ」


 (小鬼涙目になって岩を見る)

「でも、でも、その人・・元々、地獄じごく行きの・・ひと・・」


岩「そういう問題じゃないのよー。まったく近頃の若い鬼は」


 (あ岩、ズイっと小鬼に詰め寄ると、胸ぐらをつかんだ)

 (悲鳴ひめいをあげる小鬼)


岩「あんた、一緒に来なさい」


小鬼「え?」


岩「閻魔えんま様にあんたの失敗、報告されたくなかったら、一緒に地獄じごくへ探しに行くのよ」


小鬼「えー?そんな・・・」


岩「つべこべ言わない。お梅ちゃん、行くわよ」


梅「お岩さん、ううん、お姉さん、カッコいい」


岩「伊達だてに長く生きてないの」


梅、小鬼、岩「・・・」全員沈黙。



 ここはあの世である。



岩「さあ、行くわよ」


 かくて三人は地獄じごくへと降りて行った。




 一方、その頃、地獄じごくでは


伊右衛門「あのう、紫乃さん。ここは何処どこだい?」


紫乃「ふふ。地獄じごくよ」


 それまでの清楚せいそ雰囲気ふんいきとは打って変わって、あやしげな空気をまとう紫乃。それに少し怖気付おじけづく伊右衛門であった。


伊右衛門「あ、いや。いつ、家に帰れるのかな?」


紫乃「伊右衛門様、わたくしの事、お嫌い?」


伊右衛門「いや、そんな事はないが。そなたは美しい」


紫乃「それじゃあ、ずっとわたくしと一緒にいてくれる?」


伊右衛門「そうだな。あの二人が良いと言ってくれたら、良いんだが・・・」


紫乃「いや。今はわたくしと二人だけなんだから、わたくしの事だけ考えて下さいまし」


 (紫乃、伊右衛門の胸にしなだれかかる)




岩「ちょっと小鬼。あなた、お梅ちゃん守ってよ。この子わね、誰も殺してないし、嘘も言ってないの。本当に地獄じごくへ入れない身なんだから」


梅「お岩お姉さん・・・。梅は感動しております」


小鬼「あの、じゃあ、この人は極楽ごくらくへ行ける人なんですね」

 (一瞬にして、目の色が変わる小鬼)

 (それを見逃さず岩が言う)

岩「だーかーらー。小鬼。お梅ちゃんに手を出したら・・・」

 (岩も雰囲気ふんいきをガラッと変えて)

岩「のろうわよ」

 (地獄じごくの底から聞こえるようなかすれた声で恫喝どうかつした)


小鬼「あわわわわ。わ、わ、わかりました。所で、あの、僕、名前があるんです」


岩「何?」


小鬼「胡鬼って書いて、『こぎ』です。だから、あの、そう呼んで・・」


岩「わかったわ、胡鬼。その代わりに、他の鬼たちや他の罪人ざいにんから手出しされないように守りなさいよ」


胡鬼「はい」


梅「お岩お姉さん、ありがとう。私、お姉さんの事、大好き」


 岩(この子も何だかんだれっぽいのかしら)


岩「じゃあ、伊右衛門さん、私にくれる?」


梅「嫌です。それとこれとは別です」(にっこり)


岩「お梅ちゃん、しっかりしてるわね」


梅「はい」(満面まんめんの笑みであった)



岩「お紫乃さんの居場所いばしょ何処どこかしら。胡鬼、あなた知っているでしょう」


胡鬼「はい。あの方は、愛人さんと無理心中むりしんじゅうなさいました。その際に、相手の方に嘘を吐いて(妄語もうごの罪)、お酒に毒を盛ったんです(飲酒の罪)。挙句、その事に気がついた相手のご兄弟にも包丁でりつけて、怪我けがを負わせているので、灼熱地獄しゃくねつじごくにいますね」


岩「灼熱しゃくねつ・・・。まったくもう」



灼熱地獄しゃくねつじごく 紫乃の住処すみか


伊右衛門「あの、紫乃さん。・・こんな事を言うのも何だが、少し離れてくれないか。あの二人に見つかったら・・」


紫乃「いや。そんな事仰らないで」

 (紫乃、何処どこか遠い目をする)

紫乃「わたくしが愛したあの人も、わたくしから離れていこうとしたの。ずっと一緒にいようと、愛してるよと言ってくれたのに・・・」


伊右衛門「そうか。気の毒に・・・」


紫乃「だから、・・・伊右衛門様。一緒に地獄じごくで・・暮らしましょうよ・・」


 (辺りの雰囲気ふんいきが急におどろおどろしくなる。部屋が炎に包まれ出した)

 (伊右衛門 術にでもかかったようにどこか遠くを見つめている)


紫乃「一緒に・・炎に焼かれましょうよ・・」



胡鬼「あ、あの家です」


岩「行くわよ」(走り出す)


 岩が離れると、辺りから餓鬼がき悪鬼あっき亡者達もうじゃたちが集まり出した。

「・・・その女を寄越よこせ・・・」

「・・・極楽ごくらくへ・・行けるぞ・・」

「・・寄越よこせ・・」

「・・寄越よこせ・・」


胡鬼「あわわわわ」

 (一生懸命に蹴散けちらす)


梅「きゃあ。来ないで下さいまし」

 (ちょっぴり涙目になりながら、手で払いける)



紫乃「さあ、一緒に・・・」

 (紫乃の肉体にも炎がついた)

 (紫乃の手が伊右衛門の顔に触れようとしたその時)


バン! ー戸が開くー


岩「待ちなさい」


 岩と紫乃は炎の中、対峙した。


岩「ちょっと、あんた。よくも人の亭主ていしゅをこんな所に連れて来たわね」


紫乃「わたくしと一緒にいてくださるとおっしゃってくれたわ。優しい方だもの」


岩「言わないわよ。優柔不断ゆうじゅんふだんなんだから、伊右衛門さんは。確かに優しいわよ。その優しさが間違いっぱなしだけど」


紫乃「貴女、伊右衛門様に殺されたのでしょう?うらみに思わないの?」


岩「うらんだわよ。

 この人は、私を殺す時、苦しいのは可哀想かわいそうだからと、毒の量を減らしたのよ、馬鹿だから。そんな事をしたら余計に長く苦しむじゃない。おまけに自分の飲ませた毒の所為せいで私の顔がくずれていくのを見て、折角せっかく綺麗きれいな顔が可哀想かわいそうにとのたま始末しまつ。本当に馬鹿なんだから。挙げあげくてに、長く苦しんでは可哀想かわいそうと、刀でり殺したのよ。二度も殺したのよ。この人は、私を。それなのに、私の死体を家の床下に隠して、初七日しょなのかが過ぎて四十九日しじゅうくにちもまだなのに、お梅ちゃんと祝言しゅうげんを挙げて。・・・だから、お梅ちゃんに乗り移ったの。

 伊右衛門さん大層たいそう驚いた顔をしていたわ。でもね、フッと悲しい顔をしたのよ。自分がちゃんと殺さなかったばかりに彷徨さまよって出てって。ここでも馬鹿な事を言ってたけど。そして、もう一度、私は殺されたの。


 ね、伊右衛門さんは私のものでしょう。・・・貴女の愛しい人は、貴女をうらんでくれた?」



紫乃「うっ・・ううっ・・呻」

 (おどろおどろしい雰囲気ふんいきたっぷりにうめく)


 (そこへ、胡鬼に守られた梅が到着した)


梅「伊右衛門様っ、きゃっ」

 (炎に驚く梅)

 (梅の声にハッと我に帰る伊右衛門)

伊右衛門「おお、梅。こっちへおいで」


梅「はい」


 (梅を抱きしめる伊右衛門)


伊右衛門「無事だったか?」

梅「はい。お岩お姉さんとこの胡鬼が守ってくれましたから」

伊右衛門「おおそうか。胡鬼、ありがとうな」


 (胡鬼、ここで感動)

胡鬼「僕、僕、お礼を言われたの・・初めて・・。伊右衛門様🖤」



紫乃「・・おのれー・・」


岩「うらまれてもいない。そして、貴女が今、ここにいるという事は・・わかるでしょ」


紫乃「・・だ・・ま・・れえ・・」


 (紫乃の怒りによって風が巻き起こり、炎の勢いが更に強くなる)


 (岩、かんざしを外し、髪を振り乱した。現れたのは、半分焼けただれた恐ろしい顔)


 (しばらにらみ合っていた二人だが、フッと悲しげな表情になる岩)


岩「地獄じごくおきて閻魔えんま大王の浄玻璃じょはりの鏡の間において裁きを受けた後、聞かされるから知っているでしょう。

 自分の罪の減刑げんけいは訴えれない。出来るのは他者の罪のみ。私とお梅ちゃんは伊右衛門さんの。お梅ちゃんは伊右衛門さんと私の。伊右衛門さんは私の。其々それぞれ閻魔えんま様に願い出たの。

 だから、私たち黄泉町よみまちで暮らせているのよ。

 でも、貴女は・・。お紫乃さん、貴女、可哀想かわいそうね」



 (フッと嵐が収まり、いつの間にか炎も消えていた)


紫乃「ううっ、ううっ。私は・・私は・・ただ、あの人と一緒にいたかっただけ・・。わかっていたのよ、身勝手みがってな思いと・・」


 (胡鬼、紫乃を連れて行く)




ー数日後ー


阿乃世黄泉町一丁目あのよよみまちいっちょうめ 伊右衛門の家


 (黄泉よみ新聞に目を通してる梅)

梅「お紫乃さん、少し、罪が軽くなったみたいですね」

岩「そりゃあ、私たちが嘆願たんがんしてあげたんだもの」

梅「あれ、嘆願たんがんって言います?」



 地獄じごく番人ばんにん十王じゅうおう閻魔えんま大王を前にして


岩「いえね、何も地獄じごくの役人が失敗をしたとか言ってるんじゃないんですのよ。ただ、そもそも、この事件は、小鬼の胡鬼がお紫乃さんを逃さなければ、起こらなかったのじゃないかしらと思いまして。もちろん、裁きの後で逃げ出してしまったお紫乃さんにも罪はありますよ。でも、魔がさすって言葉がございますでしょう。そえれを防ぐ為に、地獄じごくの番人がいらっしゃるのだと思っております。もちろん、こんな事、閻魔えんま様に改めて言うことではないどしょうけど。いいえ、胡鬼が悪いと言ってるのじゃないのです。あの子は、一生懸命番をしていたでしょうし、ウチの可愛いお梅ちゃんの事も守ってくれました。

 ただ、・・・ですから全部が全部、お紫乃さんが悪いわけでもないと思いますのよ。

 もちろん、こんな事情は百も承知しょうちの閻魔様に言う事ではないでしょう・・」


(閻魔大王、うんざりした顔をしている)

閻魔大王「わかったわかった。岩、そなたの執念深しゅうねんぶかさには辟易へきえきするわい。伊右衛門はよくこの女子おなごを嫁にしたな・・・」


岩「何かおっしゃいまして?」


閻魔大王「いや。ううん(咳払い)

 判決を言い渡す。今回の紫乃の地獄騒動じごくそうどう不問ふもんしょする。並びに、紫乃の愛人への一念いちねんは余りにも強く深い。って愛のための嘘は許されるとして、減刑げんけいを組む」


 梅の回想終わり


梅「・・恫喝どうかつ・・」

岩「何か言った?」

梅「いいえ」

岩「そうよね。はい、お梅ちゃん、お茶」

梅「ありがとうございます。お岩お姉さん。私、この間、黄泉よみスーパーで羊羹ようかん買っておいたんですよ。出しますね」

岩「伊右衛門さんも呼びましょうか。何処どこかしら」

梅「お庭にいません?この間、お紫乃さんが壊した戸を直してくれてるはずですけど・・」

岩「居ないわよ」

岩、梅「・・・・」

 (誰もいない庭を見ている岩と梅。と、家の表から声が聞こえる)



家の表にて


伊右衛門「いやあ、奥さん。お料理が上手で旦那さん、喜ぶでしょう」


奥方「あらあら、お上手だ事。伊右衛門様も綺麗きれいな奥様と可愛かわいたしい奥様と二人もいて、果報者かほうものうわさですよ」


伊右衛門「いやあ、ははは・・・」


奥方「ほほほ」


 (伊右衛門、家に入ってくる)


岩、梅「伊右衛門様ーーー」


伊右衛門「いやあ、ご近所付き合いだ、ほれ」


岩、梅「絶対、あわよくばと思ったでしょう」


(二人に追いかける回される伊右衛門)



日々是好日 世はなべて事もなし。。

            春野 鶯

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